前編では文章力を磨く第一のステップとして、文章コミュニケーションとは何かを紹介しました。文章力が低い場合、この本質を“誤解”している例が多いように思います。

りんごの画像の例で紹介しましたが、コミュニケーションには発信者と受け手がいます。そしてお互いに前提条件が異なります。「世界一美味しいりんご」の画像を見せて、相手が「これは新鮮なりんごだ」と解釈してしまい、「何で伝わらないんだろう?」となっている例を紹介しましたが、文章でも同じことがおこります。

コミュニケーションはメッセージの翻訳

コミュニケーションは情報を共有することであり、そのためには自分と相手の違いを考慮する必要があります。
りんごの画像を見てどう感じるかは人それぞれです。

例えば、「正義」という言葉は広辞苑で「正しいすじみち。人がふみ行うべき正しい道。」と書かれています。しかし、人によってその定義やイメージは様々でしょう。そのことを考慮せず「正義」という言葉を使ってコミュニケーションをしていたら、メッセージが誤解されてしまいます。

後編では、まず「分かりやすい文章とは何か」を考え、分かりやすい文章を書く具体的な技術を紹介します。それを使うだけで文章はグッとわかりやすくなるはずです。
しかし、根底にあるコミュニケーションの本質を理解していないと、読みやすい文章にはなっても“伝わる文章”にはなりません。

ではまず、分かりやすい文章、伝わる文章とは何かから見ていきましょう。

【前編】文章コミュニケーションの本質|文章力を鍛える方法

分かりやすい文章とは何か

良い文章・コミュニケーションとは

文章の良し悪しは、伝えたいメッセージそのものと、分かりやすさ、理解しやすさによって決まります。

まず大前提として、伝えたいメッセージがあいまいであればどんなに文章力を磨いても意味がありません。
私が「私はりんごが好きである」ことを一生懸命書き、様々な文章術を駆使して分かりやすくしても、ほとんどの方にとって価値のある文章ではないでしょう。そもそも伝えたいメッセージがどうでもいいからです。

なので、これから紹介する様々な技術を身につける前に、価値のあるメッセージを考える能力を身につけないといけません。
しかし、ここを深堀していくと到底今回の記事では紹介しきれないので、触れる程度にしておきます。

では、伝えたいメッセージを分かりやすく伝えるにはどうすればいいでしょうか?

分かりやすい文章とは何かを知る前に、まずは「分かる」とは何かを明らかにしましょう。

【分かる (大辞林)】
①物事の意味・価値などが理解できる。
②はっきりしなかった物事が明らかになる。知れる。

大辞林には上記のようにあります。他の意味もありますが、関連する部分だけを抜粋しました。ちなみに「分かりやすい」は「平易で、理解することが簡単である。」とされています。
ここで、「理解」という言葉が出てきています。「理解」という言葉も、意味をはっきりさせておきましょう。

【理解 (大辞林)】
①物事のしくみや状況、また、その意味するところなどを論理によって判断しわかること。納得すること。のみこむこと

なるほど。「分かりやすい文章」の正体がすこし見えてきましたね。コミュニケーションの本質と合わせて考えてみると、「分かりやすい文章」は次のように言えるのではないでしょうか。

「こちらのメッセージを相手に伝え、相手と情報を共有するコミュニケーションの過程が、スムーズな文章」

分かりやすい文章=読みやすい文章ではありません。分かりやすい文章=メッセージが明確な文章でもありません。
価値のあるメッセージをスムーズに共有できる文章が良い文章です。たとえメッセージが高尚で明確でも、理解できなければ意味がありません。文章がどんなに読みやすくても、メッセージがあいまいであれば何も伝わりません。

『世界中のエリートの働き方を1冊にまとめてみた』『一流の育て方』などのベストセラー本を執筆されたムーギー・キム氏によると、文章力の高い人ほど、文章を書くこと自体よりも「理解される」ことを重視しているそうです。

