全9回にわたってお送りする、HubSoptのMAツールを活用したインバウンドマーケティングについて、今回も引き続き「ペルソナとカスタマージャーニー」をテーマにお送りします。
前回の記事で、ペルソナとカスタマージャーニーを作成する準備段階を紹介しました。
今回はその準備が終わっている想定で進めていきますので、ぜひペルソナとカスタマージャーニー(1) を読んだうえで、この記事も読んでください。
【第1回】インバウンドマーケティングとは?今さら聞けない基礎知識と実践方法
【第2回】MAツールでできること|「HubSpot」の優れた機能
【第3回】優れた戦略に必要な「3つのメディア」
【第4回】ペルソナとカスタマージャーニー(1)
【第5回】ペルソナとカスタマージャーニー(2)
【第6回】スコアリングによるリードの育成と選別
【第7回】インバウンドマーケティングによくある誤解と失敗する理由
【第8回】マーケティングファネルと自動化(ワークフロー)の活用方法
【第9回】HubSpotを用いたインバウンドマーケティング1年計画
前回の記事でもお伝えしたように、インバウンドマーケティング成功のカギは、いかに的確なペルソナとカスタマージャーニーを作成できるかにかかっています。
今回の記事では実際にペルソナとカスタマージャーニーを作成するステップを紹介していきます。ペルソナとカスタマージャーニーを活用したコンテンツマーケティングの全体像は下記の記事で紹介しています。こちらもぜひ、ご覧ください。
▶コンテンツマーケティングとは?種類・進め方・成功事例を徹底解説
ペルソナの実例
実際のペルソナ作成に入る前に、インバウンドマーケティングを取り入れている企業がどのようなペルソナを作成しているのかを見てみましょう。
実例を見ることで、前回の準備で用意した調査結果が、どのようなペルソナになるのかイメージが付きやすくなると思います。
ペルソナ例:HubSpot
まず初めに紹介するのは、このシリーズ記事のメインツールである「HubSpot」のペルソナです。
もともとペルソナは、ユーザーのプライベートなニーズ、行動心理が見えるため、BtoC企業で多く用いられていました。しかしインバウンドマーケティングが広がったことにより、HubSpotのようなBtoB企業においてもペルソナを設定する例が増えています。
HubSpotは複数のペルソナを設定していますが、代表的なものに「Marketing Mary(マーケティング担当のマリー)」という女性がいます。
英語で書かれているので、彼女のペルソナ情報を翻訳してみましょう。
- 【基本プロフィール】
- プロのマーケター(ヴァイスプレジデント、ディレクター、マネージャー)
- 中規模企業(従業員25~200人)
- 小さなマーケティングチーム(1~5人)
- 商学科卒、MBA保有(バブソン大学出身)
- 42歳、既婚、2人の子供(10歳6歳)
- 【目標】
- 販促品やリードを営業担当に引き渡しサポートする
- 社内コミュニケーションのマネジメント
- ブランド認知の獲得
- 【課題】
- タスクが多すぎる
- 目標までの道筋が不明瞭
- マーケティングツールとチャネルが混ざっている
- 【HubSpotが好きな理由】
- 使いやすくて、仕事や生活をシンプルにしてくれるから
- インバウンドマーケティングについて大切なことを学べるから
- 営業担当やCEOに対して簡単にレポーティングできるから
HubSpotのペルソナは、シンプルで無駄がなく、マーケティングに必要な情報が揃っています。「HubSpotが好きな理由」という項目があることから、新規ではなく既存顧客のLTV最大化、カスタマーエクスペリエンスの向上を目的としたペルソナであることがわかります。
実際にHubSpotを使ってみると、マーケティング担当のマリーが持つ目標、課題といったニーズにマッチした機能が用意されていることがわかります。
このように、ペルソナはマーケティング戦略だけでなく、より優れたサービスの開発にも貢献します。
ペルソナ例:健康食品
引用:https://contents-seo.ne.jp/
こちらは健康食品のペルソナ例です。非常に細かく設定されており、マーケティング戦略に役立つ情報が数多くあります。
例えば、利用しているSNSや読んでいる雑誌、情報収集の手段などからは、プロモーションを行うべきメディアが見えてきます。
