目次
全9回にわたってお送りする、HubSoptのMAツールを活用したインバウンドマーケティングについて、第6回のテーマはMAツールの最も重要な機能である「スコアリングによるリードの育成と選別」です。
第3回の「3つのメディア」と、第4回、第5回の「ペルソナとカスタマージャーニー」で、インバウンドマーケティングに必要である(とされる)基本的な考え方をご紹介しました。
インバウンドマーケティングの大きなテーマに、すでにご紹介した「One to Oneマーケティングの実現」と、「営業リソースの最適化」があります。
ユーザーニーズが多様化する中、成果を得るためには、一人ひとりに最適な施策を展開する必要があります。
また、事業を拡大していくために、見込みの低い顧客に時間や労力を割くのではなく、見込みが高く、収益につながる顧客に営業リソースを割ことも欠かせません。
MAには、インバウンドマーケティングの成功に必要なこれらを実現するための機能が備わっています。
【第1回】インバウンドマーケティングとは?今さら聞けない基礎知識と実践方法
【第2回】MAツールでできること|「HubSpot」の優れた機能
【第3回】優れた戦略に必要な「3つのメディア」
【第4回】ペルソナとカスタマージャーニー(1)
【第5回】ペルソナとカスタマージャーニー(2)
【第6回】スコアリングによるリードの育成と選別
【第7回】インバウンドマーケティングによくある誤解と失敗する理由
【第8回】マーケティングファネルと自動化(ワークフロー)の活用方法
【第9回】HubSpotを用いたインバウンドマーケティング1年計画
リードの育成(ナーチャリング)と選別(クオリフィケーション)
AIDMAやAISASといった顧客行動プロセスを紹介した記事にあるように、ユーザーの行動や感情の変化は多様化しています。
ですが、インバウンドマーケティングを計画するうえで知っておくべきことは1つだけです。
それは、「魅力的なコンテンツによって創出(ジェネレーション)したリードを、いかに効率的にアプローチするために選別(クオリフィケーション)し、効果的に顧客へと育成(ナーチャリング)するか」ということです。
まずは今出てきた、リードに対するジェネレーション、クオリフィケーション、ナーチャリングについて、基本的な理解と活用を考えていきましょう。
リードジェネレーションの理解と活用
リードジェネレーション(見込み客創出)とは、自社の商品・サービスに興味関心がある「見込み顧客(リード)」を獲得するための、様々な施策や戦略を意味します。
より具体的には、見込み客の名前やメールアドレスなど、1対1のコミュニケーションの実現、今後の施策に必要な情報を取得するための施策です。
後述する「リードナーチャリング」、「リードクオリフィケーション」や、今回のテーマである「スコアリング」は、どれも見込み顧客(リード)に対する施策です。
そのリードを生み出すリードジェネレーション段階で躓くと、その後の施策がうまくいきません。
しかし、HubSpotをはじめとするMAツールには、リードを獲得するための機能が数多くあります。
例えば、パソコンでこの記事を読み進めると「主要Web広告の特徴を一目で把握」というポップアップが表示されると思います。
これはHubSpotの「ポップアップフォーム(旧:リードフロー)」という機能を使用しています。
名前とメールアドレスを入力していただくだけで、主要Web広告について学べる資料をダウンロードしていただけます。通常のお問い合わせフォームの何倍ものユーザーが、このフォームを送信しており、見込み客と接点を持つ重要なポイントになっています。
ポップアップフォームやチャットボットといったMAツールの機能を活用することで、従来よりも多くのリードを獲得することができます。
そして、そのリードに対して、次のステップである「リードナーチャリング」と「リードクオリフィケーション」へとつなげていきます。
リードナーチャリングの理解と活用
リードジェネレーションで獲得した「見込み客(リード)」を「優良顧客(ロイヤルカスタマー)」へと育て上げるための施策や戦略を、リードナーチャリングといいます。
名前とメールアドレスを知っているだけの見込み客と1対1のコミュニケーションを行い、購入や申し込みにつなげる、そして関係を継続してもらうことを目的にしています。
インバウンドマーケティングの基本は、「見込み客自らに自社の商品・サービスを見つけてもらい、顧客と1対1のコミュニケーションをとることで優良顧客へと育て上げていく」ことです。
リードナーチャリングがインバウンドマーケティングで最も重要な部分といっていいでしょう。
もちろん、HubSpotにもリードナーチャリングを行うための機能が数多くあります。
