公開日:2018年11月30日/更新日2022年6月21日

全9回にわたってお送りする、HubSpotのMAツールを活用したインバウンドマーケティングについて、第3回は優れた戦略に必要な「3つのメディア」をご紹介いたします。

第1回ではインバウンドマーケティングの全体像・概念について、第2回ではインバウンドマーケティングを実現するためのMA(マーケティングオートメーション)の機能について、ご紹介しました。

今回からはより深く、「戦略を立てるために」「成果を上げるために」必要な考え方を紹介していきます。

インバウンドマーケティングでは、多様化する顧客のニーズ・行動に対応できる戦略が求められます。一昔前のように「広告を打てば顧客が集まる」という時代ではなくなり、「顧客に合ったメディアでアプローチする」重要性が高くなりました

今回紹介する「3つのメディア」とは、「ペイドメディア」「オウンドメディア」「アーンドメディア」です。3つのメディアはそれぞれ作成者が異なり、第2回で触れた「リードジェネレーション」「リードナーチャリング」の適性にも違いがあります。

インバウンドマーケティングの成功には、多様化した顧客行動を理解し、この3つのメディアを戦略的に使いこなすことが欠かせません。

トリプルメディアとは?

トリプルメディア(3つのメディア)とは、企業のマーケティング活動にかかわるさまざまなメディアを、3種類に分類・整理したフレームワークのことです。

トリプルメディアは下記の3種類で構成されています。

  • ペイドメディア(Paid media)
  • オウンドメディア(Owned media)
  • アーンドメディア(Earned media)

簡単に違いを説明すると、ペイドメディアは広告出稿するメディア、オウンドメディアは自社運用するメディア、アーンドメディアはユーザーが作るメディアです。

トリプルメディア

トリプルメディアのそれぞれについて概要と長所・短所、リードジェネレーション・リードナーチャリングへの適性を解説します。

メディア(1)ペイドメディア

ペイド(お金を払う)メディアとは、企業が費用を支払って広告掲載するメディアです。主にテレビやラジオ、新聞、雑誌といった従来型のメディア、リスティング広告やSNS広告、DSP広告といったWeb広告、スポンサーシップによって掲載してもらえるイベントやサイトなどがペイドメディアに分類されます。

ペイドメディア

ペイドメディアの長所は「お金をかければ顧客に届く」ということです。ディスプレイ広告で非認知層に商品やサービスを認知させたり、リスティング広告等で直接成果を狙ったり、テレビCMなどでブランディングしたりと、様々な目的に活用できます。

様々なメディアがあふれかえり、無数のメッセージが飛び交っている現在では、自社のメッセージを届けることは簡単ではありません。しかし、広告を活用すれば確実に自社のメッセージを届けられます。

ペイドメディアの短所は、継続的に費用がかかることと、コミュニケーションが一方通行になってしまうことです。

従来のマーケティング戦略では広告戦略、つまりペイドメディアをいかに活用するかが中心でした。認知の獲得から成約獲得・LTVの最大化まで、すべて広告が担っていました。しかしあらゆる企業が広告を出稿するようになり、Web上のいたるところに広告があふれかえっている今では、広告だけで成約獲得やLTVの最大化を狙うことは難しくなっています。

そのため、インバウンドマーケティングでのペイドメディアは「認知獲得」や「オウンドメディアの育成」に特化して使われています。

メディア(2)オウンドメディア

オウンド(自分たちの)メディアとは、ブログサイトのように、自社が保有し運用するメディアを指します。もともとは「自社が保有している」という意味で、パンフレットやオフィシャルサイトなどもオウンドメディアと呼ばれていました。

インバウンドマーケティングにおいては、自社のブログサイトやソーシャルメディアのアカウントなどが分類されます。また、メールマガジンやLINE公式アカウントもオウンドメディアに含まれます。

オウンドメディアの長所は、自社主導で情報を発信できることです。例えば、広告(ペイドメディア)では伝えきれなかった商品の詳細な情報、開発ストーリーや担当者の想いなどを伝えられます。

豊富な情報、自分たちの伝えたい情報を自由に伝えられる一方、既存顧客への情報発信が中心となり、新規顧客、潜在顧客へアプローチが難しいという短所があります。そのため、ペイドメディアを使った新規顧客へのアプローチをバランスよく活用していくことが重要です。