分かりやすい文章の5つの要素

分かりやすい文章の5つの要素

私は日々いろいろな文章を読んでいます。本やブログ記事、テレビのテロップ、その他さまざまな仕事の資料などです。あなたも数えきれないほど多くの文章を読んでいると思います。
よく言われる文章のテクニックに、「段落を細かく分け画像を定期的に入れる」などがあります。しかし、本の多くは文字だけでも学びがあり、私たちの行動や思考に影響を与えてくれます。
一方、画像が豊富で改行が多くパッと読めてしまうのに、後で思い返すとほとんど記憶に残っていない、何も伝わっていないこともあります。

「一文は短く」というテクニックも聞いたことがあると思います。新聞見出しなどは非常に短く簡潔です。しかし、読み慣れていない人にとって簡単に理解できるとは言えないでしょう。

では、分かりやすい文章に必要な要素は何なのでしょうか?
画像を定期的に入れる、一文を短くするなども、テクニックとしては存在しています。しかしそれらは本質的に必要な要素ではありません。テクニックは、分かりやすい文章にするための一つの手段であって、分かりやすい文章そのものではないのです。

私が考える、分かりやすい文章の要素は次の5つです。

  • メッセージが明確で価値があること
  • 読み手ファーストであること
  • 読み手が適切な苦労で理解できること
  • 文章だけに頼らないこと
  • 構成や文法、用語に間違いがないこと

具体的なテクニックを紹介する前に、この5つの要素を見ていきましょう。

1.メッセージが明確で価値があること

分かりやすい文章とは、「こちらのメッセージを相手に伝え、相手と情報を共有するコミュニケーションの過程が、スムーズな文章」です。なので、まずメッセージが根幹にあります。
たった1つのメッセージを伝えるために、本一冊分の文字数が必要なこともあれば、単語一つで足りることもあります。画像一枚のほうが適切な場合もあります。

分かりやすい文章には、必ず明確なメッセージがあります。しかもそれは読み手にとって価値がある物です。
「私はりんごが好きである」というメッセージを読みやすい文章で伝えることはできます。具体的なエピソードを交えて、かなり読み応えのある記事を作ることもできます。しかし、根本にあるメッセージに(少なくとも多くの読み手にとっては)そこまで価値がないので、分かりやすい文章とは言えません。

文章を書くときは、まず何を伝えたいのか、つまり相手と何を共有したいのか、そのメッセージを思い浮かべてください。
例えば、この記事で伝えたいことは、「効果的な分かりやすい文章を書く術」です。この一言で終わってしまうこともできますが、「効果的な分かりやすい文章を書く術」をちゃんと伝えようとすると、そもそも分かりやすい文章とは何なのか、というところから始める必要がありました。
単純に文章テクニックを箇条書きにしてもいいのですが、そういう記事は他にたくさんありますし、意外と汎用性がなく、実務に活かせません。私が伝えたいことは、「記事ライティングのように、持論を持ち、相手に気付きや学びを与える文章を、効果的で分かりやすくする術」です。
このように伝えたいことを明確にすれば、どういう文章にすべきか、必要な情報は何か、どんな構成にすべきか、自然と見えてきます。

2.読み手ファーストであること

読み手ファースト

読み手ファーストとは、読み手の環境や前提条件(予備知識や価値観など)、目的を考慮するということです。
例えば、最近話題になっている「DX」という言葉があります。読み手がDXという言葉を十分認知・理解しており、自分の会社のDXを推し進める具体的な方法を求めているなら、「DXとは何か?」という説明は無駄です。具体的な方法論を先に書いた方が良いでしょう。
しかし、読み手がDXという言葉を知らないなら、まずDXという言葉の説明から始める必要があります。

