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CRM(顧客関係管理システム)とは、顧客情報の管理や顧客との関係構築を強化するために使われるツールです。CRMの定義は広く、ツールの種類も多いため、自社で導入すべきか、導入した場合どのように活用できるのかわからないと感じている方もいらっしゃるかもしれません。
そこで本記事では、CRMを導入した企業について、導入背景や導入する前の課題、CRMを使うことでどのように業務が改善されたのかなど、企業の事例を業種別にご紹介します。今回のテーマは、建築・不動産業界です。
業界別CRM事例紹介
・メーカー編
・建築・不動産編
・卸売・小売業界編
・情報通信編
CRM導入事例【建築・不動産業界編】
株式会社ロゴス(HubSpot)
株式会社ロゴスは北海道札幌市にある地域密着型の不動産会社です。「親身になって一緒に探す」をモットーに、賃貸や不動産の仲介・売買からテナント物件まで扱っています。路面店ではなくビル内に事務所があるという特徴を生かし、広告よりもお客様からの紹介を通して顧客を増やしてきました。
同社では、事業の拡大に伴い増え続ける契約書の管理が課題でした。契約書は宅建法により契約から5年の保存期間が定められており、顧客への対応を考えると倉庫に預けることもできず、事務所内に紙の書類は増える一方でした。また、社外では契約書を見ることができないため、書類を確認するために事務所へ戻る必要があり、顧客へのスピーディーな対応ができない点も大きな課題でした。
そこで、以前から付き合いのあった企業からの勧めもあり HubSpotのCRMを導入しました。HubSpotには無料版のCRMがあり、単に契約書をデータ化するだけでなく、顧客情報とあわせて管理をすることが重要というアドバイスを受けたことも導入をした理由でした。
CRMにはそれまでの紙の契約情報を登録し、契約番号と顧客情報に紐づけて管理をするようにしました。それにより、契約書の保管スペースが不要になったのはもちろん、時間や場所を選ばず、社外のPCやモバイルから契約書へのアクセスが可能になりました。また、必要な契約書を探す際は、電話番号などをキーとしてスムーズに検索ができるため、契約に関する質問や内覧スケジュールの調整などにおいても、お客様を待たせることなくその場で対応できるようになりました。
不動産会社にとって、契約書の内容把握やお客様へのスピーディーな対応は、信頼感という点で他の業務以上に重要視されます。特に、お客様の横のつながりで発生した案件の多い同社にとって、CRMによる契約管理とスムーズな対応は、顧客満足度の向上に大きくつながっています。
株式会社ボイス(eセールスマネージャー)
株式会社ボイスは、神奈川県横浜市にある従業員約4000名の企業です。清掃管理・設備管理が主な事業であり、ビルメンテナンス業務を効率的に行う独自のシステムも提供しています。
同社では以前よりCRMを導入していましたが、業務の基幹システムとは連携していませんでした。そのため、CRMで管理している顧客情報を手動で基幹システムに入力し直す必要があり、データの精度や作業の効率性などが課題でした。既存のCRMでは、顧客満足度向上や関係性強化という本来の目的には不十分であり、顧客の訪問計画を立てることが主な用途となっていました。
そこで、基幹システムの刷新が決まったのを機にCRMも見直すことになりました。導入においては、基幹システムと連携が可能という条件のもと現場の意見を反映した結果、eセールスマネージャーが選ばれました。
導入にあたり、総務・業務・営業の各部署のデータをCRMに統合し、基幹システムと自社の業務管理システムを連携しました。基幹システムとの連携により、データ入力が効率的になっただけでなく、他の社員や上司への共有も可能になったため、顧客へのフォローもしやすくなりました。また、顧客単位ではなく案件単位での管理となったことで、全体のプロセスを把握しやすくなり、顧客への適切なアプローチができるようになりました。
営業部ではプロセスマネジメントや顧客情報の分析、業務部では顧客訪問の計画、総務部では日報や活動の共有など、それぞれの部署がCRMを活用できるようになり、部署全体で一貫した顧客への対応を実現。CS向上にもつながりました。
本事例のように、蓄積したデータやCRMというツールを活かすには、必要な業務データが一元管理されていることが重要です。自社のCRMや顧客管理ツールが基幹システムと連携していない場合は、他のツールに切り替えるという方法も選択肢の一つといえるでしょう。
グレイ建設(Kintone)
グレイ建設は、米国で1960年に設立された工場建設を専門とする企業です。日本の大手企業の北米進出を数多く手がけているだけでなく、米国の建設業界ではトップの実績を持ちます。
