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前回はテレワークの全体像を紹介しました。新型コロナウイルスの影響がすべてではありませんが、今、テレワーク導入企業が急増していることは確かです。
そして、一度テレワークを導入した企業は、新型コロナウイルスの影響がなくなった後も、完全にテレワークをやめてしまうということはおそらくないでしょう。この機に、日本企業のテレワーク活用の流れが大きく進み、人々の働き方を変えることは間違いないでしょう。
前回は全体像として、テレワークの効果・メリットについての話が中心でしたが、今回はテレワーク導入における課題や懸念、デメリットを見ていきたいと思います。
実際、テレワークのメリットを多く感じていても、それ以上にデメリットを感じて導入を進めることができないという方は多いのではないでしょうか。
第1回:テレワークの概要とメリット
第2回:テレワーク導入によくある懸念
第3回:セキュリティとルール策定
第4回:テレワーク導入に必要なツール
第5回:テレワーク導入事例
テレワーク導入の課題と懸念
第1回で紹介したようにテレワークには「モバイルワーク」「サテライトオフィス勤務」「在宅勤務」の3種類があります。どれも働き方を大きく変えるものですが、特に「在宅勤務」は企業側、従業員側の双方にとって、これまでと同じ考え方ではうまくいきません。
一度テレワークを導入したもののうまくいかずにやめてしまう企業もあります。コンピューター関連製品・サービスを世界的に提供しているIBMは過去数十年間在宅勤務を導入してきましたが、2017年に廃止され、「在宅勤務をやめてオフィス出社するか、退職するか」を選ぶよう社員に通告したことがニュースになりました。IBMのようにICTに精通した企業であっても、様々な課題からテレワークがうまくいかなかったのです。
もちろん、それ以上に多くの企業がテレワークを導入し、前回紹介したような様々な効果を実感しています。しかし、テレワーク導入を成功させるには、導入にあたりどんな課題があるのか、どうすれば解決できるのかを知っておかなければなりません。
では、テレワーク導入によくある課題や懸念をひとつずつ見ていきましょう。
テレワークでできる業務がない
比較的多くの企業が感じているかもしれませんが、そもそもテレワークできる業務がないという課題があります。機器の操作や製品の確認など、物理的にオフィス、工場でしか仕事ができない製造業やメーカーでよく聞かれます。
この課題に対しては、まずテレワークできる業務を見つけることから始まります。確かに、物理的に完全在宅勤務が難しい職種があることは事実です。しかし、部分在宅勤務であればどうでしょうか。機械の操作や製品の確認などは、すぐに在宅勤務で行うことは難しいでしょう。しかし、資料作成や日報入力、その他事務作業などは、オフィス、工場でなくても可能なはずです。会議についても、Web会議に替えることができます。
今、新型コロナウイルスの影響でテレワークを導入している企業も、すべてが完全在宅勤務というわけではありません。一部の業務を在宅勤務にすることで、通勤ラッシュを避ける、出社人数を少なくするといった部分的な導入事例も多くみられます。
テレワークできる業務がないという課題がある場合は、いきなり完全在宅勤務を考えるのではなく、在宅勤務でできる仕事を見つけることから始めましょう。
コミュニケーションが希薄になりそう
テレワークの導入で一番多い課題が、コミュニケーションに関するものです。事実、メルカリのような先駆的な企業も、新型コロナウイルスの影響が広がるまでは、コミュニケーションの懸念からあえてテレワークを導入しないと宣言していました。
いくらコミュニケーションツールが進歩しても直接会ってのコミュニケーションにはなかなか変えられません。ちょっとした相談事や雑談から生まれるアイデアがなくなり、業務効率が下がるという懸念もあるでしょう。また、上司は部下が何かに悩んでいても気づけないのではないか、という懸念を持っているかもしれません。
テレワークによるコミュニケーション希薄化については、コミュニケーションツールの導入と、コミュニケーションルールの見直しが重要です。また、対面のコミュニケーションでしかカバーできない部分も多いことを認識し、オフィスに出社するタイミングを設けることも重要です。
コミュニケーションツールは、メールよりもより気軽にやり取りができるチャットや、すぐに顔を見て話せるツールを導入しましょう。テレワークで広く導入されているSlackやZoom、ChatWork、LINEといったツールは、気軽にメッセージが送り合えるだけでなく、すぐに電話やビデオ通話を行うことができます。