現在の状況や認知レベルからは、ランディングページやオウンドメディアで訴求すべきコンテンツが見えてきます。
このペルソナをステークホルダーで共有しておけば、戦略からデザイン作成まで、非常にスムーズに進むでしょう。
ペルソナ例:Grab
こちらはGrabのペルソナです。ペルソナというと、商品・サービスに対して考えることが中心ですが、ブログやSNSといったオウンドメディア単体でも考えることできます。SNSマーケティングに力を入れている企業では、SNSごとにペルソナを設定することもあります。
このペルソナが描くGrabのターゲットは「Webのことで困っている人」です。Grabでは、このペルソナが抱く悩みや困りごとを解決するコンテンツを多く出しています。
ペルソナの作成ステップ
それでは、ペルソナの作成ステップを見ていきましょう。
ペルソナ作成には様々なメソッドがありますが、ここでは上記でも紹介したGrabのペルソナ作成時に使用したステップを紹介します。
コンセプトを決める
まずはペルソナの軸となるコンセプトを決めます。ここでは「誰に何を提供するのか」がメインになってきます。あまり細かな情報を考える必要はありません。
Grabであれば、次のような感じです。
「Web広告、マーケティングについて困ったことを解決するメディア」
また、弊社のサービスサイトである「広告手帳」であれば次のようなコンセプトが考えられます。
「Web担当者が最適なWeb広告を簡単に探せるサイト」
また、HubSpotであれば次のようなコンセプトになるでしょう。
「見込み客を惹きつけ、リードに転換し、顧客化を促す、マーケティング担当者だけではなくステークホルダー全員のためのインバウンドマーケティングソフトウェア」
こうしたコンセプトはそのままサイトタイトルやサイトの紹介文に利用できます。また、ペルソナを考えるうえで最も基本となるプロフィールでもあります。
ぜひ自社の商品・サービスについて、「誰に何を提供するのか」を考えてください。
基本プロフィールを考える
次に基本プロフィールを考えていきます。基本プロフィールとは、年齢、性別、職業、趣味、興味など、商品・サービスを問わず重要になってくる情報です。
ここでは、3C分析の顧客分析で見えてきた情報が中心になります。
この段階で「良いペルソナが思い浮かばない!」と悩んでしまうことがあると思います。
そんな時は既存の顧客情報から考えたり、社内のだれかを参考にしましょう。
多くの商品・サービスにおいて、それを提供する社内のスタッフが理想的な顧客像であることは少なくありません。
また、ペルソナを1人に絞る必要もありません。どうしても1つのプロフィールに絞れないのであれば、複数のペルソナを作成しましょう。
ペルソナの数は多くても5つ程度といわれています。多すぎると施策のコンセプトがぶれ、コンテンツやプロモーションにも魅力がなくなってしまうからです。
自社のマーケティングに必要な情報を加える
最後に自社のマーケティングに必要な情報を加えます。
自社のマーケティングに必要な情報とは、例えばBtoB企業であれば「役職」「決裁権の有無」「企業規模」などが考えられます。
Grabでは、この項目として「業務上の課題」「業務上のゴール」「チャレンジしていること」「ブックマークしているサイト」「業務上必要としている知識・スキル」を加えています。
これらはすべてGrabで配信していくべきコンテンツのアイデアに繋がります。
ファッション・アパレル関係であれば、「好きなブランド」や「ひと月に洋服に使う金額」「読んでいるファッション誌」などが考えられます。
ペルソナシートに落とし込む
ここまでで出てきた情報にペルソナの顔写真などを加え、ペルソナシートに落とし込みます。形式にこだわる必要はないので、自由に作りましょう。
HubSpotの例のように少しデザインを入れてもいいですし、Grabの例のようにExcelで簡単に作成することもできます。
ペルソナに顔写真を入れるのは、イメージしやすくするためです。ペルソナは、コンテンツのアイデアを出すとき、集客のプロモーションを計画するとき、常に意識する存在です。
個人的な情報や顔写真を用いて、ステークホルダー全員に共通のイメージが浮かぶようにしましょう。
カスタマージャーニーの実例
ペルソナができたら、そのペルソナがどのように行動し、どのような感情で顧客になるのか、熱心なファンになるのかをカスタマージャーニーに落とし込んでいきます。
