新型コロナウイルスによる消費行動の変化

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新型コロナウイルスによる消費行動の変化

新型コロナウイルスの感染拡大が少し落ち着き、GoToキャンペーンなど社会的にも緩和された雰囲気が出ていましたが、現在も第三波と言わんばかりに感染が拡大しています。一時は収束に向かっていたコロナウイルスですが、今後もしっかりと対策が必要なようです。

今回はコロナウイルスの影響で消費行動にどんな変化が起こり、どうマーケティングすればいいかを考えていきたいと思います。しかし、その前にまずコロナ収束後も元に戻るわけではない理由を紹介したいと思います。

コロナが収束しても元に戻らない理由

もしコロナが収束しても、生活や意識が完全に元に戻ることはありません。というのも、コロナの影響で急速に広がった変化の殆どは、数年前から始まっていたもので、コロナと関係がないからです。

例えば、リモートワーク。2016年には政府が目標を定め、テレワーク推進のための施策を行っていました。人口が減少する中、働き方を多様化し生産人口を確保することは急務です。

リモートワークのイメージ

コロナ禍で急に普及したイメージがあるかもしれませんが、リモートワークは数年前から広まりつつありました。

EC展開についても同様です。例えば、ASP型ECサービスのカラーミーショップの利用者は5月に急増。月は前年同月比75.9%も新規契約を伸ばしました。その他にも、ECアプリをリリースした企業、楽天やAmazonへの出店を始めた企業が数多くあります。キャッシュレスデータ分析サービスの調査によると、2019年には20%弱だったECでのクレジットカード決済金額比率が、今年4月~5月には36%に拡大したそうです。

しかし当然、これも新しい変化ではありません。EC化率は毎年数%ずつ伸びていました。

コロナ禍で急激に普及したサービスにフードデリバリーがありますが、Uber Eatsが日本で始まったのは2016年。それから数年かけて徐々にシェアを伸ばし続けていました。

「脱ハンコ」「DX(デジタルトランスフォーメーション)」なども、今新しく出てきた言葉ではありません。以前から言われていたことが、コロナウイルスを追い風に急速に進みました。

つまり、コロナウイルスは元々あった変化の流れを早めただけです。

「コロナ収束後に元の生活に戻るから今は耐えるときだ」と考える事業者も多いかもしれません。しかし冷静に考えると、コロナが収束しても元に戻るわけではないことに気づくでしょう。

新型コロナウイルスによる消費行動の変化

今ある変化はコロナウイルスが引き起こしたものではなく「元々起こっていた」ということを紹介しましたが、急速に進んだ要因はコロナウイルスにあります。

コロナウイルスが少し落ち着きを見せた今、この半年ほどの間にどんな変化があったのか、様々な調査結果が出てきました。

ここからはそうした変化に関するデータを見ていきましょう。

変化1:オンラインショッピングと店舗行動

Digital Commerce360が4月に行った調査では、97%の小売事業者が「消費者の消費意欲が低下している」と回答していました。そんな中、多くの小売事業者がEC展開を進めています。

総務省が7月に行った調査によると、ネットショッピング利用世帯の割合は5月以降50%を超えています。

グラフを見ると、明らかに前年より増加していることがわかります。そして重要なことは、緊急事態宣言が発令されていた期間はともかく、様々な規制が緩和され始めた7月においても、利用率がもとに戻る傾向にないことです。

また、店舗での購買行動にも面白い変化があります。

コロナの影響により、スーパーに買い物に行く頻度と店舗での滞在時間が減少しています。コロナを気にしてなるべく少ない回数でまとめて、ささっと買い物を済ませる人が多くなっているからです。

さらに買い物に行く際、予め予定を立ててから行く人が2倍に増えています。

これはスーパーにおける調査ですが、おそらく多くの小売業で似たような変化があると思います。ウィンドウショッピングや衝動買いは減り、アプリやECサイト、SNSなどで欲しい物を予め調査し、欲しい物を決めてから買い物に出かけています。

これは2011年にGoogleが提唱した「ZMOT」という考え方と同じです。ZMOTは「Zero Moment of Truth」の略で、ざっくりいうと「顧客は店頭に来てから買うものを決めるのではなく、来店前にインターネットで情報収集して買うものを決めてから店舗に訪れる」という理論です。

つまり、いかにSNSやECサイトで顧客に情報を届けられるかが非常に重要だということです。

そして当然、買い物の場所も大きく変化しています。飲食店でのテイクアウト以外、多くの場所の利用が減少しています。スーパーやドラッグストアなど必需品を扱う店舗はまだ影響が少ないほうで、ショッピングモールやデパートは大きく減少しています。こちらは自粛期間中の調査なので今はかなり回復してきていると思います。

しかし、そもそも「予め買うものを決めてから店舗に行く」というニーズ自体が、ショッピングモールやデパートと相入れないのかもしれません。

変化2:興味関心の対象・購買行動の価値観

ソフトブレーン・フィールド株式会社が行った「新型コロナウイルスに関連する興味関心のトレンド」という調査によると、コロナをきっかけに新しく始めた、興味を持ち始めた事柄があると回答した人は6割近くに登りました。

