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Adobeというと、Adobe Creative CloudやPhotoshop、illustratorなど、クリエイティブ制作ソフトウェアの会社という印象が強いですが、実は広告・マーケティングに関するサービスやソフトウェアも多く開発しています。
2019年3月14日、そんなAdobeから、日本人のデジタルコンテンツ消費に関する5つのトレンドを発表しました。
今のマーケティング戦略は、コンテンツ戦略と言い換えてもいいほどコンテンツが重要です。
そのため、現在の日本人が、どういった嗜好でコンテンツを探し、何でコンテンツに触れ、どんなコンテンツに行動・思考・感情が動くのかを知っておくことは、マーケティング戦略を考えるために必須でしょう。
Adobeの調査は、アメリカ、オーストラリア、インド、日本の4か国で、デジタルデバイスを1台以上保有している18歳以上のユーザーを対象に行われました。日本国内だけで1,004人が対象になっています。
5つのトレンドからは、インバウンドマーケティングの推進やマーケティングプラットフォームの活用などを、企業がどういった意識で進めるべきかが見えてきます。
では、まずAdobeが発表した5つのトレンドを見ていきましょう。
その後、マーケティング戦略にどんな影響があるか、マーケティング担当者はどうすべきかを考えてみたいと思います。
トレンド1 デジタルコンテンツに費やす時間は一日平均4.8時間
画像:Adobe
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デジタルコンテンツの消費時間は年々長くなっています。その背景には、ネット環境の普及、デバイスの進歩、コンテンツの多様化があります。
今は日本中ほとんどどこにいてもインターネットにアクセスすることができます。また、デバイスもスマートフォンを筆頭に、安価で高性能なノートPCやタブレット、スマートウォッチなどのウェアラブル端末が普及しています。
そして、一昔前であればWebコンテンツはテキストがメインでしたが、Adobeが提供するAdobe Creative Cloudのように、動画や画像だけでなく、CGやARなど様々な形式のコンテンツを作りやすい環境が整っています。
これまで雑誌や新聞、テレビといった限られた形式のコンテンツを消費していた消費者が、それらからより便利でリッチな表現が使われてるWebコンテンツに時間を使うのは当然かもしれません。
Adobeのプロダクトマーケティング担当ディレクターであるケビン・リンジー氏は次のように述べています。
「消費者はFOMOを実感しています。友人からのあらゆるニュースや悪ふざけに乗り遅れると、取り残されているように感じます。それに加え、昨今では携帯電話から何でもできるようになったため、つながり続けることが容易になったことは明らかです。楽しいものや有益なもの、中には時間の無駄遣いとも思えるようなデジタルコンテンツにさまざまなレベルでアクセスしています。」
FOMO…Fear of Missing Out 意味:見逃すことへの恐怖
「情報難民」という言葉があるように、新しくて正確な情報を入手できないことは、生活に影響をきたすようになっています。
このことに気づいている消費者は、貪欲に様々なデバイスを通じて、コンテンツに触れるようになっています。
トレンド2 質の低いコンテンツに対して不寛容
家にいながら、様々な映画やドラマを非常に低価格で見放題になるなんて、10年前に想像した人はいたでしょうか。
しかし、ネットフリックスやAmazonプライムビデオ、TVerなどの登場により、このことは当たり前になっています。
日用品からニッチな趣味の専門用具まで、注文後1日で家に届くなんて考えられたでしょうか。
これはAmazonが実現しました。
携帯電話のように分厚い説明書を読まず、インターネットに接続したり電話したりするだけでなく、好きなゲームやアプリを自由にダウンロードして利用できるデバイスあるなんて、想像できたでしょうか。
AppleのiPhoneをはじめ、多くのスマートフォンは説明書が一切なく、携帯電話とは比較にならないほど豊富な機能を、誰もが当たり前に使っています。
このように、ここ数年で顧客はサービスを「頑張って勉強して利用するもの」「不満はあっても工夫して使い続けるもの」ではなく、「最高の体験が当たり前」と思うようになりました。
ケビン・リンジー氏は、「企業にとって(顧客の期待に答える体験を提供していくことは)、ハードルがますます高くなっています。今では、webサイトのパフォーマンスやアプリなどのデジタルタッチポイントをマーケターが確認できるツールがあるため、いい加減な体験の提供には言い訳のしようがありません。顧客は容易に気付きます」と述べています。
画像:Adobe
この調査結果のように、消費者の3分の1は、「目的のコンテンツを探すのに手間がかかる」「関係のないコンテンツを提案される」「ページの読み込みが遅い」ことに対して不満を感じています。