また、コミュニケーションのルールもオフィス勤務から少し見直す必要があります。代表以外が全員完全在宅勤務を導入しているリベロ・コンサルティング合同会社では、テレワークにおけるコミュニケーションの秘訣は「絵文字」だとしています。テレワークではお互いの表情が見えない分、単なるテキスト、ビジネス文書的なやり取りだけでなく、絵文字などを使って表情や感情を積極的に伝えることが重要です。
そのほかにもリベロ・コンサルティング合同会社では、テレワークにおけるコミュニケーションに次のようなルールを定めています。
- メッセージをいつ見るかの主導権は受け手にある…テレワークでは膨大な量のチャットが飛び交う。そのため、すぐに見て当たり前と考えず、急ぎの場合はチャットではなく電話など別の手段をとる。
- チャット上でディスカッションはしない…いくら絵文字を使っても文字中心のコミュニケーションではすれ違いが起こりやすい。対面で話せば10分で済むことがチャットでは1時間以上かかり決着がつかないこともある。ディスカッションが必要な際に気軽に「ちょっと電話会議しませんか」といえる環境であることが重要。
- チャット上で長文を投稿しない…チャットは短いメッセージをキャッチボールするために適したツール。長文でじっくり考える必要がある場合は添付ファイルにまとめるなどの工夫が必要。
- 言葉遣いは必要以上に丁寧に…普段は問題ない言葉遣いがテレワークでは必要以上にきつく感じたり、冷たく感じたりすることが非常に多い。送り手、受け手の両方が気持ちよくコミュニケーションできるよう、必要以上に意識する。
このように、オフィスでのコミュニケーションとテレワークのコミュニケーションは違うということを認識し、適切なツールの導入、ルールの見直しを行いましょう。
逆に時間外労働が増えそう/上司の目がないためサボりそう
従業員の働きを直接見られないため、何時から何時まで仕事をしているのか正確に判断することが難しくなります。自宅で仕事をしていると、就業時間外に送られたメッセージにもついつい対応してしまい、仕事とプライベートのオンオフがつけられず、労働時間が長くなってしまうかもしれません。
逆に、上司の目が届かないためサボってしまうのではないかという懸念もあります。
実際、運営する人事向け総合情報サイト「人事のミカタ」で実施された調査によると、テレワーク導入の上で難しかったことの第一位に「テレワーク社員の時間管理」が上がっています。
この課題に対しては、対策する様々なICTサービスが用意されています。まずはクラウド上で利用できる勤怠管理システムを用いることで、労働時間を確認することができます。また、パソコンへのログイン状況や仕事内容を記録するツールもあります。こうしたツールを導入すれば、実際に仕事をしていた時間を計測するだけでなく、各アプリの起動時間や画面キャプチャを記録することもできます。
厳格な監視体制を敷いてしまうと働きづらくなってしまう可能性がありますが、従業員の働きすぎ対策、サボり対策としても、勤怠時間や仕事内容を記録するツールの導入を検討しましょう。
仕事内容を記録することは、労働管理だけでなく、仕事の見える化がすることで生産性の向上にもつながります。
セキュリティ対策が大変そう
セキュリティ対策は、テレワーク導入の課題の中でも、特に重大で対策が難しい課題かもしれません。オフィスで勤務している場合、セキュリティ対策は比較的簡単です。オフィスは物理的に鍵をかけ、情報へのアクセスや持ち出しを管理することができます。仕事に使う様々なツールやサービス、共有ファイルも社内のIPアドレスからしかアクセスできなくしたりすることでセキュリティを一定に保つことができます。
しかし、在宅勤務となるとそうはいきません。故意に情報漏洩されるリスクもなくはありませんが、それ以上に悪意のない情報漏洩の危険性があります。個人のPCのセキュリティ対策度合いはまちまちで、ハッキングリスクがあります。PCをプライベートな用途でも使うとなると、従業員の家族が情報にアクセスできてしまうかもしれません。
セキュリティ対策は大きな課題なので、一律にこれをすれば安心、というものはありません。社内の状況や求められるセキュリティ水準によって、適切なコンサルティングを受けることも視野に入れる必要があります。
一般的に行われている対策として、リモートデスクトップの活用とテレワーク機器の支給があります。エンターテインメントを提供する株式会社ポニーキャニオンは、テレワーク従業員に業務用にセキュリティ対策されたポケットWi-Fiを付与し、通信の安全性を確保しています。同様に、セキュリティ要件を満たしたPCを会社が支給し、プライベートな用途と混ざらないようにすることも有効です。
