もはや当たり前?中小企業が取り入れるべきABMとは?

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公開日:2021年1月21日/更新日2022年6月14日

中小企業が行うBtoBマーケティングでは、限られたリソースを有効活用することが重要となります。特にマーケティング担当・営業担当間でのミスマッチを防ぐために、近年注目されている考え方が「ABM」です。

見込み顧客を獲得しても成約に至らないなど、現在のマーケティングに課題を感じている方は、マーケティングにABMを取り入れてみましょう。

当記事ではABMの考え方・実践方法などを中心に解説し、MAを活用してABMを進める方法や成功事例も紹介します。

ABMとは

ABMとはアカウント・ベースド・マーケティングの略で、マーケティングの考え方の1つです。2013年頃から注目され始めたので、そこまで新しい考え方ではありません。しかし近年、注目され始めた理由に、SFAMAといったマーケティングツールの進歩・広告手法の変化が挙げられます。

ABMとは「自社にとって価値の高い顧客を選別し、顧客に合わせてアプローチする」という考え方です。

BtoBマーケティングを手がけるシンフォニーマーケティングの庭山氏はABMを「顧客・見込み客データを統合し、マーケティングと営業の連携によって、定義されたターゲットアカウントからの売上最大化を目指す戦略的マーケティングのこと」と表現しています。

もっと砕いて説明すると、ABMとは「数多くの見込み顧客の中から価値の高い顧客(成約率が高そう・LTVが高そう、など)を選別し、その顧客に営業・マーケティングのリソース(予算や人員)を割く」考え方です。

例えば、あなたが大企業向けの経理管理システムを販売しているとしましょう。
年商1000億円企業の経理部長と、年商10億企業の総務担当から引き合いがあった場合、どちらに力を注ぐべきでしょうか?
この場合では成約率が高く、LTVも大きそうな年商1000億円企業の経理部長への対応に注力すべきだ、ということです。

少し冷たく聞こえますが、リソースが限られた中小企業にとっては非常に大切な考え方です。

営業経験がある方なら「当たり前のことだ」と思うかもしれません。
営業担当なら、顧客に優先順位を付け適切にアプローチすることは当然です。ABMは新しい考え方ではなく、昔から当たり前に営業担当が行っていたことをマーケティングに取り入れよう、という考え方です。

では「ABMがなぜ今、注目されているのか」「なぜ必要なのか」を見ていきましょう。

ABMが注目される理由

ABMがここ数年注目されているのは、SFAやMA・CRMといったマーケティングツールが浸透したことが大きな理由です。特にMAが登場したことで、マーケティングは大きく効率化されました。広告やオウンドメディアを通じてたくさんの見込み顧客を獲得し、メールマーケティングなどを通じて育成できるようになりました。

しかし、それと同時に課題になってきたのが「受け入れ率の低下」です。受け入れ率とは、マーケティングが生み出した見込み顧客を営業担当が引き継ぐ割合のことを指します。

これまで、マーケティングが何を以って「質の高い見込み顧客」としてきたかというと、主に「行動履歴」です。例えば「多くの資料をダウンロードしている」「Webセミナーを3回見てくれた」「メールの開封率が80%以上」など。

しかし、こうした行動履歴は営業担当にとって魅力的かと言われば、違うでしょう。

マーケティングと営業のミスマッチ

そのためマーケティングは「せっかく育成して質が高まった見込み顧客なのに、営業がしっかりフォローしてくれない」、一方の営業は「マーケティングから引き渡される見込み顧客は、成約しづらい」というミスマッチが起こってしまいます。

これが、MAによって顕著になったマーケティングと営業の課題です。
MAを導入して効果が出なかった経験がある方は、おそらく組織内のミスマッチを強く認識したのではないでしょうか。そして、この課題を解消するのがABMです

ABMの定義を「顧客・見込み客データを統合し、マーケティングと営業の連携によって、定義されたターゲットアカウントからの売上最大化を目指す戦略的マーケティングのこと」と紹介しました。
つまり営業・マーケティング双方が持つデータを統合し、連携して定義した指標に基づいて見込み顧客を選別する、ということです。

