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ビデオリサーチインタラクティブは、スマートフォン広告統計サービス「SmartPhone Ads Report」を基に、2018年4月~9月のスマートフォン広告出稿状況を発表しました。
この調査の推定インプレッション数で、数あるアプリの中で「Tik Tok」が第2位となったことに、アプリマーケティング関係者は驚いたと思います。
Tik Tokは2016年9月にリリースされた中国発信の短編動画共有アプリです。
動画アプリというと、YouTubeやにこにこ動画など、すでに圧倒的なシェアを持ったサービスが存在し、Instagramでも「IGTV」をリリースするなど、非常に競争の激しい市場です。
なぜすでに飽和しているように見える動画アプリ市場でTik Tokは人気を得ているのでしょうか。
Tik Tokの仕組みを深く知ると、今の若者が持っているニーズ、2019年以降のインフルエンサーマーケティングが見えてきます。
Tik Tokが若者の間で大流行する理由
2016年9月にリリースされたTik Tokは、2018年6月に月間がアクティブユーザー5億人に達し、2018年の第1四半期に世界で最もダウンロードされたアプリとなりました。推定ダウンロード数は4580万回以上といわれています。
最大の特徴は、15秒の短時間動画という点です。ある程度のフォロワーを獲得すると、より長時間の動画を掲載できるようになりますが、それでも60秒までとなっています。
画像:TikTok
また、完全なオリジナル動画ではなく、用意されたBGMを使うため、動画撮影、編集もスマートフォンから簡単に行うことができます。
YouTubeにはクオリティの高い動画が数多く存在し、その中で注目されるコンテンツを投稿しようと思うと、専用のツールやスキルが必要になりますが、Tik Tokではツールもスキルも一切不要です。
まさに、“スマホ時代”に合わせた動画共有アプリといえるでしょう。
Tik Tokは無名がバズれる
数ある動画アプリの中で、なぜTik Tokが人気を集めるのでしょうか。
15秒の短時間動画でBGMと組み合わせてすぐに作れるという以外に、もう一つ大きな理由があります。
それは、Tik Tokなら無名の人が初めて投稿する動画であっても、数百人に見てもらえるということです。
これは、新規の動画を全Tik Tokユーザーで負担し合っているという、他のアプリにはない独特の仕組みがあるからです。
Tik Tokには「オススメ」という項目があり、ほとんどのユーザーはオススメから動画を見ているというデータがあります。オススメは基本的にバズった動画が掲載されますが、10〜15回に1回は、いいねがほとんどついていない「新規動画」も紛れ込んでいます。
この機能により、まったく無名のユーザーでも数百回は再生されます。
多くのSNSにとって、「ユーザーの承認欲求をいかに満たすか」は重要です。
Instagramは「インスタ映え」という言葉の通り、きれいな写真を投稿すれば多くの反応があり、承認欲求を満たしやすいSNSとして広がりました。しかし、インスタ映えを意識するあまり「インスタ疲れ」という言葉も登場するなど、ユーザーがストレスを感じてしまう面もありました。
Tik Tokは簡単に動画を投稿できる手軽さと、誰でも数百人に見てもらえるという点で、今どきの若者の承認欲求をぴったり満たしているようです。
15秒の短時間動画が主体のTik Tokでは、10数回に一回、質の低い動画が出てきてもユーザーのストレスはほとんどありません。
動画を投稿すれば確実に数百人に閲覧してもらう機会が与えられ、そこでファン登録やいいねがたくさんついたりすれば、さらに多くの人に閲覧されるようピックアップされます。
Tik Tokには「ByteDance AI」という人工知能が搭載されており、その技術にも注目が集まっていますが、シンプルに「オススメ」という項目と仕組みを発明したことが、Tik Tok最大のイノベーションといえるかもしれません。
YouTubeなど既存メディアの問題点
すでに述べたように、Tik Tokが人気を集める理由は、誰でも確実に数百回みられる「オススメ」という機能があるためです。
一見すると簡単な仕組みのようですが、これをYouTubeで実現することはできないでしょう。
YouTubeは数分から数十分の動画が大半なので、面白いかどうかがわからない新規の動画を数百人に届けることは現実的ではありません。もしもYouTubeを見ている最中に質の低い動画を数十分も強制的に見せられたら、ユーザーは離れていってしまうでしょう。
この仕組みは15秒のショートムービーを前提としているTik Tokだから実現できたことです。
また、YouTubeで有名になるには、時間と労力がかかりすぎることも、新しい投稿者(ユーチューバー)が増えない要因となっています。
例えば、ユーチューバーの火付け役として有名な「ヒカキン」さんの場合、2007年9月24日に初めて投稿した動画から、人気が出ず、収益にもつながらない期間が数年間続きました。
ヒカキンさんの下積み時代の圧倒的な努力は、ユーチューバーだけでなく著名なビジネスパーソンからも尊敬を集めています。
これはまだユーチューバーという言葉がなかった時代の話で、動画量が圧倒的に増え、すでに地位を持ったユーチューバーが各ジャンルに存在している今では、もっと厳しい戦いになるでしょう。