「ページの読み込みが遅い」については、若年層ほど敏感に反応しており、18~34歳は41%が不満を感じています。
さらに、「ページの読み込みに時間がかかりすぎる」場合の対応として、65%は「コンテンツの閲覧をやめる」と回答しました。
ネット回線が進歩したことで、ネットを利用する際に“待つ”という行動が当たり前ではなくなりました。GoogleもWebサイトの評価基準としてページの表示速度を上げているように、「Webコンテンツは常にインタラクティブで、リアルタイムで動き続ける」ことが、当たり前と考えられています。
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また、「文章が長い」「文章が下手」に対して、43%もの消費者が不満を感じています。以前は文章量が多いほどSEO効果があり流入が増えると考えられていましたが、Googleも「ただ長いだけのページを評価しない」としています。
他にも、「自分のデバイスに最適化されていない」つまりレスポンシブデザインになっていないことや、関連性、情報の鮮度、デザインの質など、様々なことに不満を感じています。
さらに、動画の解像度が低い、動画の読み込みが遅い場合、60%の消費者がそのコンテンツの閲覧をやめると回答しています。
そして、75%の消費者は、これらのうち1つでも不満を体験すると、その企業からの購入を思いとどまると回答しています。
企業はこれまで以上にコンテンツの質に対して注意を払う必要があります。
トレンド3 実店舗よりオンラインショッピングを利用
画像:Adobe
商品やサービスを購入する際に利用するものを調査した結果、オンラインショッピングサイトが最も多くなり、全体で59%、18~34歳では63%に上りました。
オリジナルのWebサイトを持つブランドは多いですが、ブランドのサイトで購入する消費者は25%にとどまります。
ブランドのサイトについては、オーストラリアで56%、アメリカで44%が利用していることから、日本は特別にAmazonや楽天などのショッピングサイトが力を持っていることがうかがえます。
もう一つ、注目すべき点として「スマートスピーカー」で購入する消費者が4%いるということです。まだまだ少ないですが、2019年のECトレンドにボイスコマースがあるなど、今後の普及が期待できます。
トレンド4 パーソナライズされたコンテンツ提供は当たり前
先ほど、「ブランド企業からのコンテンツで最も不快に感じること」の画像の中に、「パーソナライズされ過ぎていて気持ちが悪い」と回答したユーザーが25%に上りました。
ECサイトであればレコメンデーションエンジンは当たり前ですし、MAをはじめパーソナライズを行うマーケティングプラットフォームも普及してきています。Web広告も、リマーケティング機能が充実し、それぞれのユーザーの情報や行動に基づいてパーソナライズな広告配信を行うことが当たり前になってきました。
こうした技術の進歩により、「パーソナライズされ過ぎて気持ちが悪い」という意見が生まれると同時に、ある程度パーソナライズされたコンテンツを期待する気持ちも消費者は持っています。
画像:Adobe
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ブランドのWebサイトでの体験は 決して良いものではなく、良いと回答したのは16%にとどまります。アメリカでは45%、インドは75%が良いと回答していることと比較しても、日本のブランド企業のWeb活用にはまだまだ改善の余地があるでしょう。
ブランド体験は様々な要素で形作られていますが、重要なことは適切なパーソナライズが行われているかです。MAツールなど、パーソナライズを行うツールはインドやアメリカでは当たり前のものになっています。
消費者の約3割は、コンテンツがパーソナライズされていたら「商品やサービスを購入する」「ブランドへのロイヤリティを感じる」と回答しています。
適切なツールを導入し、適切に活用していくことがブランド企業には求められています。
この調査結果は、ブランドのWebサイトから購入せず、オンラインショッピングサイトで購入する日本独特の傾向にも影響しています。Amazonや楽天は、優れたレコメンドエンジンを持っており、非常に優れたパーソナライズを提供しています。
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ただし、パーソナライズについては注意すべき点もあります。消費者の7割は「不快なパーソナライゼーションによって一線を越えてきた場合、そのブランド企業から商品やサービスを購入することをやめる」と答えています。
Adobeのプロダクトマーケティング担当ディレクターであるケビン・リンジー氏は次のように警鐘しています。
「この調査では、消費者がどういったことを不快に思うかというところまでは掘り下げなかったため、ブランド企業は各取扱商材について自社で確認する必要があります。達成可能なことは何か、実用的なものとは何か、そして最も重要なこととして、顧客側が何を望んでいるか、ということを考えるべきです。」