まずは、カスタマージャーニーの実例をいくつかご紹介します。
ペルソナと同じく、様々な企業が違ったノウハウ、違った形式で作成しています。見た目は様々ですが、どれもインバウンドマーケティングを成功させるために考えられた、「見込み客を顧客、優良顧客へと育てていくための道筋」です。
カスタマージャーニー例:HubSpot
こちらはペルソナ例でも紹介したHubSpotのカスタマージャーニー例です。
ユーザーのステージを「認知」、「検討」、「決断」の3つに分け、それぞれのステージに対して「行動」、「求める情報」「コンテンツの種類」「重要な単語」「具体例」が設定されています。
「求める情報」はそれぞれ、認知ステージでは「第3者による口コミ」、検討ステージでは「課題を解消する方法」、決断ステージでは「最終判断用の資料、データ、基準」となっています。ステージ分けは最低限ですが、BtoBに必要なものが含まれ、「コンテンツの種類」でどういった形式、手段で届けるのかが明確になっています。
カスタマージャーニー例:旅行代理店
画像:https://webtan.impress.co.jp/e/2013/11/14/16305
こちらは旅行代理店のカスタマージャーニー例です。きれいに図式化されているため、マーケティングに詳しくないステークホルダーでも簡単に理解できるようになっています。
非常にシンプルでありながら、ユーザー行動が把握できる優れた事例です。プロモーションに落とし込むことも簡単で、旅行代理店はこのカスタマージャーニーで描かれた行動がスムーズに発生する施策をとればよくなっています。
最終フェーズが「宿泊地を評価」になっていることも、インバウンドマーケティングにおいては重要なポイントです。
カスタマージャーニー例:飲食店向けのコンサルサービス
こちらは飲食店向けの集客コンサルティングサービスのカスタマージャーニー例です。この例では、縦軸に行動、思考、感情だけでなく、タッチポイントやKPI、提供価値、顧客が感じるリスクを加えています。
こうした指標や要素を組み込むことで、実際のプロモーションに落とし込みやすくなっています。
カスタマージャーニーの中に「提供価値」という項目はオウンドメディアを運用する際に重要になってくるため、インバウンドマーケティングではぜひ入れたい要素です。
ユーザーが欲する情報、感じる価値は、ステージによって異なります。各ステージでの提供価値をあらかじめ考えておくことで、オウンドメディアでどんなコンテンツを作成するかが明確になります。
カスタマージャーニーマップの作成ステップ
それでは、カスタマージャーニーの作成ステップを見ていきましょう。
すでに紹介した実例からもわかる通り、見た目や形式は様々です。しかし、必要な情報や考え方は共通しています。
大切なことは、最初のコンタクトからクロージングまでを時系列でステージ分けすることと、マーケティングの肝となる情報(接点など)を盛り込むことです。
また、カスタマージャーニーは複雑化しがちなので、要点を絞りきれいに見た目を整えることも重要です。
顧客行動のステージを設定する
まずは、カスタマージャーニーの主軸となるステージを設定します。
顧客行動のステージとは、顧客との初回接触から顧客、優良顧客に至るまでの大きな流れを指します。
HubSpotの例であれば、認知→検討→決断というシンプルな3つのステージに分けられています。
旅行代理店の例では、「フェーズ」という言葉を使っていますが、検索→決断→行動→評価という4つのステージになっています。
飲食店向けのコンサルサービスでは、認知→興味→関心→成約というAIDAやAIDMAに近いステージ分けを使用しています。
ここでは、顧客行動プロセス編で紹介した「AISAS」や「SIPS」といったフレームワークを活用していくことができます。
顧客行動フレームワークは、カスタマージャーニーに落とし込める顧客行動を一般化したものです。
こうしたフレームワークを一部自社用にカスタマイズするだけで、カスタマージャーニーに必要なステージが出来上がります。
ステージの数や内容にルールはありません。自社の購買フローにのっとり、最適なものを設定しましょう。
顧客の行動・思考・感情を想像する
次に、顧客の各ステージでの行動・思考・感情を考えます。
例えば、認知のステージでは、ペルソナは何らかの課題を持っているはずです。
その時、ペルソナは感情を抱いているでしょうか?
何を考え、どんな行動をとるでしょうか?
