マーケティングオートメーション(MA)の利用が日本でも年々進んでいるなか、導入を検討している会社も増えているでしょう。ツールを選定するにあたり、製品ごとの機能比較だけでなく、実際に利用している企業がどのようにツールを活用しているのかなど、導入事例も自社での利用イメージを描くのに役立ちます。
そこで本記事では、実際にMAを導入した企業の導入背景や課題、MAによりどのように業務が改善したのかについて、各社の事例を業種別に紹介します。今回とりあげるテーマは人材サービス業界です。
そのほかの業界別マーケティングオートメーション事例はこちらをご覧ください。
株式会社プロコミット(HubSpot)
株式会社プロコミットは、採用支援や転職支援を行っている企業です。ベンチャーやスタートアップ企業と転職希望者とのマッチングや、自社で構築できる採用サイトシステムの提供などを行っています。
MAを導入する前は、自社のコンテンツをきっかけにサービスに誘導し、そこから転職のエントリーをしてもらうという施策を行っていました。
しかし、転職希望者は検討期間が長く、登録してもすぐに転職とはならないため、最初の接触でニーズがマッチしていることや、登録以降も適切なコミュニケーションを続けることが重要です。そのために必要なのはインバウンドマーケティングではないかと考えた同社は、実現に向けてHubSpotを導入しました。
導入後はまず、BtoCである転職者向けのサービスから着手しました。自社コンテンツの人気記事の最後に転職者が興味を持ちそうなコンテンツを置き、ダウンロードボタンを設置することで、訪問客を見込み客に転換する施策を行いました。
HubSpotのCMSやSNS連携機能を使うことで、それまでは制作会社に依頼していたWebの更新を自社で行うことができるようになり、SNSの投稿もHubSpotから可能になりました。それにより、外注費を抑えると同時に作業効率が大きく改善しました。コストと時間のリソースが削減された分、インバウンドマーケティングに本格的に力を入れることが可能になりました。
その後、BtoCで培ったノウハウをもとに、BtoBサービスでもHubSpotでの施策に着手しました。企業の採用担当者をターゲットとし、配信したメールのクリック先によりどのコンテンツに興味を持つのかをトラッキングしたり、eBookのダウンロードページの案内やセミナーの集客を行ったりなど、あらゆる施策をHubSpotで管理をしていきました。
このような運用を続けた結果、導入前と比較し、見込み客の獲得が1年で3倍増加しました。
その後、HubSpotのセールスツールやCRMも導入し、現在はセールスとマーケティングそれぞれのベースにHubSpotを利用しています。今後は、顧客満足度向上にもHubSpotの活用を検討しています。
株式会社ギブリー(Satori)
株式会社ギブリーは、HR Techや採用支援などのITを活用した「成長支援事業」を行っている企業です。
同社では、「エンジニアのスキルを可視化する」というサービスの拡販が急務でした。広告やテレアポなどを実施しましたが、今までにないサービスであることから、まずは認知度をあげること、そして自分事として感じてもらうことが不可欠だと実感しました。そのためにはテレアポなどのアウトバウンドではなく、インバウンド施策により見込み客の育成(ナーチャリング)を行う必要があると考え、新サービスのサイト立ち上げを機に、MAを導入することを決めました。
MAの選定においては複数のツールを比較した結果、コストと導入スピードの点からSatoriを採用しました。設定がシンプルな点や、個人情報をとる前の見込み客に対しても行動履歴がとれる点などが採用の理由でした。
導入後はまずシナリオを複数パターン実施しましたが、あまり効果があがりませんでした。そこで、メール送信後の見込み客の行動を分析し、それをもとにサイトを改善しました。ダウンロードコンテンツを増やしたり、コンテンツ自体を見直したりなど改善を続けました。また、特定のコンテンツにアクセスした見込み客に対し営業担当者から電話でアプローチするというシナリオパターンも複数設定しました。
このような施策の結果、リード獲得数が導入後3か月目に前月比4倍を達成。テレアポの外注をやめ、インバウンド施策にシフトすることでコストの削減にもつながりました。今後はインサイドセールスも設置し、営業をサポートしていくコンテンツやシナリオをさらに強化する予定です。