読み手は、文章を読む時にある程度目算していることがほとんどです。目算とは、どれくらいの情報を、どれくらいの時間と労力で手にいて、読んだ結果自分はどうなりたいのか、といったことです。
ビジネスメールなら、5秒で内容を理解してすぐに対応したいと考えているでしょう。そのため、ビジネスメールでは簡潔さがより重要なのです。
本を読む時、そうは考えません。数時間かけて内容を理解し、自分の知識や価値観に影響を与え、人生のどこかでいい結果を生み出すことを期待しています。
新聞なら、朝の短い時間の中である程度内容を理解し、社会の流れや同僚との会話についていけるようにしたいと考えているかもしれません。なので、新聞はパッと見ただけで内容が分かるよう、簡潔な見出しを重視し、リード文で結論を端的に述べることが求められます。

読み手はその文章を何で読むのでしょうか? ブログ記事として読むのか、メールとして読むのか、本として読むのか、印刷された資料として読むのか、手書きのメモとして読むのか。

読み手はその文章をどういう環境で読むのでしょうか? 休日に時間をかけてじっくり読むのか、通勤途中にスマホで読むのか、会社のPCで仕事の合間に読むのか。

読み手はその文章を理解するために必要な知識をどの程度持っているでしょうか? 相手は大人か、子どもか、そのメッセージに必要な理論や用語を知っているか。関連するどんな知識や認識を持っているか。

読み手はどんな目的でその文章を読むのでしょか? 内容・事実を知るだけで十分か、理解して行動したいのか、自分の価値観を変えたいのか、他の人に説明する必要があるのか。

こうしたことを考えてください。この文章は、全ての人にとって分かりやすい文章ではありません。ビジネスメールとしては長すぎますし、新聞としては結論を知るのに時間がかかります。仕事の合間に読むにも時間がかかりすぎるでしょう。
しかし、ある程度時間をとり、自分の文章力を上げたいと望んでいる人にとっては分かりやすい文章になっているのではないかと思います。
もちろん、より深く学び、ライティングを専門スキルとして磨き、職能にしたいと考えている人にとっては物足りません。そういう方には、ブログ記事ではなく、本やセミナーなどをおすすめします。

3.読み手が適切な苦労で理解できること

分かりやすい文章というと、読みやすくて理解しやすい平易な文章を想像するかもしれません。しかし、それは必ずしも適切な分かりやすさではないかもしれません。
複雑な概念を説明する際に、物事を簡単にし過ぎることは危険です。肝心のメッセージが誤解される恐れがあるからです。

「ものごとはできるかぎりシンプルにすべきだ。しかし、シンプルすぎてもいけない。」と言ったのはアインシュタインですが、彼が導いた一般・特殊相対性理論についても、単純化され過ぎ正しく伝わっていない部分があります。
有名な話に、アインシュタインが相対性理論について聞かれたとき「熱いストーブの上に手を置くと、1分が1時間に感じられる。でも、きれいな女の子と座っていると、1時間が1分に感じられる。それが、相対性です」と答えたエピソードがあります。相対性理論とは何か説明するとき、この話を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。
しかしこの話はあくまでも相対性を説明するユーモアであり、相対性理論を説明するものではありません。むしろ相対性理論は、「どんな状況でも物理法則は不変である」ことを説くものです。

話がそれましたが、物事は簡単にすればいいわけではないということです。伝えたいメッセージと読み手ファーストを前提に、適切な難易度が必要です。

人は苦労した分、価値を感じます。読み手ファーストに考え、相手の目的が「自分の常識を打ち破り、新しいスキルを身につける事」であれば、ある程度負荷をかけたほうが伝わりやすいでしょう。本の中には相手の知識レベルを高めるため、あえて難しい表現を使っているものもあります。

子どもでも理解できるような簡単な文章がベストではないのです。専門用語を使うなというアドバイスも目にしますが、相手に問題なく伝わるなら専門用語は積極的に使うべきです。

「Googleで検索したときに表示される広告をクリックしてWebサイトを訪れた人に問い合わせフォーム送信などしてもらう確率を上げるため、Googleの検索サービスを使っている人が検索したときに表示される文章と、表示される条件であるキーワードを変えようと思います。」