新しく始めたことについては、「部屋の片付け」や「マスク作り」などが上げられています。その他にも、健康への意識、料理、通販、学習、ガーデニングなどが並びました。

またafterコロナに対する計画も同程度の人が考えているようで、国内旅行や映画、コンサートなど、自粛が求められる分野が目立ちました。

株式会社ヴァリューズが行った働き方や消費意識に関するアンケート調査ではさらに詳しく分類されています。この調査は20歳以上の男女25,884人を対象にしており、ネットリサーチの中でも多くの人を対象に調査しているため、かなり実態に近いと考えられます。

ライフスタイルや娯楽に対する価値観が大きく変わっていることがわかります。やはり医療、健康、病気は誰もが意識するようになりました。先行きが見えない中、節約や投資、資格取得などへの興味も高まっています。

娯楽では動画配信サービスが大きく上位に来ていますが、興味深いのはテレビ番組への関心も高まっていることです。若者のテレビ離れが話題になることもありましたが、家で過ごす時間が増えたことで再注目されているようです。

こちらはコロナ禍において新たにネットで購入、契約した物に関する調査です。

興味深いのは、多くの分野で収束後も「ネットでの購入を続ける」と半数以上が回答している点です。このことからも、コロナによる変化が一時的なものではないことがわかります。

こちらは女性の各年代におけるインターネット購入と、今後も購入を続けるかの調査結果です。

年代によって逆の傾向があります。若い女性ほどインターネットを利用していますが、収束後もインターネットを利用すると回答した割合は低くなっています。ショッピングを楽しみたい層と、インターネットの便利さを知った層が年代で分かれています。

このことから、店舗は体験する、楽しむ場所になり、購入はオンラインで行うという流れが加速すると考えられます。

こちらも非常に興味深いデータです。意識が変わったこと、今後も続けたいことで「情報の正確性を重視する」がトップになりました。

これは事業者にとってポジティブな変化です。キュレーションサイトやまとめサイト、SNSではなく、オウンドメディアなど事業者が直接発信する、信頼性が高く濃い情報に注目が集まるかもしれません。

変化3:お金の使い方

お金の使い方もこの半年で大きく変わった実感があるのではないでしょうか。オンラインショッピングが増えたら当然、クレジットカードなどキャッシュレス決済の利用頻度も高まります。また、感染予防の観点からも現金をやり取りするのではなく、キャッシュレスが推奨されるようになりました。

また、全員に10万円を一律給付した特別定額給付金によってお金の使い方が変化した人もいるかも知れません。

さらに、休業、廃業によって給与が大きく減少した人、今は大丈夫だけど今後の見通しが立っていない人も少なくありません。

サイバーエージェントの調査によると、3〜4割程度の人が収入が減ったと回答し、増えた人は数%程度です。特に若い世代で収入が減った人が多いようですが、これは非正規雇用が多いためと考えられます。

しかし、30代から60代でも3割以上の人で減少しています。当然、購買行動の基準になるお金の使い方、価値観は大きく変わるでしょう。

クレジットカード決済件数の推移

クレジットカード決済件数の推移こちらは三井住友カード株式会社が保有するキャッシュレスデータを解析したものです。

まず注目すべきことは、キャッシュレス決済の増加です。スーパーやホームセンター、家電量販店でのキャッシュレス決済額が大きく伸びています。ホームセンターに至っては1月の倍になっています。

そしてオンライン比率ですが、家電量販店、衣服小売、家具雑貨のいずれも上昇傾向にあります。

個人的に、コロナにより急速に進んだ変化の中で、今後最も重要なものはキャッシュレス化だと思います。キャッシュレス化は一度進めば戻ることがほとんど考えられません。

オンラインでの購買行動が増えたことだけでなく、現金の受け渡しによる感染リスクを避けるため、店舗でのキャッシュレス比率も伸びています。

2019年は消費税増税にともなうキャッシュレス減税で「キャッシュレス元年」と呼ばれました。その流れをコロナウイルスがさらに加速させたため、本当のキャッシュレス元年は2020年になるかもしれません。

もう一つ、面白いデータにクラウドファンディングの利用額があります。見ての通り4月から急激に増えています。これまでクラウドファンディングを知らなかった人にも、ここ数ヶ月で一気に認知が広がったのではないでしょうか。

この期間にクラウドファンディングが伸びたのは、営業自粛によりダメージを受けた店舗を救う動きによるものです。これはあくまでも一時的なものでしょう。

しかし、多くの人がクラウドファンディングという仕組みを認知したことは非常に大きな変化です。

そしてコロナ禍を乗り切る上で、大切なことは売上でも資本でもなく「困ったときに助けてくれるファンがいるか」であることが明らかになりました。乗り切ることができたのは、繁華街で観光客相手に高い利益を上げていたお店ではなく、少数でもリピーターと関係を築いてきたお店です。この意識は今後も続くのではないでしょうか。

まとめ

今回は新型コロナウイルスによって消費者の行動や価値観がどのように変化したか、様々な調査結果をもとに紹介しました。

一番大切なことは、これらの変化は一時的なものではなく来年・再来年以降も続くということです。もちろん今は感染予防という意識が多いですが、キャッシュレス・デジタルシフトは利用者にとって効率的で便利な仕組みです。今後はそちらに意識が向き、今は一時的だと思われている変化の多くが定着するでしょう。

今後もこうした変化に関する調査結果は次々発表されるでしょう。少しでも自身の事業、仕事に関係しそうならアンテナを張っておきましょう。

今ある変化のうち、定着したもの・一時的だったものがこれから明らかになり、今後オフラインとオンラインはどうあるべきか、より冷静に見れるようになるはずです。