テレワークは、インターネットを活用して、場所にとらわれない柔軟な働き方を実現するものです。
しかし、新型コロナウイルスの影響により人の移動が制限されたことにより、事業継続性の確保など、これまでとは違う理由でテレワークの導入が広がっています。

そこで今回、企業のテレワーク導入方法をテーマに全5回にわたって紹介します。

第1回:テレワークの概要とメリット
第2回:テレワーク導入によくある懸念
第3回:セキュリティとルール策定
第4回:テレワーク導入に必要なツール
第5回:テレワーク導入事例

テレワークとは

総務省が提出した「情報システム担当者のためのテレワーク導入手順書」によると、テレワークを下記のように定義しています。

テレワークとは、「ICT を活用した場所にとらわれない柔軟な働き方」のことです。インターネット等のICTを利用することで、本来勤務する場所から離れ、自宅等で仕事をすることができます。在宅勤務、モバイルワーク、サテライトオフィス勤務(施設利用型勤務)等さまざまな働き方の総称です。

「在宅勤務=テレワーク」と考えがちですが、実際にはより広い概念です。歴史を見ると、テレワークという言葉は1970年代のアメリカで、エネルギー危機と通勤による大気汚染の緩和を目的に始まりました。インターネットが普及する前に登場した勤務形態ですが、現在では働き方改革の一環、コストの削減、採用の効率化などに加え、感染症などの危機に事業を継続する手段として注目を集めています。

それでは、まずはテレワークの3つの種類を紹介します。

テレワークの種類

テレワークの種類
在宅勤務が一番わかりやすいテレワークの形態ですが、テレワークには3つの種類があります。一般に「テレワークを導入する」というとき、在宅勤務の導入を考えることが多く、今回のシリーズ記事でも在宅勤務を中心に考えます。
まずは3種類のテレワークを見ていきましょう。

モバイルワーク

一番導入しやすいテレワークが、モバイルワークです。モバイルワークとは、移動中(交通機関の車内など)や顧客先、カフェなども就業場所に含める働き方です。
これはすでに導入している企業も多いと思います。オフィスでの仕事を中心として、ノートパソコンやスマートフォンを使って外部でも仕事をするので、導入ハードルもそこまで高くありません。
モバイルワークが最も適しているのは外勤営業です。外勤営業はオフィスにいる時間が少なく、取引先での商談や移動に時間を使います。その時間を有効活用できるため、生産性の向上が期待できます。

導入目的としては、ワークライフバランスの向上が多いようです。移動中に細かな事務作業や報告業務などを済ませることができれば、余計な残業を減らすことができます。また、内勤スタッフでも、カフェなどを就業場所に認めることで、仕事の満足度を高めたり、集中力を維持したりといった効果も期待できます。
導入の懸念として多いのは、仕事に使用する機材とセキュリティです。個人のノートパソコンやスマートフォンを仕事で併用すると、どうしても情報漏洩の懸念が出てしまいます。重要な情報は社内からしかアクセスできなくするなどの対策が必要です。

サテライトオフィス勤務

サテライトオフィス勤務
企業が本社以外の場所に設置するオフィスを「サテライトオフィス」といい、サテライトオフィスを活用したテレワークの就業形態をサテライトオフィス勤務といいます。
さらに細かく「都市型サテライトオフィス」「郊外型サテライトオフィス」「地方型サテライトオフィス」に分かれますが、どれもサテライトオフィスを設ける場所を指しています。
「○○営業所」のように、クライアントが多い地域にオフィスを構える形式が一般的ですが、最近注目を集めているのがシェアオフィスです。シェアオフィスを活用することで、会社から離れた土地に住む従業員も働くことができます。また、シェアオフィスという新しい空間で、様々な企業の従業員が働くことによるシナジー効果も期待されています。
また、空き家や遊休施設を活用することで、地方創生の効果も期待されています。

サテライトオフィス勤務の導入目的として多いのは、採用の効率化とコスト削減です。各地のシェアオフィスを活用することで、採用対象の幅が大きく広がります。また、従業員数が増えてもオフィスを拡大する必要がなく、コスト削減も期待されています。
懸念はやはりセキュリティです。シェアオフィスもセキュリティ対策はされていますが、異なる企業の従業員が密接に関わることになります。異なる企業の従業員が接することによるシナジーも期待されていますが、それ以上に情報漏洩リスクを懸念する企業が多いのではないでしょうか。重要データにアクセスできなくすることに加え、働き方、セキュリティに関する細かなルール整備が重要です。