例えば、明確な悩みがありそれを解決する商材の場合、「検索」という行動が考えられます。
どんな気持ちで、どういったキーワードで検索するかを考えましょう。
ファッションのように課題と解決が明確に結びついていない場合、SNSを見ていて偶然見つけるかもしれません。
その場合は「SNSの閲覧」が行動になります。それだけでは施策のイメージが浮かばないため、「TwitterかInstagramか」「どんな投稿を見たのか」「誰の投稿を見たのか」といった情報を加え、具体的にしていきましょう。
顧客との接点を明確にする
次に、各ステージでの接点を考えていきます。ここでは、前回紹介した「接点の競争軸」をメインに考えていきましょう。
接点の競争軸で、他社と競合しないユニークな接点を見つけたと思います。
その接点の強みが行かせることをベースに、各ステージでどういった接点をとるかを考えていきます。
接点はWeb上だけでなく、必要に応じて営業マンや店先での看板なども考得ましょう。
ファッションブランドであれば、認知や興味関心のステージで店先の看板やショーウィンドウが活躍するでしょう。
また、「どこで接点を持つか」に加えて「どうやって接点を持つか」「何で接点を持つか」も考えておきましょう。
その接点はWeb広告で届けるのか、自然検索なのか、SNSなのか、またランディングページなのかブログなのか、SNSの投稿なのかといった情報が見えてくると、実際に施策を行う際の方向性やタスクが明確になります。
具体的な提供価値を考える
最後に、提供する価値を考えていきます。ここでは、前回紹介した「価値の競争軸」をメインに考えていきましょう。
価値の競争軸は、競合他社には出せない独自の価値です。ここまで考えられているカスタマージャーニーはあまりありませんが、コンテンツが重要になってくるインバウンドマーケティングでは、各ステージでの提供価値を考えることが非常に重要になってきます。
提供価値はカスタマージャーニーを次のステージに移動させるものでなければなりません。
「認知ステージのユーザーはどんな価値を提供すれば、検討ステージに移動するか?」
「検討ステージのユーザーはどんな価値を提供すれば、購入ステージに移動するか?」
各ステージに対して上記のようなことを考え、顧客にとって価値のあるコンテンツのアイデアにつなげましょう。
カスタマージャーニーマップに落とし込む
ここまでで出てきた情報をカスタマージャーニーマップに落とし込みます。
カスタマージャーニーマップの形式は様々ですが、比較的汎用性のあるものをこの記事の最後にダウンロードしていただけるので、ぜひ参考にしてください。
ポイントは情報のブラッシュアップと図式化です。
ここまでの作成ステップで、かなり多くの情報が手元にあると思います。これをそのままマップに落とし込むと、複雑で分かりにくいものになるかもしれません。
カスタマージャーニーマップをがちがちに固めすぎると、その後の施策に柔軟性がなくなり、かえって成果を制限してしまう可能性があります。
情報をブラッシュアップしてシンプルにすることを意識しましょう。
また、感情や思考、行動などは文章ではなく図式化することも大切です。
感情や行動の変化がイメージしやすく、マーケティングの専門家ではないステークホルダーにも理解してもらいやすくなります。
【第5回】ペルソナとカスタマージャーニー(2)
今回は、前回に引き続き「ペルソナとカスタマージャーニー」をテーマにお送りしました。
前回もお伝えした通り、インバウンドマーケティング成功のカギは、いかに的確なペルソナとカスタマージャーニーを作成できるかにかかっています。そのため、2回に分けてお送りしました。
今回紹介した実例やステップは、前回の3Cや競争軸の分析で得た情報を、ペルソナ、カスタマージャーニーという形にするだけです。そのため、今回の記事でわからないことがあれば、前回の準備段階をもう一度読んでみてください。
次回のテーマは「リードナーチャリングとリードクオリフィケーション」、そして、MAツールを有効活用するために欠かせない「スコアリング」をテーマにお送りします。
リードナーチャリングとリードクオリフィケーションでは、第3回の3つのメディアと第3回、第5回のペルソナとカスタマージャーニーを、MAツールの機能として落とし込む方法を紹介します。
HubSpotを活用したインバウンドマーケティングのシリーズ記事は下記のリンクからご覧いただけます。ぜひ、参考にしてください。
▶HubSpotを活用したインバウンドマーケティング【全9回】
今回出てきたペルソナ、カスタマージャーニーのテンプレートを下記よりダウンロードしていただけます。
検索すれば様々なテンプレートが見つかると思いますので、ぜひ自社のマーケティング戦略に合ったものを探してみてください。