同社では、社員一人ひとりが大規模なプロジェクトを抱えており、案件ごとの金額が高く工期が長いものがほとんどです。また、日本事務所に勤務する社員のほとんどが、米国の本社をはじめとして国や地域をまたがって仕事をしており、出張で国内にいないことも多くあります。
そのような状況のなか、同社では、顧客情報の管理を個人に依存していました。そのため、案件の進捗状況を確認する際や顧客から問い合わせがあった際には、時差に関係なく直接担当者に連絡をとったり、過去のメール履歴を探したりといったことが必要となり、顧客への対応なども含めて課題を感じていました。さらに、同時進行で数十ものプロジェクトが進んでおり、最新の状況を把握するのが困難な点も課題でした。
この状況を解決するために導入したのがCRMのKintoneです。導入にあたり、個人で保管していた顧客情報や案件情報をCRMに登録し、日本や米国本社など各拠点に分散していたデータが一つのCRMに集約されました。
これにより、どの国にいても同じ情報を共有できるだけでなく、プロジェクトの進捗を一覧で確認し、リアルタイムで把握できるようになりました。外出先からでも案件進捗アプリにより状況を確認でき、顧客から問い合わせを受けた際には、担当者以外でもCRMの情報をもとに対応が可能になりました。
顧客に対して的確かつスピーディーに対応できることは、どのビジネスにおいても重要ですが、特に同社のような大規模で工期の長いプロジェクトを扱うような企業にとっては信頼感に大きく影響します。今後は社内だけでなく、顧客に対してもプロジェクトの進捗状況を共有することも検討しており、CRMによるさらなる顧客満足度の向上を目指しています。
株式会社栃木建築社(Sales Cloud)
株式会社栃木建築社は、栃木県に本社を置く従業員約40名の工務店です。
デザイン住宅を得意とし、顧客一人ひとりの要望にあわせて機能とデザイン性の高い住宅を数多く手がけてきました。顧客ニーズに合わせた注文住宅により、大手とも差別化をしてきた同社ですが、他の不動産企業と同様に人口減少にともなう市場縮小により危機感をいだいていました。
この状況でビジネスを続けていくためには、顧客ごとのニーズに合わせるだけでなく、生涯にわたって顧客を支援していくことが重要であり、そのためには、顧客同士のつながりやライフタイムサイクルを可視化することが必要と考えた同社は、CRMのSales Cloudを導入することにしました。今までも顧客に関しての情報は記録していたものの、各担当者が紙やExcelで個別に管理をしており把握が難しい状態でした。
Sales Cloudを選んだ理由は、顧客情報をデータ化・共有するだけでなく、さらにAIやBIと連携した施策をすれば、生涯にわたった支援や紹介による顧客化を行えるのではと考えたためです。
導入にあたり、顧客情報や案件に関する情報を、顧客同士のつながりも含めてCRMに登録しました。また、MA(マーケティングオートメーション)と連携させることで、Web経由で獲得した顧客情報を自動でSales Cloudに登録し、それをもとにインサイドセールスから営業へ引き渡すというフローや、その後の契約や着工までのフェーズを一貫して管理することができるようになりました。また、施行後のメンテナンスにおいても、引き渡しから数年ごとにメンテナンス時期を自動で通知するよう設定も行いました。
CRMの導入により、顧客の情報を社員が一目で把握できるようになっただけでなく、顧客からの要望も含めたデータの蓄積により、タイムリーなアフターフォローが可能となりました。その他、数字の把握がしやすくなったことにより、それまで会議に使っていた時間を顧客対応にあてたり、進捗状況の共有により上司がリアルタイムにアドバイスができるようになったりと、導入後一年でさまざまな効果を感じています。今後はさらに、MAを利用したメルマガなどのアプローチに力を入れつつ、AIやBIなどを組み合わせた活用で、顧客に寄り添った支援をしていきたいと考えています。
CRM導入事例【建築・不動産業界編】まとめ
今回は建築・不動産業界に注目してCRM導入事例を紹介しました。建設・不動産業界と一言でいっても、業務内容や企業規模は千差万別です。今回ご紹介した企業も、個人のお客様への住宅販売から法人への工場建設や設備管理まで業務形態はさまざまのため、事業内容や企業規模に関わらず、CRMが活用されるという点がご理解いただけたのではないでしょうか。
個人でも法人でも、住宅や建物の購入において信頼できる企業に依頼したいという点は共通です。顧客から継続的に信頼を得るためには、顧客情報や案件情報を共有し、一貫した対応をできる仕組みづくりが重要でしょう。同様の課題をお持ちの場合は、自社にあったCRMを探してみてはいかがでしょうか。