「コンタクト管理」で見込み客の状況・状態を把握することはもちろん、「ワークフロー(ユーザーの行動に基づく施策を自動化する機能)」を活用した、最適な内容・タイミングで送るメールマガジン、ユーザーの興味関心や行動に基づいて表示するコンテンツを出し分ける「スマートコンテンツ」など、1対1のコミュニケーション、つまり「One to Oneマーケティング」を実現させることができます。
どれも非常に複雑な機能で、成果につなげるにはある程度の知識や戦略が必要になります。イメージしやすいように、スマートコンテンツを体験してみましょう。
- まずは、下記ページにアクセスしてください
入力フォーム:https://lp.ibis.gs/hsseminar - DEMOです。というページが表示されていると思うので、「姓」「Eメール」「【セミナー用】好きな料理」を入力してください
- フォーム送信が完了したら下記ページにアクセスしてください
確認ページ:https://lp.ibis.gs/hsseminar-food
いかがでしょうか。入力したあなたのお名前と、選択した料理が表示されたページになっていると思います。
スマートコンテンツとは、アクセスしたユーザーの情報によって、ページの内容を変更する機能です。
今回はフォームに入力いただいた内容に基づいて、同じページにアクセスしても異なるコンテンツが出るようになっています。
具体的な活用方法としては、ECサイトなどで頻繁に閲覧している商品カテゴリや過去の購入履歴に基づいて、トップページのキャンペーンバナーを変更したりといったことがあります。
リードクオリフィケーションの理解と活用
MAの目的の一つに、営業活動、マーケティング活動の効率化・最適化があります。
リードクオリフィケーションとは、スコアリングをはじめとする様々な評価軸に基づいて、数ある見込み客の中から、より見込みが高いユーザーを選出することを意味します。
営業活動において、「誰に、いつ、何を」は重要なテーマです。
リードクオリフィケーションを行うことで、見込みが高いユーザー(誰に)、興味関心が高まっているタイミング(いつ)、興味を持っている分野(何を)を判断することができます。
リードクオリフィケーションでは、HubSpotに導入されているミクロ解析(ユーザー個人の行動に基づいたアクセス解析)や、見込み客の情報・状態・状況を管理するコンタクト管理といった機能に加えて、今回のテーマでもあるスコアリングが重要になってきます。
HubSpotの真骨頂「スコアリング」の理解と活用
それでは、今回のテーマである「スコアリング」に入りたいと思います。
スコアリングとは、見込み客のWebサイト上での行動や様々な情報に基づいて、その見込み客に点数をつけていく機能です。
Webサイト上のあらゆる行動を点数化することができ、問い合わせ情報を自動で点数に反映したり、営業が商談結果や感触を手入力で点数付けたりすることもできます。
実際にどんなことが点数化できるのか例を見てみましょう。
スコアリングの例:ECサイト
ECサイトは、商品カテゴリ、商品詳細、キャンペーンなど、ページ数が多くユーザーの行動も活発になります。会員情報には名前、住所、年齢など詳細なプロフィール、過去の購入履歴など、豊富なデータがあります。
そのため、ありとあらゆるスコアリングが考えられます。いくつか考えてみましょう。
- 行動:メールマガジンの受信を許可している
- 点数:2点
- 理由:新商品やキャンペーンへのニーズが強いと考えられるため
- 行動:同じジャンルの商品を5回以上閲覧している
- 点数:5点
- 理由:検討の最終段階に入っていると考えられるため
- 行動:クレジットカード情報を登録している
- 点数:7点
- 理由:クレジットカード登録者の平均顧客単価、購入回数が高いため
- 行動:1か月間に3品以上購入している
- 点数:15点
- 理由:非常にニーズが強く、注力すべきユーザーと考えられるため
- 行動:平均購入金額が1万円以上である
- 点数:10点
- 理由: 成約単価が高く、注力すべきユーザーと考えられるため
- 行動:3回以上の返品リクエストがある
- 点数:-20点
- 理由:トラブルの原因であり積極的にアプローチするとリスクがあるため
上記の設定をしたうえで、ユーザーAとユーザーBが次のような行動をした場合、スコアはどのようになるでしょうか。
- ユーザーAの行動とスコア
- 会員登録の上、クレジットカードで購入
- └クレジットカード登録 +7点
- └メールマガジン許可 +2点
- 一週間後に再訪問し欲しい商品を数点比較 +5点
- 継続的に利用し1ヵ月で5つの商品を購入 +15点
合計スコア:29点
- ユーザーBの行動とスコア
- 会員登録の上、コンビニ払いで購入
- 一か月間に2万円の商品を3回購入 +25点