この文章はできるだけ専門用語を省きましたが、分かりにくいでしょう。相手にWebマーケティングの知識があるなら、「Google検索広告のCVRを上げるため、出稿キーワードと広告文を変えます」で十分です。Google検索広告の話をしていることが共通認識としてあるなら、「Google検索広告の」という言葉も不要です。

読み手ファーストを忘れなければ、専門用語は使って問題ありません。新聞記事のタイトルを見れば分かる通り、略語、スラングも問題ありません。

4.文章だけに頼らないこと

文章コミュニケーションの本質|文章力を鍛える方法【第1弾】

分かりやすい文章の多くは、文章に頼りません。コミュニケーション力のある人は話し方だけでなく身振り手振り、表情にも気を使います。同様に、文章コミュニケーションにおいても、上手い人は画像や動画、フォントやその他のデザインを活用します。

人は変化があるだけで、集中力が持続します。ある程度長い文章を書く場合、必要性がなくても画像を間に挟んだ方が良いかもしれません。この記事に出てくる画像の多くはそうした役割があります。

一方、前回紹介したコミュニケーションの本質の記事では、画像を多用しています。文章力に関する記事でありながら、「りんご」や「幸せ」「老婆と若い女性」などいろいろな画像を用いてメッセージを伝えました。
文章がコミュニケーションとして優れていることを紹介しましたが、当然、映像や画像のほうが優れている場合もあります。

フォントや段組みも分かりやすさに影響します。これらは単に読みやすくなるだけでなく、伝わる内容まで変えてしまうことがあります。
AppleのサイトはAppleが独自開発したシンプルなフォントが使われています。普通のサンセリフ体にも見えますが、もしこれを全てセリフ体に変更したら、一時的にAppleの売上は下がり、多方で混乱が起こるでしょう。偽物のダミーサイトだと勘違いされるからです。
これは極端な例ですが、同じ内容でもフォントによってイメージやニュアンスが変わることを意識しましょう。

文章力を鍛えるときは、同時にデザインや心理学なども勉強してみてください。これらは、文章だけでは表現できないメッセージを伝える有益な手法です。

5.構成や文法、用語に間違いがないこと

最後に、当たり前すぎるかもしれませんが、分かりやすい文章には正確さがあります。他の要素を満たしていても、用語が間違っていたら全く違った伝わり方をするかもしれません。

文法とは、メッセージを伝わりやすくするための手段です。
この一文を単語に分解すると「文法」「メッセージ」「伝わる」「手段」などいくつかの単語とその活用形、助詞等に分解できます。これらを適切な順番で並べるルールが文法です。
細かな文法は正直どうでもいいのですが、主語の重複、助詞の誤用などはメッセージを無駄に複雑にしてしまいます。
本語の文法は、日本語を使う人の中にある共通認識です。「私は」であれば、私が主語で私が何をするのか、何を感じるのか書こうとしているのだとすぐに分かります。「私を」であれば、私が目的語で、私に対して何かしてほしい、されたことが書かれるのだと容易に想像できます。

文法はただの共通認識なので、文法がなくても伝えることができます。赤ちゃんのしゃべり方がそうですね。「まま、て、いたい」と言ったら、お母さんに自分の手が痛いことを伝えようとしているのだと想像できます。
しかし、このやり方で複雑な概念を伝えることは難しいでしょう。

構成に関しても、文法と同じくメッセージを効率的に伝える役割があります。

新聞は見出しとリード文を読めば結論が分かるようになっています。新聞を読む人は、とりあえず結果が知りたいはずです。最後まで読まないと選挙の結果が分からなかったり、日経平均株価の推移が分らなかったりすればストレスですよね。
でも、ミステリー小説は最後の1文まで結論が分らないことが求められます。冒頭でいきなり真犯人とトリックが明らかになったら読む気を無くすでしょう。