そのため、ABMは単体でうまくいくマーケティング戦略というより、MA活用を効果的に進めるための考え方と言えるかもしれません。

今、MAやSFAなどの機能がどんどん進化して、導入する企業が増えています。しかし、「データがたくさん取れる」「細かなシナリオに基づいたパーソナライズな施策ができる」といった機能面の特徴は、MAやSFAの目的ではありません。あくまでも、そうした機能を活用して顧客を獲得し、企業の業績を上げることが目的です。

しかしLISKULのMAに関する調査では、マーケティングの効率化や可視化が多く選ばれています。それはMAが持つ機能的な側面であり、本来の目的ではありません。もちろんマーケティングだけでビジネスが完結するのであれば問題ありませんが、BtoBのように営業担当が間に入る場合「獲得したリードからの受注を最大化」が一番重要であるはずです。

ABMを取り入れる4つのメリット

リードからの受注を最大化させることがABMとMAを活用する目的であることは、充分ご理解いただけたでしょう。
ここからはBtoBマーケティングにABMの考え方を取り入れると、マーケティングや企業の業績にどのような効果が期待できるのか、ABMのメリットを4つを紹介していきます。

リソースの集中と効率化

ABMによってアプローチすべき顧客を選別することで、顧客1人(1社)あたりにかけるリソースを集中させられます。限られている資金・人員の無駄を抑えて、リソースを効率的に活用できる点がメリットです。

リソースの集中により、中小企業が陥りがちな「広く浅く」のマーケティングから「狭く深く」ターゲットを設定するマーケティングへの切り替えが進められます。顧客のニーズに対応した、効果的なマーケティング施策も実施しやすくなります。

ROIの向上

BtoBマーケティングにABMを取り入れると、ROI(Return On Investment)の向上という明確な成果が表れます。ROIは投資利益率とも呼ばれ、投資費用に対して利益が出た割合のことです。ROIが高いほど、効率的な投資が出来ていることを示します。

ABMによってROIの向上が期待できる理由は、上述した通り資金・人員といったリソースの投資効率が良くなり、効果的な施策を実施することでマーケティングの成果が出やすいためです。企業はROIの向上を通して、業績の向上も見込めるようになります。

効果測定が容易

ABMは効果測定が容易である点もメリットです。
ABMの測定対象は特定した顧客に対してのみです。あらゆる施策の効果を特定した顧客分のみ測定すれば良いので、施策の評価を素早く検証できます。

効果測定が容易である点は、PDCAサイクルをスムーズに回せることにつながります。施策の効果測定から評価、改善点の洗い出しとサイクルをつなげて、効率的なマーケティングを行えるようになるでしょう。

マーケティング部門・営業部門の連携強化

企業によってはマーケティング部門と営業部門がそれぞれ独立して活動しているケースも少なくありません。ABMを取り入れたマーケティングは、マーケティング部門と営業部門の連携が必要なため、2部門の連携強化を図れるのもメリットになります。

マーケティング部門・営業部門が連携する上では、ターゲットとなるペルソナのすり合わせが必要不可欠です。顧客の考え方について意識を共有することで、マーケティングから営業までの一連の流れがスムーズになります。

BtoCにも派生したPBM

ABMの導入方法に入る前に本筋ではありませんが、PBMにも触れておきましょう。ABMはマーケティングと営業の間をうまく繋ぐための考え方となるため、BtoB企業に向けての考え方として誕生しました。

しかし最近、BtoCにおいてもPBM(ピープル・ベースド・マーケティング)という考え方が登場しました。
PBMは「特定の個人をターゲットとし、パーソナライズされたコンテンツを提供し、顧客化を図る」考え方です。