- いずれも購入後に返品リクエストを送信 -20点
合計スコア:5点
このように、ユーザーそれぞれの行動に基づいて点数をつけ、「〇点以上の人には××をしよう」といった活用が可能になります。
スコアリング例:BtoBサイト
ECサイトのように商品が多く、行動が活発なサイトはわかりやすいですが、BtoBサイトの場合はどうでしょうか。
営業活動が重要になってくるBtoBでは、サイト上の動きだけではなく、営業との連携も重要になってきます。
- 行動:販売資料Aをダウンロード
- 点数:5点
- 理由: 有力商品の資料であれば、営業戦略において重要な顧客であると判断できるため
- 行動:企業規模が従業員数300人以上である
- 点数:10点
- 理由: 商談成立時の金額が大きいと期待できるため
- 行動:担当者が課長職以上である
- 点数:10点
- 理由:決裁権の有無・稟議スピードなどに優位性があると考えられるため
- 行動:提出見積額が1000万円以上である
- 点数:15点
- 理由:担当営業が注力してクロージングに向かって動く必要があるため
- 行動:打ち合わせ成果が良好または不良であった
- 点数:-10~+10点
- 理由:数値化できない営業の感触を反映させるため
- 行動:電話・メールによるコンタクトが3回以上つながらなかった
- 点数:-10点
- 理由:営業リソースを割くべきではないと考えられるため
営業による商談がベースにあるBtoB企業では、マーケティング部門と営業部門との戦略統一が課題にあります。
しかし、Web上の行動に限らず、手動設定やデータベースとの連携によってもスコアリングを設定できるため、営業の“感触”“見込み”と、行動データを「スコア」という一つの指標に落とし込むことができます。
結果、マーケティングはどういった戦略をとるべきか、営業に何を伝えるべきかが明確になり、営業も誰に注力すべきかを論理的に判断できます。
また、HubSpotは企業データベースと連結しているため、問い合わせが発生すると自動で、問い合わせ企業の従業員数や売り上げ規模などの情報を知ることができます。
スコアリング例:BtoCサービスサイト
次に旅行や飲食、音楽ストリーミングサービスといった、BtoCのサービスサイトの場合を考えてみましょう。
こうしたサービスでは営業活動の効率化よりも、ユーザーが興味を持っている分野を正確に把握することが重要になります。
- 行動:Twitterアカウントをフォローしている
- 点数: 3点
- 理由:ファンと考えられるため
- 行動:サービスAページでの5分以上滞在時間している
- 点数: 5点
- 理由: 特定商品へのニーズが強いと考えられるため
- 行動:週に10回以上訪問している
- 点数: 10点
- 理由:熱心なファンと考えられるため
- 行動:定額プランを利用している
- 点数: 15点
- 理由:売り上げが発生しておりアップセルが期待できるため
- 行動:カスマターサポートへの架電数が月5件以上
- 点数: -10点
- 理由:サポートセンターの負担になり、関係継続が難しいため
スコアリングは一つの軸ではなく、複数の軸に分けることができます。どういうことかというと、カテゴリAを見ている人、カテゴリBを見ている人それぞれに5点を与えていても、「カテゴリAのニーズ」と「カテゴリBのニーズ」というそれぞれの軸に点数を与えることができます。
この機能により、ニーズが複数に分かれていてもそれぞれに最適な評価を与え、施策に活用できます。
スコアリング例:メディアサイト
最後に、Grabのようなメディアサイトの場合を考えてみましょう。
インバウンドマーケティングの成功ではオウンドメディアの活用が欠かせません。オウンドメディアが中心となってリードの獲得や育成を行うため、適切なスコアリングが成功のカギとなります。
- 行動:週5回以上訪問している
- 点数: 2点
- 理由:メディアの内容に興味を持っているため
- 行動:読了率80%以上である
- 点数: 2点
- 理由:メディアの内容に興味を持っているため
- 行動:投稿記事をTwitterでシェアする
- 点数: 5点
- 理由:ファンであり、メディアの成長に協力的であるため
- 行動:LINE@の友達になる
- 点数: 7点
- 理由:ファンであり、メディアの成長に協力的であるため
- 行動:チャットボットを利用している
- 点数: 10点
- 理由:メディアだけでは満たせないニーズを持っているため
- 行動:Twitterのフォロワー数が5万人以上
- 点数: 15点
- 理由:関係を築くことでメディアの成長を促せるため
メディアサイトでは、ユーザーの興味関心やそのジャンルへのリテラシーを知ることができます。