そして、何より欠かせないのが従業員に対する情報セキュリティ教育です。会社の情報をどのように扱うべきか、どこまで慎重になるべきかなど、従業員のセキュリティリテラシーを一定水準以上にあげることが最も有効な対策です。
テレワークの評価方法がわからない
仕事の評価を結果だけで行っているわけではないと思います。勤務態度など、数字として結果に見えづらいものの、評価すべき項目も多いでしょう。テレワークでは、こうした数字化できない部分を評価することができません。かといって、結果のみで評価することは過剰な成果主義に繋がりかねません。そうなってしまえば、逆にモチベーションが低下してしまったり、結果で評価しづらいものの重要な業務に対する価値が下がってしまいます。
テレワークに対する評価は慎重に決める必要があります。成果主義に寄ってしまうと、部署間で不公平感が出てしまったり、出社している従業員に雑務の負担が偏ったりしてしまう可能性があります。実際、テレワーク従業員の生産性が上がった理由を解いてみると、見えにくい業務を出社している従業員が負担していることが原因だった、ということは珍しくありません。
現在の新型コロナウイルスの影響による一時的なテレワーク導入であれば、評価制度の改定の優先度はそこまで高くないかもしれません。しかし、これを機に長期的にテレワークを導入する場合は、プロセスと成果に対する適正な評価制度を作り、テレワークの有無にかかわらず全従業員が納得して働けるようにする必要があります。
全社員が完全在宅勤務にするということは多くの会社にとって現実的な選択肢ではないと思います。そんな中でもオフィスワーカー、テレワーカーの両方と会社にとって最適な評価制度を見つけていく必要があります。
企業文化やチームの結束力に影響が出そう
コミュニケーションや評価方法など、様々な要因がありますが、テレワークによって企業文化やチームの結束力に悪影響があるという懸念があります。
企業文化とは仕事内容や職場の雰囲気など、無数の要因からなります。違う環境で働く社員同士が同じ文化を持つことは難しいかもしれません。チームの結束力についても、同じ部屋でずっと一緒に仕事をしている状態と比べると、コミュニケーションが希薄になるかもしれません。同じ仕事をしながら評価制度・方法に違いがあれば不平不満の元になるかもしれません。
こうした懸念を解決することは簡単ではありませんが、すでに述べたコミュニケーションや評価制度の工夫が重要になります。
テレワーク導入企業は、企業文化、チームワークのため、社員が一か所に集まって何かしらのイベントを企画することがあります。日本でいう飲みニケーションのようなもので、普段テレワークで顔が見えないからこそ、こうした仕事外のイベントが重要です。
アプリ開発を手掛ける株式会社ソニックガーデンは、オフィスの他にマンションを借り、そのマンションを自由に使えるワークスペースとして活用しています。テレワークであるため出社義務はありませんが、遠方に住む従業員にとってはオフィスに行かずにスタッフと顔を合わせることができるコミュニケーションの場として活用されています。
現在、新型コロナウイルスの影響により、一時的な対策としてテレワークを導入する企業も増えており、そうした場合、イベント事などで集まることは適切ではないでしょう。
しかし、長期的に導入するのであれば、イベント事など、従業員が顔を合わせる機会を作っていくことも重要です。
次回予告:テレワーク導入におけるセキュリティ対策とそのルール作成
今回は、テレワーク導入によくある課題、懸念を紹介しました。テレワークという働き方は、これまでのオフィスに出社する働き方と大きく違います。それを導入する企業にとっても、そうした働き方を選択する従業員にとっても、様々な懸念があります。
今回紹介したものは代表的なもので、企業によってほかにも様々な懸念があると思いますが、すべてを解消することは現実的ではないと思います。
実際に導入して初めて懸念に感じることもあれば、懸念だと思っていたことが案外問題にならなかったりもします。
こうした状況だからこそ、というわけではありませんが、まずはテレワークで対応できる業務を見つけ、コミュニケーションと勤怠管理の課題をある程度クリアしたうえで、一旦導入に踏み切ることも一つの選択肢です。
それでは、次回はテレワーク導入におけるセキュリティ対策とそのルール作成をテーマにお送りします。具体的な指針も紹介するので、ぜひご覧ください。
第1回:テレワークの概要とメリット
第2回:テレワーク導入によくある懸念
第3回:セキュリティとルール策定
第4回:テレワーク導入に必要なツール
第5回:テレワーク導入事例