ABMとPBM

パーソナライズされたコンテンツの提供はあまり珍しいことではなく、Web広告などで活用されています。
今まではCookie情報を元にパーソナライズされていましたが、個人情報保護の観点から2020年1月にサードパーティーCookieの利用が廃止されました。さらに現代はユーザー行動の多様化により、正確なターゲティングが難しい時代になっています。
例えば、1人が複数のデバイスを持つことは当たり前です。Cookieはデバイスやブラウザが変われば同一とみなされないため、ターゲティング精度が落ちてしまいます。
このようなCookieに依存したターゲティングから抜け出すための考え方として、PBMが登場したのです。

例えば、Amazonのレコメンドシステムも一つのPBMといえます。
ユーザーはAmazonアカウントにログインすることで、違うデバイスであっても同一であると判断され、閲覧や購入履歴に基づいた最適なターゲティングが可能です。

ABMよりも新しい考え方であるため、現状PBMを活用できているといえるのは、Google・Facebook・Amazon・Appleなど、大手IT企業に限られます。しかしCookieによるパーソナライズが難しくなった今、導入を検討する企業が増えています。

ABMのKPIと実践方法

ABMはあくまで「考え方」であるため、具体的なツールや導入手順はありません。マーケティングと営業がデータを共有し、自社に最適なターゲットを見つけ、効果的にアプローチしていくことがABMです。

しかし、具体的にやることとして、営業とマーケティングが共同で設定すべきKPIがあります。それは、リードのポテンシャル判断基準です。

ABMでは、顧客を下記のような図に分類することがあります。

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Aマーケティング営業
B
C見込み外
D

縦軸のA〜Dは顧客の理想度です。例えば、企業規模が大きいほど優良顧客とするならば、Dは年商10億円以下、Cは10〜30億、Bは30〜50億、Aは50億円以上、と分類することもできます。中堅規模の製造業の営業部向けのツールを提供している場合、次のように考えられます。

A年商50億円以上、製造業、営業部、部長以上
B年商50億円以上、製造業、営業部、部長以下
C年商50億円以上、製造業、営業部以外
Dそれ以外

もちろんこれ以外にも、従業員数やエリア(対面営業が可能なエリア)などの基準を設けることもあるでしょう。

横軸の1〜5は見込み度合いを表します。例えば、次のように考えられます。

1広告接触者、サイト訪問者、Cookie情報のみ
2問い合わせ・資料請求あり
3ニーズ把握
4商談あり
5稟議段階

このような顧客のポテンシャル判断基準を、営業とマーケティング双方で作ることがABMの最も重要なポイントです。

A〜Dは営業担当、1〜5はマーケティング担当が、それぞれ別に管理していたというケースもあるでしょう。MAの課題は、Web上での活動が活発で問い合わせがあり、表の3まで到達したユーザーを見込み顧客として営業に引き継いでいました。

しかし、その見込み顧客の年商が少なく、ターゲットとする業種・役職でもない(表のCやD)ことがあるため、非効率的なアプローチになり「受け入れ率の低下」という課題が生まれました。

それを解決するために、顧客のポテンシャルを明確に決めることが大切です。

多くのMAツールはこうした表のイメージで顧客のポテンシャルを分類する機能を持っています。しかし、設計・操作の大半をマーケティング担当が行うことが多いため、営業にとって重要な縦軸の観点が抜け落ちているのではないでしょうか。

ABMを効率的に行うためにMAを活用する

顧客のポテンシャル判断など、ABMで活用するデータは表計算ソフトでも作成できます。しかし、マーケティングから営業までの工程すべてでデータを利用することを踏まえると、表計算ソフトの利用は効率的とはいえません。

ABMを効率的に行うために活用すべきものが、MAツールです。MA(マーケティングオートメーション)とは、顧客データの蓄積・分析やキャンペーンの管理・改善といったマーケティングプロセスの自動化を指します。

ABMで活用する顧客やキャンペーンのデータは、MAツールで一元管理できます。資料請求・問い合わせなどの顧客からのアクションはMAツールにリアルタイムで反映されるため、機会損失を防げる点も魅力です。