構成は伝えたいメッセージによって変える必要があります。ビジネスコミュニケーションでは、結論を最初に述べろとアドバイスされますが、それが常に正解というわけでもありません。部下を教育するのに、結論を最初に伝えていたら自分で考える力が身につかないでしょう。ミステリー小説のように、とは言いませんが、ヒントを出しながら相手に考えてもらう方が適切な場合もあります。

分かりやすい文章の技術

ここまで、分かりやすい文章とは何か、どんな要素があるかを見てきました。ここからは具体的な文章のテクニックを見ていきたいと思います。
ただし、これから紹介する文章術はどんな場面でも有用というわけではありません。ビジネスシーンには、メール、チャット、記事、レポート、提案資料、報告資料など、様々な種類の文章があります。すでに紹介したように、それぞれ読み手が求めることは違います。
なので、今回の記事で重要なのはここまでで、これから紹介する技術はおまけと思ってください。分かりやすい文章の5つの要素を満たしていれば、これから紹介する技術に反していても、それが分かりやすい文章です。

技術① 一文を短くする

技術① 一文を短くする

料理でも火を通しやすくするには適切な大きさにカットする必要がある。文章も消化しやすいサイズにカットする。

日本語は非常に便利で、「~が」「~で」をつなげることで、いくらでも文章を長くすることができます。
文章が分かりにくいと言われる人は、話し言葉のように書いているのではないでしょうか。一般に、話し言葉は長くなりがちで、それをそのまま文章にすると非常に読みづらくなります。
無理に短くする必要がありませんが、一文で多くを語りすぎないよう句読点を意識的に活用しましょう。
この文章も、「無理に短くする必要はありません。」「一文で多くを語りすぎないようにしましょう。」「そのために句読点を意識的に活用しましょう。」という三文に分けられますが、それはそれで読みにくいでしょう。

どの程度短くすると読みやすいかは、経験して勘所をつかむしかありません。
しかし、文章に慣れていない人は一文が長くなりがちなので、意識的に短くし、不必要なほど短くなっている部分を後からくっつける方が効率的だと思います。

技術②主語と述語を近づける

一文を短くすると自然に解決しますが、主語と述語の距離が遠いと読み解くのが非常に難しくなります。

「株式会社アイビスが、広告知識向上のため、7月29日にZoomを使った無料ウェビナーを開催します。」
「広告知識向上のため、7月29日にZoomを使った無料ウェビナーを、株式会社アイビスが開催します。」

上記二文は順序を入れ替えただけですが、下の方が読みやすいのではないでしょうか。「株式会社アイビス」という主語を、「開催します」という術語に近づけただけです。
もっと極端な例を見てみましょう。

「評論家の鈴木氏は、日本全国に美術館が多く建てられたが、来場者が毎年一割ずつ減っている危機的状況で、それにもかかわらず美術館を存続させることは、税金の無駄ではないかと指摘している。」

かなり読み解くのが大変ではないでしょうか。ここまでくると、メッセージを誤解される可能性が生まれます。おそらく、「評論家の鈴木氏」が「指摘している」ことを伝えたいのだと思います。しかし、「鈴木氏が日本全国に美術館を立てられた」ことに対する問題を、別の誰かが指摘しているとも読み取れます。主語と述語が離れているだけでなく、主語と熟語が複数あることによる問題です。
これを分かりやすくすると次のようになります。

「評論家の鈴木氏は次のように指摘している。日本全国に多くの美術館が建てられたが、来場者は毎年1割ずつ減っており、その運営は危機的状況にある。それにもかかわらず美術館を存続させるために税金を投入するのは、無駄ではないか。」

どうでしょうか。おそらくどちらの文章も理解はできると思います。
しかし、後者の方が「こちらのメッセージを相手に伝え、相手と情報を共有するコミュニケーションの過程が、スムーズな文章」ではないかとおもいます。