実際、新しいYouTubeチャンネルにあげられた動画のほとんどは、数回しか再生されません。
しかし、Tik Tokならすぐに有名Tik Tokerになれます。
SNSで大きな影響力を持ったユーザーを「インフルエンサー」といいます。職業としてのインフルエンサーを選択する人もいますが、多くは「人気者になりたい」「影響力を持ちたい」というモチベーションを持っています。
インフルエンサーが珍しかった時代であれば、長居下積み時代を超えて有名になりたいというユーザーも多くいました。
しかし、中高生や普通の社会人のインフルエンサーが増加した今、あえて苦しい思いをしてコンテンツを作りたいというニーズは減りました。
誰にでも“バズる”チャンスがあるTikTokは、今のインフルエンサーニーズを満たしたSNSといえます。
信用・評価ではなく価値そのもの
TikTokのような新しいメディアとYouTubeのような既存メディアの違いをまとめると、「TikTokは価値経済であり、YouTubeは信用経済である」といえるかもしれません。
どういうことかというと、YouTubeのように過去のコンテンツが残り続ける場合、それまでの積み重ね(信用や評価)が重要になります。
面白いかどうかわからない新チャンネルの動画を見るよりも、これまでの実績で面白いとわかっている人の動画を見たほうが効率的だからです。
一方、TikTokでは、過去の積み重ねに重要な価値はなく、「今あげたこのコンテンツにどれだけの価値があるか」で判断されます。人気の動画も新しい動画も、有名TikTokerも無名TikTokerも、「オススメ」という場所にならび、価値があればもっと見られるし、面白くなければ見られないというシンプルな構造になっています。
通常、何かで影響力を持とうと思ったら、資金、人脈、知識、価値など、様々な要素が必要になります。
これまでは、資金、人脈、知識、価値の中で、価値が最も後に来ていました。資金と人脈があり、自分をプロモーションする知識があれば、コンテンツの価値は後からついてきます。
しかし、TikTokでは価値が一番初め、それどころか他の要素が不要といえます。
Showroom、17liveなど新しいプラットフォーム
TikTokが短期間にこれだけ広まった理由は大きく2つ、すでに説明した「簡単に動画を作ることができる手軽さ」と「無名でもチャンスがある」ことです。
この2つは、TikTokに限らず、ここ数年で急激に利用者が伸びたサービスに共通しています。
例えば、ライブ配信アプリの「Showroom」や「17live」です。
これらはライブ配信アプリなので、過去のコンテンツが残りません。まさに一発勝負、そのコンテンツが良ければ人があつまる「価値経済」の原則にのっとったプラットフォームです。
画像:Showroom
画像:17live
ライブ配信は動画市場とも違う、新しい市場ですが、すでに月間数百万円稼ぐインフルエンサーが多数登場しています。
さらに、これらのライブ配信アプリの特徴として、広告収益ではなく、応援収益であることが挙げられます。
Showroomや17ライブには、コンテンツ内に広告が入ることはありません。代わりに、ユーザーが好意で課金アイテムをプレゼントする(応援する)ことで収益化しています。
面白いコンテンツを見る代わりに広告を見せられるのではなく、純粋にコンテンツが面白いからお金を払う。
まだ市場としては小さいですが、ライブ配信アプリはまさに「価値経済」で動いており、今後さらに広がっていくでしょう。
まとめ|TikTokでインフルエンサーマーケティングが変わる
今回は、新しく登場したSNS「TikTok」に焦点を当ててみました。
TikTokをはじめ、Showroomや17liveのような新しいSNSは、単に新しいというだけでなく、「信用経済から価値経済へ」という大きなパラダイムシフトを起こすものです。
もちろん、インフルエンサーマーケティングやSNS広告の活用方法も今後数年間で大きく変わるでしょう。
例えば、従来のインフルエンサーマーケティングでは、フォロワー数が多ければ多いほど影響力があるとされ、費用が高くなります。
フォロワー1万人よりも、10万、100万人のインフルエンサーのほうが、企業にとって利用価値が高いということです。
これはつまり、そのインフルエンサーが過去に積み重ねてきな実績を評価している「信用経済」のあり方です。
しかし、価値さえあれば多くの人に届くような仕組みが登場したため、これからは「たとえフォロワー数が多くてもコンテンツに価値がなければ効果がない」という「価値経済」にシフトしていきます。
インフルエンサーマーケティングを検討した際、代理店からアカウント名とフォロワー数と費用がかかれたExcelが送られくるでしょう。
そして、その中からできるだけフォロワー数が多く、できるだけ安いインフルエンサーを起用すると思います。
しかし、価値経済が発達してくると、こうした選び方に意味がなくなります。その人が配信するコンテンツそのものの価値を見極め、自社の商材と掛け合わせたときにさらに価値を生むものであるかどうかを考えなければいけません。
インフルエンサーマーケティングについて、これまでは「誰を起用するか」にばかり注目されたため、仲介する代理店任せにしている企業がほとんどです。
しかし、これからは「誰を起用するか」ではなく、「何を作るか」、つまり面白いコンテンツを作るための「企画力」が求められるようになるでしょう。