オウンドメディアの役割は、顧客、見込み顧客に自社の商品・サービスのことを理解してもらう、興味を深めてもらうことにあります。つまり、インバウンドマーケティングの「リードナーチャリング」で非常に重要となってくるメディアです。

以前、インバウンドマーケティングについて紹介した「“見込み顧客”の心をつかむコツ」で、「優れたコンテンツ」「魅力的なコンテンツ」がいかに重要かを伝えました。

その「魅力的なコンテンツ」を掲載するのは、オウンドメディアが中心になります。

インバウンドマーケティングの成功には、このオウンドメディアと、次に紹介するアーンドメディアでの戦略が肝になります。

メディア(3)アーンドメディア

アーンド(信用や評判を獲得する)メディアとは、SNSや口コミサイトのように、ユーザー自身の声によって作り上げられるメディアです。インバウンドマーケティングを提唱したHubSpotでは、アーンドメディアを次のように定義しています。

アーンドメディアとは、簡単に言うと口コミで獲得したメディア露出のことです。自社が公開した素晴らしいコンテンツ、SEOの取り組みによる効果、提供したカスタマーエクスペリエンス、あるいはその組み合わせなど要因はさまざまですが、「結果として獲得したメディア上の認知」がアーンドメディアになります。
(引用:HubSpotマーケティングブログ「アーンド・オウンド・ペイドの定義は?トリプルメディアの違いを解説」)

アーンドメディア

最大の長所は、ユーザー自身の声であるため他のユーザーの共感を惹きやすく、信用されやすいということです。また、SNSが持つ拡散力により、いわゆる“バズる”と呼ばれる状況にもつながる可能性があります。

アーンドメディアを効果的に活用できると、費用をかけなくても広く認知させられ、多くの新規顧客・潜在顧客にアプローチできます。

一方でアーンドメディアは、ユーザー主体であるため企業主体のコントロールが利かないという短所があります。また、望まないメッセージが勝手に拡散され、“炎上”につながる可能性もあります。

アーンドメディアは、新規顧客を獲得するリードジェネレーションで活躍することはもちろん、信頼を得ることでリードナーチャリングもスムーズになります。

自社主体のプロモーションでアーンドメディアを活用するには、より良い商品・サービスを提供することはもちろん、アフターサービスの充実、既存顧客へのアプローチが重要になります。

アーンドメディアの活用では、既存顧客に対して「Twitterでシェアしてくれたら10%オフ」のようなキャンペーンを実施したり、チャットツールによってアフターサービスを効率的に行ったり、MAの機能を有効に活用したりすることが重要です。

「トリプルメディア」の考え方

ペイドメディア・オウンドメディア・アーンドメディアの3つのメディアは、完全に別個のものというわけではありません。それぞれのメディアが互いに影響し合い、情報の流れやユーザーの行動といった動きを作り出すという考え方こそが、「トリプルメディア」の重要なポイントです。

例えば情報の流れで見た場合、大元となる情報の発信者はオウンドメディアです。オウンドメディアだけでは情報の拡散速度が遅いため、ペイドメディアを活用して多くのユーザーに情報を届けます。最新情報を確認したユーザーは、SNSなどのアーンドメディアを介してより多くのユーザーへと情報を発信するでしょう。

アーンドメディアでの露出が増えれば、リピーターのファン化が促進され、オウンドメディアで発信される情報を直接閲覧しに行くなど、導線の強化につながります。

トリプルメディアの考え方

このように、3つのメディアは互いに影響し合い、互いの短所も補い合っています。どれか一つに力を注げばいいのではなく、どれもバランスよく活用していくことが欠かせません。そのため、これらのメディアは単体で考えず、「トリプルメディア」という単位で考える必要があります。

PESOモデルとは

トリプルメディアという考え方は2010年ごろに登場しました。そのため、「もう古い」「現在では通用しない」という意見も見られます。

最近ではトリプルメディアに代わる新しい考え方として「PESO」モデルが登場し、注目を集めています。

PESOモデルとは、トリプルメディアの考え方に新しく「シェアードメディア」を加えて、メディアの分類をより細分化したモデルです。4つのメディアから頭文字を取って、「PESO」と呼ばれています。