技術③能動態を使う

一般に、受動態(〜に〜された)よりも能動態(〜が〜する)のほうが読みやすく、理解しやすいといわれています。
今私は、「理解しやすい」と能動態で表しました。「理解されやすい」という受動態で表すこともできますが、そうはしていません。興味があれば、この記事の中で「する」などの能動態、「される」などの受動態がそれぞれ何回ずつ使われているか数えてみてください。圧倒的に能動態のほうが多いはずです。
ただし、文章形態として受動態より能動態のほうが優れているわけではありません。能動態のほうが読みやすい場合が多い、というだけです。

受動態「鈴木さんによってボールが投げられた」
能動態「鈴木さんがボールを投げた」

この2つはどちらも同じことを表していますが、ニュアンスは異なります。能動態を使った文章は簡潔で読みやすくなります。一方、受動態を使った文章は客観的で、行為そのものを強調することができます。そのため、学術論文などは受動態で書く場合が多いそうです。
また、能動態は書き手に対する責任を明確にします。

受動態「この事件に関する調査は実施されなかった」
能動態「この事件に関する調査は実施しなかった」

受動態の文章は責任の所在があいまいになっています。受動態は行為そのものと受け手への影響を強調してくれますが、行為を行った人は協調しません。逆に、能動態は行為を行った人を強調しますが、行為そのものや受け手の影響は強調していません。

こうした特徴を把握し、適切に使い分ける必要があります。
しかし、意識的に能動態を増やした方が読みやすくなることは間違いないでしょう。米国医師会や米国心理学会などのマニュアルでは、より直接的で簡潔明瞭かつ読みやすいという理由で、できるだけ能動態を使うよう推奨しています。

技術④助詞は勉強して使いこなす

細かな文法はどうでもいいと言いましたが、助詞はある程度勉強したほうが良いでしょう。特には「が」と「は」は日本人でも使い分けが難しい助詞です。
助詞を詳しく説明すると膨大なので、「が」と「は」だけ簡単に紹介します。

文法的な用語で、「が」は格助詞、「は」は副助詞といいます。
格助詞には「が・の・を・に・へ・と・より・から・で・や」の10種類があり、名刺と助詞にくっつき関係を表します。副助詞とは、「は・も・こそ・さえ・でも・ばかり・など・か」などで、いろいろな語に意味を添える働きがあります。

例えば、

格助詞「富士山がきれいだ」
副助詞「富士山はきれいだ」

の2つはほぼ同じ意味ですが、ニュアンスが違います。言葉で説明すると難しいのですが、「が」は「富士山」と「きれい」と関係性を表し、「は」は「富士山」に「きれい」という意味を付け加えています。

格助詞「ハンバーグがおいしい」
副助詞「ハンバーグはおいしい」

このニュアンスの違いは分かりますよね。「ハンバーグはおいしい」にはハンバーグ以外はあんまり…といったニュアンスを感じてしまいます。また、そのハンバーグではなく、すべてのハンバーグが好きという漠然としたニュアンスになります。一方、「ハンバーグがおいしい」にそうしたニュアンスはありません。
文法的には「ハンバーグ」と「おいしい」の関係性を表すか、「ハンバーグ」に「おいしい」という意味を追加するかの違いなのですが、それよりニュアンスの違いを感じ取ったほうが分かりやすいでしょう。

格助詞「このハンバーグがおいしい」
副助詞「このハンバーグはおいしい」

「この」という指示詞をつけました。ニュアンスの違いがより明確になりましたね。「このハンバーグはおいしい」といった場合、他のハンバーグは嫌いだけどこのハンバーグはおいしい、というニュアンスになります。「このハンバーグがおいしい」といった場合、他のハンバーグに対するニュアンスはなく、今食べているこのハンバーグが特別おいしい、というニュアンスになります。

ほぼ同じ意味でも、助詞の使い方でニュアンスが変わります。そして、ニュアンスの違いは分かりやすさに影響します。「昔々あるところにおじいさんとおばあさんはいました」だと違和感がありますよね。もう少し具体的な例で見てみましょう。この記事の途中に「価値のあるメッセージをスムーズに共有できる文章が良い文章です」と書きました。