そのため、細かなスコアリングでも積み重ねることで、そのユーザーが興味のある分野やロイヤリティの強さなどを測ることができます。
また、メディアを成長させるにはユーザーの協力が不可欠です。そのユーザーが業界で影響力を持っている(インフルエンサーである)場合は、SNSでシェアを促すなど、積極的な施策に活用できるでしょう。
スコアリングをリードナーチャリングとリードクオリフィケーションで活用
ここまで、スコアリングの例を業種別に紹介しました。
スコアリングは、作りこめばウェブ上のあらゆる行動を点数化することができます。また、在庫管理システムや受注処理システムといった外部サービスと連携することもできます。
さらに、営業の打ち合わせの感触など、これまで数値化しようのなかったものも視覚化することができます。
スコアリングはどのようにインバウンドマーケティングに活かせるのでしょうか。
業種、業界はもちろん、サイトの構造や保有しているユーザーデータなどによって様々なので、ここでも具体例をいくつか紹介しましょう。
スコアリングの活用:スコアによってメールマガジンを送りナーチャリング
メディアサイトなどのスコアリングでは、「スコアの高さ=ユーザーの興味関心や関係の強さ」ということができます。
そこで、リード獲得からロイヤリティの形成までのシナリオを作り、それぞれに「〇点の時は○○という施策をとる」のように設定することができます。
このシナリオがうまくいけば、リード獲得からそのメディアサイトの熱心なファンになるまでを自動化することができます。
これはメディアサイトに限らず、興味の強さが測れるスコアリングを設計すれば、どんな業界でも使うことができます。
スコアリングの活用:スコアを起点にリードを選別&通知
これは見込み客に対して担当営業がついているBtoB企業で特に有効な活用方法です。
1人の営業が提案中のクライアントを複数持っている場合、どこからクロージングに向けて動けばいいのかわからなくなってしまいます。
そんな時、役職や見込み売り上げ、そしてWeb上での行動に寄るスコアリングで、明確な優先順位をつけることができます。
また、「提案中のリードのスコアが60点を超えたら担当営業に通知」、「提案中でスコアが低いリードに対してはメールマガジンや資料送付を行う」といった自動化機能を組み合わせることで、営業活動を効率化することができます。
スコアリングの活用:スコアによってプッシュ施策の切り分け
これはECサイトなどで活躍する例です。
過去の購入履歴からユーザーが興味を持っている商品カテゴリを把握し、それに関するメールマガジンを送ることができます。
リードAは、訪問頻度は多いが購入回数が少ない顧客です。興味関心は十分高まっているが、まだ何かに悩んでいる、検討していると考えられます。そこで、リードAがアクセスしてきた際には割引情報を出すと購入につながるかもしれません。
リードBは訪問回数や購入単価は少ないものの、購入回数は非常に多くなっています。こうした顧客にはより高価格帯の商品や合わせ買いを訴求することで、購入単価の向上を図るといいでしょう。
【第6回】スコアリングによるリードの育成と選別
今回は、HubSoptのMAツールを活用したインバウンドマーケティング第6回ということで、リードジェネレーション、リードナーチャリング、リードクオリフィケーションという3つの段階、そしてそれらを高い精度で、自動的に行うための「スコアリング」をテーマにお送りしました。
これらの機能は多くのMAツールに導入されていますが、戦略をたてたり、設計したりすることが難しく、導入が失敗に終わる要因にもなり得ます。
おそらく、この記事だけを読んでスコアリングについて完全に理解することは難しいでしょう。
また、今回様々なスコアリング例を紹介しましたが、それが正解というわけでもありません。実際に運用してみて、スコアリングとユーザーのニーズがマッチしているかを確認して、常に精度を高めていく必要があります。
メディアサイトのスコアリング例を紹介しましたが、Grabで実際に設定しているスコアリングは異なります。
ただ、HubSpotをはじめとするMAツールには、「Web上の行動や外部データなどによって、見込み客を点数化する機能がある」ということを知っていただけたらと思います。
次回は、MAが、マーケティング・オートメーション(マーケティングの自動化)と呼ばれる理由でもある「ワークフロー」という機能を紹介します。
スコアリングの活用例で紹介したものにも、ワークフローを使ったものが多くあります。
スコアリング以上に複雑な概念ですが、一度設定してしまえばあらゆるマーケティングキャンペーンを自動化し、最小限の手間で最大限の成果を狙うことができます。
HubSpotを活用したインバウンドマーケティングのシリーズ記事は下記のリンクからご覧いただけます。ぜひ、参考にしてください。