  • ペイドメディア(Paid media)
  • アーンドメディア(Earned media)
  • シェアードメディア(Shared media)
  • オウンドメディア(Owned media)

PESOモデルをトリプルメディアと比較したとき、ペイドメディアとオウンドメディアの役割に大きな違いはありません。

しかし、アーンドメディアの役割には大きな違いがあります。トリプルメディアのアーンドメディアが、PESOモデルではアーンドメディアとシェアードメディアの2つに分けられるのです。

「シェアードメディア」とは

シェアードメディアは、SNS・口コミといったユーザー同士で共有・拡散が行われるメディアのことです。シェアードメディアの主体はユーザーであり、リアリティのある情報を発信できる長所と、情報のコントロールが難しい短所を持ち合わせています。

「アーンドメディア」とは

アーンドメディアとは、PR・パブリシティなど第三者の視点で情報発信が行われるメディアのことです。アーンドメディアは口コミサイト・まとめサイトを運営する企業やインフルエンサーによって作成され、シェアードメディアよりも情報発信に特化しています。

PESOモデル

アーンドメディアとシェアードメディアに分かれた理由は、トリプルメディアの考え方が主流だったころよりも、ユーザーが利用するメディアの幅が広がったためです。

古くからあったTwitterFacebookに加えて、LINEInstagramTikTokなどのSNSが次々と登場し、ユーザーの情報発信の場は急速に整備されました。「ユーチューバー」や「インスタグラマー」など、マーケティング戦略で注目を集めているインフルエンサーたちが登場し始めたのも比較的最近のことです。

PESOモデルを活用する場合は、従来のペイドメディア・オウンドメディアに加えて、アーンドメディアでの情報発信も視野に入れる必要があります。個人のユーザーで構成されるシェアードメディアが存在することにも留意して、誠実かつ誤解を生まない情報発信を心がけましょう。

PESOモデルとマーケティングオートメーション

トリプルメディアとPESOモデルの考え方には、どちらも「ユーザー行動が多様化し、一つのメディア戦略では効果が出にくい」という背景が存在します。

行動の多様化・メディアの増加が加速している現在においては、メディアを分類し、互いの影響を踏まえて戦略を立てるPESOモデルの考え方は重要です。

マーケティング戦略にPESOモデルを活用する際は、それぞれのメディアに対応した施策を実施・管理しなければなりません。MA(マーケティングオートメーション)ツールは、PESOモデルの施策管理に適しています。

最後に、MAツールでPESOモデルを管理・活用する具体的な方法を2つ紹介します。

MAツールはあらゆるメディアを一つのプラットフォームで管理する

HubSpotをはじめとするMAツールは、ブログ、オフィシャルサイト、メールマガジン、SNSなど、あらゆるメディアを一つのプラットフォームで管理できます。メディアの枠を超えたユーザー行動を把握・評価するためには、MAツールの導入が欠かせません。

メルマガ登録者とSNSのフォロワー、LINE公式アカウントの友達は、それぞれ別のプラットフォームで管理しているのではないでしょうか?そのためメルマガ登録者がSNSでもフォローしてくれていたり、最近メルマガが届かなくなったユーザーが、実はLINE公式アカウントに友達登録してくれていたりなどの、メディアを跨いだ管理はできません。

メディアを跨いだ管理はできない

しかし、MAツールのコンタクト管理では「メディアをまたいだ顧客」を連携して管理できます

コンタクト管理の機能については、前回の記事をご覧ください。MAツールによって連携できるメディアは異なりますが、多くの場合はAPIを発行しているため、少しの開発コストで連携させられます。

MAと各メディアの連携により、例えば次のようなことが可能になります。

  • 自社のTwitterアカウントで頻繁にいいねしてくれるユーザーが、ブログサイトを訪問した際に「リツイートでプレゼント」のバナーを表示
  • LINE公式アカウント登録者・メルマガ登録者には同じ内容を送り、LINE公式アカウントとメルマガ両方を登録しているユーザーには異なる内容を送る
  • 自社のURLをTwitterで投稿したユーザーがサイトを訪問した際にキャンペーンバナーを表示
  • LINE公式アカウント登録者には10点、メルマガ登録者には10点とし、両方登録してくれている場合は20点ではなく30点の点数を与える