株式会社ネオキャリア(Kairos3)
株式会社ネオキャリアは、新卒や中途採用のキャリアコンサルティングなどの人材関連事業を中心に展開する企業です。
以前より求職者の満足度を高める仕組みが必要と感じていた同社では、管理システムのリニューアルと同時にMAの導入を検討し始めました。過去の調査により、求職者の満足度を高めるには、最適なタイミングで接触することが重要だとわかっており、それにはMAが向いているのではと考えたためです。
ツールの選定では、自社の管理システムと連携が可能で、会員登録や予約・面談の情報と連携できるという条件をもとに探しました。その結果、初期費用が安く従量課金という点からKairo3を採用しました。
導入後は、求職者の属性タイプによって表示する内容を変えるなど、コンテンツの出しわけを実施。また、面談をキャンセルした人に対して再予約を案内するなど、複数のシナリオメールも設定しました。
スコア機能も活用し、スコアの動きやWebの行動履歴をもとに電話をすべきか判断するようにしたところ、以前より電話をしてお礼を言われる機会が増えるようになりました。
このような施策の結果、メールの反応率が導入前と比べて1.5倍、電話の通話率が約2倍に向上。施策の内容や人員は変えずに効果をあげることに成功しました。今後はさらに地域別やニーズ別などシナリオのパターンを増やしたメールを配信していくことを検討しています。
株式会社パソナ(Marketo)
株式会社パソナは、人材派遣や人材紹介および再就職支援など、就職や転職に関してさまざまなサービスを展開している総合人材サービス企業です。
人材業界では、売り手市場により優秀な人材の獲得が困難になっているうえ、長期的に転職を考える求職者が増えてきている傾向にあります。同社も同じような課題を抱えており、登録したまま活動のない休眠顧客を有効に活用できていないという点も課題に感じていました。
適切なタイミングで適切な情報を届けることで、見込み客との中長期的な関係を築くことが不可欠と考えた同社では、そのためのツールとしてMarketoを導入することとなりました。
導入後まず実施したのは、すぐに転職の意向はない登録者へのフォロー体制の設置です。それまでは各アドバイザーが行っていましたが、転職活動の長期化に伴い業務が増えているのが問題でした。
そこで、メールや電話による面談のスケジュール業務を、それまでの手動作業をやめ、Marketoで自動化するように設定しました。また、しばらく連絡が途絶えた登録者や転職を中断した登録者へのメール連絡もMarketoで設定し、返信があればアラートを飛ばす仕組みとしました。そのほかにも、シナリオに沿ったメール配信や求職者の行動の変化を逃さない仕組みを育成のプログラム機能を使って構築しました。
このような施策の結果、求職者の面談設定率が対前年比で1.5倍増加、面談から3カ月以上経った求職者の転職成功率が1.7倍にまで向上しました。また、面談から5カ月以上経った人の転職成功数の割合が25%を占めるなど、活動が長期化している求職者との間にも関係が構築されていることが数値として表れてきました。
このように導入後数か月で効果をあげられた要因は、現場を巻き込む体制を構築して導入を進めたことです。
メールの内容やアラートのタイミングなど、自動化する施策に関して現場の意見を反映し、施策の実施中もシナリオに改良を加えていくようにしました。
その後、採用側の法人向けサービスにもMarketoを展開。コンテンツのダウンロード数や求人の相談が増えるなど、徐々に効果が表れています。
まとめ
今回は人材サービスに注目して、MAの活用事例を紹介しました。人材サービス業界の特徴として、個人(BtoC)と法人(BtoB)の双方を顧客にもつ点があります。
今回の事例のように、見込み客に対して長期的な関係づくりが必要なBtoCと、法人を顧客とするBtoBは、どちらもMAを活用したインバウンドマーケティングに向いています。人材業界だけでなく、購買や意思決定までの検討期間が長く、個人と法人どちらに対してもサービスを提供している企業はぜひご参考ください。
人材サービス以外の業種については、下記の記事でMAの導入事例を紹介しています。こちらもぜひ、ご覧ください。