価値のあるメッセージがスムーズに共有できる文章が良い文章です

「を」を「が」に変えてみました。おそらく意味は伝わると思いますが、分かりやすいでしょうか。「~が~できる」という文章は、「~が」が主語になります。つまり、「価値のあるメッセージ」自体が「スムーズに共有できる」という意味になってしまいます。価値のあるメッセージは「共有するも」のではなく、「共有されるもの」ですよね。「が」を使いたいなら次の文章が適切です。

価値のあるメッセージがスムーズに共有される文章が良い文章です

これだと文法的におかしくはありません。しかし、「が」が二回使われていて、読みやすくはありません。しかも、受動態が使われています。やはり、「価値のあるメッセージをスムーズに共有できる文章が良い文章です」が一番いいですね。

「が」や「は」に代表される助詞は、主語と述語の関係性、名刺の意味の補完といった役割があります。
「てにをは」という言葉を聞いたことがあると思いますが、これも助詞の活用方法に関するテクニックです。ぜひ勉強してみてください。

技術⑤読点に注意

続いて、読点です。「、」ですね。あまり意識して書かないと思いますが、分かりやすさを左右する大きな要因です。

例えば、

「ここではきものを脱いでください。」

はどういう意味でしょうか?

2つの解釈ができますね。

「ここで、はきもの(履物)を脱いでください。」
「ここでは、きもの(着物)を脱いでください。」

読点の位置で脱ぐものまで変わってしまいました。それくらい、読点は重要です。

「山田さんは佐藤さんと鈴木さんの息子に会った」

という文章はどうでしょうか。

「山田さんは、佐藤さんと鈴木さんの息子に会った」
「山田さんは佐藤さんと、鈴木さんの息子に会った」

読点の付け方で、シーンが大きく変わりましたね。

このように意味まで変わってしまう場合は書いていて気付くと思います。では、こちらはどうでしょうか。

「弊社は大阪の総合広告代理店株式会社アイビスです」

読みやすいとは言えませんね。

「弊社は大阪の総合広告代理店、株式会社アイビスです」

読点を入れるだけですっきりして読みやすくなったのではないでしょうか。

読点の使い方を、簡単に紹介します。

  • 文を区切る場所…文章のまとまりを区切る場所
  • 誤読を防ぐ場所…「ここではきものを」のように読点によって意味が変わる場所
  • 主語の後…特に主語が長い場合は必要
  • 修飾関係が連続する場所…「山田さんは佐藤さんと鈴木さんの息子に会った」のように「息子に会った」を修飾する用語が複数ある場合
  • 名刺を並列で書く場合…「山川海自然は素晴らしい」は「山、川、海、自然は素晴らしい」とした方が読みやすい

読点は、明確なルールがあるというより、感覚的です。多少間違っていても伝わる場合がほとんどです。どう活用すれば分かりやすくなるかは、たくさん文章を読み、書き、経験から身につけていきましょう。

技術⑥文章をスリムアップする

文章の良し悪しは長さで決まる物ではありませんが、同じメッセージが伝わるなら短い方がいいでしょう。人と同じで、文章もスリムなほうが好まれます。
無駄に長い文章を「メタボ文章」と言ったりしますが、そうなる原因は「意味の重複」「論点のズレ」「言い回し」です。一つ一つ例を見ていきましょう。