さらに、MAツールを営業支援システムと連携させることで、マーケティング部門・営業部門間の情報共有が可能です。
マーケティング部門から営業部門へ見込み顧客情報の受け渡しはもちろん、営業部門からは顧客情報などのフィードバックが素早く返ってきます。
MAツールを介した情報共有によって、ABMを取り入れたマーケティングの効果測定や分析をより一層スムーズに進められるでしょう。

「顧客に合わせて適切にアプローチする」ABMと「顧客のデータやアプローチ方法を管理できる」MAは、まさに好相性といえます。ABMを取り入れたマーケティングを実施する際は、MAツールの活用もぜひ検討してみてください。

MAツールについてより詳しく知りたい方はこちらを参考にしてください。

▶︎ 【2022年最新】MA導入で失敗しない!おすすめツール5選

▶︎ MAとCRMの違い|目的・機能・役割でわかりやすく解説|マーケティングオートメーションと顧客管理システム

MAを活用したABMの成功事例

最後に、ABMを取り入れたマーケティングでMAを上手に活用した成功事例を2つ紹介します。

営業支援のABMキャンペーンでMAを活用した村田製作所

株式会社村田製作所は顧客をオンライン・オフラインの両面でサポートするために、2013年にMAツールを導入しました。

村田製作所が顧客に提案できる製品ラインナップは、コンデンサ・コイル・回路基板やクラウド連携ソリューションなど多岐にわたります。膨大な製品の中から顧客に合わせたアプローチが必要でした。そこで村田製作所はMAツールを活用して顧客のポテンシャルを判断し、「コアな顧客への営業支援」に注力することを決定しました。

「コアな顧客への営業支援」で行った施策の一つがABMキャンペーンです。

【村田製作所が行ったABMの流れ】

(1)A社担当のセールスが名刺交換後、A社の情報が営業支援システムに登録される
(2)登録された情報が、MAツールに自動で連携される
(3)A社が興味を持ちやすいコンテンツをWebサイトにアップロードする
(4)「ぜひダウンロードしてご覧ください」というメッセージとともに、URLをメールで配信する

上記の流れで村田製作所はMAを活用したABMを進め、36%という高いクリック率で顧客の反応を得ることに成功しました。

部門間の連携や顧客アプローチの改善に成功したVAIO株式会社

パソコンメーカーとして知られるVAIO株式会社は、BtoB強化の一環としてコンテンツマーケティングを展開し、さらに2017年にMAツールを導入しました。
導入の目的は、人的リソースが限られる中で顧客との効率的なコミュニケーションのためです。

VAIO株式会社はMAツールを活用することでマーケティング部門と営業部門のスムーズな連携を図り、効果的なABMを実現しました。

【VAIO株式会社が行ったABMの流れ】

(1)Webサイト・セミナー・展示会などで獲得したリード情報をMAツールに登録する
(2)登録したリードに向けてメール配信して、リレーションを継続しながらナーチャリングを実践する
(3)顧客の興味関心が高まった段階で営業がアプローチするMAを活用したABMにより、マーケティング・営業の動きが定量的な形で可視化され、KPIや施策の見直しも素早く行えるようになったとVAIO株式会社は評価しています。顧客のスコアリングも行うことで、効率的なアプローチの実践にも成功しました。

まとめ

今回は、BtoBで注目されているABMを紹介しました。ABMの目的やMAの課題などを把握すれば、なぜ中小企業にこそ必要なのか、イメージできるのではないでしょうか。

極論、リソースが無限にあればABMの考え方は必要ありません。無限にあるリソースを使って、獲得した見込み顧客全員にアプローチすればいいのです。しかし中小企業の場合、そんなことはできません。MAやSFAといったマーケティングツールは、中小企業こそ活用すべきツールです。しかしこれまではマーケティング目線が強すぎたため、むしろ営業効率を下げてしまう結果を生んでしまいました。

MAやSFAを取り入れる際は、何のために取り入れるのかを考えてください。決して、マーケティング活動の効率化が目的ではないでしょう。その先には、売り上げの増加・会社の発展といったマーケティング本来の目的があるはずです。

その目的を考えた時、意識するまでもなくABMの考え方が取り入れられるのではないでしょうか。