このように、メディアをまたいだマーケティングキャンペーンを展開できることが、MAツールの強みです。

また運用コストが下がることも重要なポイントです。複数のメディアをそれぞれ管理することは簡単ではありません。そのため、企業がSNSアカウントの活用を始めたとき、運用に想像以上の手間がかかってしまい、なかなか情報を更新できないという例が少なくありません。

しかしメディアを連携して管理できるMAツールでは、一つの管理画面からブログを更新し、Twitterにも投稿するといったことが可能です。ワークフローの活用により「ブログ更新時にTwitterとLINE公式アカウント、メールマガジンに通知を出す」といった定型的な業務を自動化することもできます。

MAツールとLINE公式アカウントを連携させる

一昔前、オウンドメディアのプロモーションといえば、ブログとメルマガでした。しかしメルマガの到達率は年々下がり、マーケティング上の影響力を失っています。

そこでぜひとも活用したいメディアが「LINE公式アカウント」です。以前、「LINE公式アカウントのビジネス活用法」という記事で、LINE公式アカウントの基本的な機能と始め方についてご紹介しました。

LINE公式アカウントは、BtoCはもちろんBtoBでも影響力を高めています。

しかし、LINE公式アカウントの活用はまだまだ手探りで、試験的な導入にとどまっている企業がほとんどであることが現状です。MAツールとLINE公式アカウントを連携させると、「1週間以内に商品詳細ページを3回見た」、「購入には至っていないけど、お気に入り登録までは行った」といったWeb上での行動をもとに情報を配信できます。

LINE公式アカウントのアンケート機能とMAツールのスマートコンテンツの機能を掛け合わせることで、「Aが好きと答えたユーザーにはコンテンツA’を表示」「Bが好きと答えたユーザーにはコンテンツB’を表示」のような活用方法も可能です。

LINE公式アカウントは、今後のマーケティング戦略に欠かせないメディアです。活用方法に迷ったときやより効果的に活用したいと感じたときは、MAツールとの連携も積極的に検討してみましょう。

インバウンドマーケティングについて、HubSpotについて、もっと知りたいことや質問がありましたら、ぜひお気軽にお問い合わせください。

【第3回】優れた戦略に必要なトリプルメディアの新基準「PESOモデル」

今回は、全9回にわたってお届けする「MAインバウンドマーケティング」第3回として、インバウンドマーケティングの成功に欠かせない「3つのメディアとPESOモデル」をテーマにご紹介しました。

「PESOモデル」とは、「ペイドメディア」「オウンドメディア」「アーンドメディア」「シェアードメディア」のことです。

ペイドメディアは企業が費用を支払って広告出稿するメディアであり、オウンドメディアは企業が自社運用するメディアを指します。アーンドメディアは第三者の目線で情報発信されるメディア、シェアードメディアはユーザー同士で共有・拡散されるメディアを意味します。

4つのメディアにはそれぞれ長所・短所があり、互いに影響し合っています。PESOモデルの考え方をマーケティングに活かすためには、4つのメディアの相互作用を理解した上で、戦略や施策を立案することが重要です。

繰り返しお伝えしているように、ユーザーの行動・ニーズは多様化し続けています。圧倒的な戦略を持っていても、それが一つのメディアでしか使えないのであれば、大きな成果は期待できないでしょう。

「オウンドメディア」「ペイドメディア」「アーンドメディア」「シェアードメディア」の4つの役割を認識し、効果的に活用していきましょう。また、それぞれのメディアを効果的に活用するためには、MAツールをメディアと連携させることも重要です。

次回からは、マーケティングの具体的な戦略を立てる上で欠かせない「ペルソナとカスタマージャーニー」を、第4回・第5回の2本に分けて詳しく解説します。

HubSpotを活用したインバウンドマーケティングのシリーズ記事は下記のリンクからご覧いただけます。ぜひ、参考にしてください。

HubSpotを活用したインバウンドマーケティング【全9回】