トレンド5 ほとんどの消費者はSNSを信頼
画像:Adobe
ここ数年、SNSに対するネガティブなニュースが多く流れました。Facebookのハッキングや情報不正利用、フェイクニュースなどは、ここ2年で何度もニュースで耳にしたと思います。
しかし、依然として多くの消費者がSNSの情報を信頼しているようです。
全体としては、YouTube、Facebook、Twitterの順に信頼する消費者が多く、若年層ではInstagramも入っています。
44%がSNSの情報を信用しないとしているものの、半数以上がSNSを信頼できる情報源としていることは注目すべきでしょう。
YouTubeはもともと動画による娯楽メディアですが、ニュース系ユーチューバーなどが影響力を増しているため、「テレビのニュース番組よりも、ニュースを解説しているユーチューバーのチャンネルを見る」というユーザーも増えています。
コンテンツ消費トレンドに対して企業はどうすべきか
今回、Adobeが調査した日本人のデジタルコンテンツ消費に関するトレンドを紹介しました。
当たり前のように感じるものもあれば、予想外のものもあったと思いますが、重要なことはこうした消費傾向が数字として出ていることです。
Webサイトのページスピード改善が後回しになっている企業は多いと思いますが、読み込みに時間がかかると離脱するユーザーが65%もいるのに後回しでいいのでしょうか。
今回の調査結果からは様々な気づきを得れると思いますが、特に重要と感じたものを3つ紹介します。
ページスピードは“ベター”ではなく“マスト”
2018年3月、Googleはモバイルファーストインデックスを導入しました。さらに、2018年7月にはスピードアップデートを発表しています。
ユーザーはページの読み込み速度を非常に気にかけていることがわかっています。 読み込み速度はこれまでもランキング シグナルとして使用されていましたが、それはデスクトップ検索を対象としていました。 そこで 2018 年 7 月よりページの読み込み速度をモバイル検索のランキング要素として使用することを本日みなさんにお伝えしたいと思います。
引用:ウェブマスターブログ
重要なことは、モバイル(スマートフォン)の表示速度がSEO評価に直結するということです。
そしてさらに今回のトレンドにあるように、ページの読み込みが遅いと3割以上が不満を感じ、遅すぎると65%がコンテンツから離脱します。
モバイルのページスピードは、これまで努力義務のようなイメージでしたが、これからはマスト(必須)と考えたほうがいいでしょう。どれほど魅力的なコンテンツであっても、表示される前に離脱されたら意味がありません。
コンテンツは量と質の両立が理想だが、片方だけなら質を取る
コンテンツの質に対して、日本の消費者は特に厳しい目で見ています。過去、コンテンツマーケティングや企業のSNS運用では、質より量が重要とされてきました。
もちろん、量も重要です。コンテンツ量が多ければ必然的に見てもらえるチャンスも増えるからです。しかし、消費者はデジタルコンテンツを単に情報を得る場ではなく、より良い体験をする場と考えています。
過去は文章が読みにくかったり、デザインが悪かったりしても、情報が正確であればユーザーの評価は得られました。
しかし今は、文章が下手、デザインが下手、関連性が低いなどに対し不快感を覚えるユーザーが増えています。
質の低いコンテンツが多少あっても、いい影響はないものの悪影響もないと考えられてきましたが、消費者の体験を損なうという悪影響が生まれています。
量と質の両立が難しい場合、まずは量を少なくしてでも質を高めたほうが、ブランドロイヤリティには効果的でしょう。
MAツールなどの活用を進めると同時にモラルを学ぶ
パーソナライズすればそのブランドに対してポジティブな反応を示す消費者が3割もいるのに、パーソナライズを推し進めない理由があるでしょうか。
パーソナライズを行わないということは、この3割の消費者に対する機会損失を放置することになります。
今、日本でもマーケティングプラットフォームの導入が積極的に進められています。しかし、有効に活用できている企業や、そもそもコンテンツのパーソナライズに理解のある企業は限られています。
ここ数年で安価で導入しやすいMAツールも多く登場しました。マーケティングプラットフォームの導入、パーソナライズな施策であるOne to Oneマーケティングは、ほぼ確実に時間の経過とともに広がるでしょう。
しかし、こうしたデータが出た以上、企業はより積極的に導入を進めるべきです。
ただし、データ利用などについては、よりモラル的な考え方が求められるようになってきています。どれほど便利なツールを導入しても、モラルがなければ短期的な売り上げ増加は期待できても、長期的なブランドロイヤリティ向上は期待できないでしょう。
これからのマーケティング担当者には、データ活用やテクノロジーへの理解とともに、モラルも求められるようになります。