【意味の重複】

メタボな文章:
「人の話を聞くこと、人と話すこと、人が書いた本を読むこと、文章を書くことの4つはコミュニケーションの基本です。」

スリムアップした文章:
「聞く、話す、読む、書く。この4つはコミュニケーションの基本です。」

メタボな文章:
「子供のころは塾に通ったり、塾がないときはピアノを習ったり、塾もピアノもない土曜日と日曜日は友達と遊んだりしていました。」

スリムアップした文章:
「子供のころ、平日は塾とピアノに行き、休日は友達と遊んでいました」

メタボな文章:
「まず最初に伝えておきたいことは、単にコミュニケーション不足が原因なだけであるということです。」

スリムアップした文章:
「原因はコミュニケーション不足であると、最初に伝えます。」

意味の重複はいたるところで多発します。
「まず最初に」という言葉は、「まず」と「最初に」が重複しています。「腹痛が痛い」みたいなものですね。「約20個ほど」など、つい使っていませんか? 「約」と「ほど」はどちらかで十分です。「最もベストな方法」など、気を抜くとつい使ってしまいそうですね。「ベスト」には「最も」の意味があるので、不要です。

また、「~こと」「~たり」も注意しないとメタボな文章になってしまいます。こうした言葉が出てきたら、削れないか考えてみましょう。

【論点のズレ】
論点のズレは、ビジネスメールで特に多いと思います。いつまでも本題に入らないビジネスメールほどうんざりするものはありませんが、意外と多いでしょう。
例えば、「イベントが中止になりました」ということを伝える次の文章はどうでしょうか。

「○月○日のイベントですが、開催に向けてチーム一同尽力しています。しかし、部長の○○より採算が合わないのではないかと指摘がありました。また、台風が近づいているという情報もあります。集客が思うように進んでいないことも事実です。もちろん、貴社にここまで協力していただいたのですから、何としても開催したいと考え、説得を試みました。台風は仕方ありませんが、集客はなんとしても目標値を達成するため、さらなる施策を考えています。しかし、採算面の不安、台風の懸念、集客目標の進捗といった理由から、今回のイベントは中止することになりました。」

かなり無駄ですよね。「○月○日のイベントは中止になりました。理由は~」で十分です。

【言い回し】
分かりにくい文章は言い回しがクドいです。

「メールするようにします」
「発注することを考えています」
「この業界においては~」
「すぐに報告したいと思います」
「~していただくことができます」

などなど、意味がありそうで特にない言葉が散見していませんか?これらを次のように変えるだけで、文章がスリムになります。

「メールします」
「発注を考えています」
「この業界では」
「すぐ報告します」
「~できます」

まとめ

前半と後半に分けて、文章コミュニケーションを紹介しました。大きなテーマなので、すべてを網羅したとは思いませんし、記事を読むだけで文章力が上がるとも思いません。
今回の記事が、文章力を上げるきっかけになればと思います。
最後に、オススメの本をいくつか紹介します。文章力を高め、職能として活用していくのであれば、本やセミナーなどより濃い情報にふれ、継続的に学んでいってください。

「分かりやすい文章」の技術 – この本から学んだことは非常に多く、自分の文章の基盤になっています。汎用性が高く、文章を書く時には手元においておきたいハンドブックです。

「分かりやすい文章」の技術 – この本から学んだことは非常に多く、自分の文章の基盤になっています。汎用性が高く、文章を書く時には手元においておきたいハンドブックです。

「伝わるシンプル文章術」 - 問題、結論、理由で構成されるクイズ文という型で文章を書く術を学びます。

「伝わるシンプル文章術」 – 問題、結論、理由で構成されるクイズ文という型で文章を書く術を学びます。

人を操る禁断の文章術 – 文章術ではなく、文章を読む相手に焦点を当てています。今回の記事でいう「読み手ファースト」を実践し、人に影響を与える文章力を身につけます。

人を操る禁断の文章術 – 文章術ではなく、文章を読む相手に焦点を当てています。今回の記事でいう「読み手ファースト」を実践し、人に影響を与える文章力を身につけます。

文章に関する本は他にも数多く出版されています。上記の3つは比較的読みやすく、簡単に理解して実践できるでしょう。合わせてデザインや心理学も学ぶと、より効果的な文章力が見につきます。

【前編】文章コミュニケーションの本質|文章力を鍛える方法