在宅勤務

一般的に「テレワーク」といった場合、一番イメージされるのが在宅勤務です。家で仕事をするという勤務形態で、通勤という概念がなく自宅をオフィスにします。従業員それぞれが最適な環境で働き、生産性を最大化することが期待できます。
在宅勤務は「働き方改革」と「ICTの進歩」のため注目を集めてきました。人手不足が加速する中、働き方を多様化し、地方人材の活用や、育児・介護期のキャリア継続が望まれています。また、以前は難しかったインターネットを通じた仕事も、クラウドサービスの登場により可能になりました。
在宅勤務は、終日在宅勤務と部分在宅勤務の2種類に分けられます。終日在宅勤務はその名の通り、会議なども含めて就労時間のすべてを在宅勤務にすることを指します。部分在宅勤務は就業時間の一部を在宅勤務にします。顧客訪問や会議など、必要に応じて出社、外出しますが、仕事の多くの在宅で行います。

在宅勤務は、働き方改革やコストダウンの他、様々な目的で導入されています。現在、急速に注目を集めているのが事業継続です。新型感染症により多くの人がオフィスに集まって仕事をすることが難しくなっています。そんな中で事業を継続するには、在宅勤務をはじめとするテレワークの導入が欠かせません。
しかし、メリット、効果が大きい分、導入のハードルが高いことも事実です。仕事に使用する機材とセキュリティに加え、従業員管理が難しくなります。また、在宅勤務は働き方改革の一環ですが、逆にプライベートがなくなり働きすぎの一因にもなり得ます。

テレワークにはメリットも多くありますが、セキュリティを代表とした懸念も多くあります。従業員管理の懸念については第2回で、セキュリティについては第3回で詳しく紹介します。

テレワークの導入状況

職種別テレワークの意向(在宅勤務、モバイルワーク、サテライトオフィス勤務)

画像:厚生労働省 14,880人を対象とした「平成27年度 テレワークモデルの普及促進に向けた調査研究」

こちらは総務省が平成27年度に実施したテレワーク形態別のニーズ調査です。いずれの職種においても、在宅勤務のニーズが最も強くなっています。訪問が多い営業職については、モバイルワークやサテライトオフィス勤務のニーズが比較的高いことが分かります。

なお、日本政府は「世界最先端IT企業国家創造宣言」において、「2020年には、テレワーク導入企業を2012年度(11.5%)比で3倍、週1日以上終日在宅で就業する雇用型在宅型テレワーカー数を全労働者の10%以上」にすると明確に目標付けています。

総務省の発表によると、企業のテレワーク導入率は2017年で13.9%となっており、その内、在宅勤務が29.9%、モバイルワークが56.4%、サテライトオフィス勤務が12.1%となっています。

現在、新型コロナウイルスの影響を受け、厚生労働省が「働き方改革推進支援助成金」に「働き方改革推進支援助成金(テレワークコース)」を設立しています。これは新型コロナウイルス感染症対策としてテレワークを新規で導入する中小企業事業主を対象に、テレワーク用機器の導入や運用、就労規則の作成や変更、テレワークのための研修にかかった費用の2分の1(最大100万円)を支給するものです。

こうした制度の登場もあり、テレワークの導入率は大きく伸びていくでしょう。テレワーク導入を検討中の方は一度確認してみてください。

厚生労働省「働き方改革推進支援助成金(テレワークコース)」

テレワークの効果

テレワークには、従業員、企業、さらには社会全体にメリットがあります。厚生労働省が行ったテレワーク導入企業を対象としたアンケート次のような効果があるとしています。

【企業側にとっての効果】
・優秀な人材の確保や雇用継続につながった
・資料の電子化や業務改善の機会となった
・通勤費やオフィス維持費などを削減できた
・非常時でも事業を継続でき、早期復旧もしやすかった
・顧客との連携強化、従業員の連携強化になった
・離職率が改善し、従業員の定着率向上が図れた
・企業のブランドやイメージを向上させることができた

【従業員側にとっての効果】
・家族と過ごす時間や趣味の時間が増えた
・集中力が増して、仕事の効率が良くなった
・自律的に仕事を進めることができる能力が強化された
・職場と密に連携を図るようになり、これまで以上に信頼感が強くなった
・仕事の満足度が上がり、仕事に対する意欲が増した
テレワークで始める働き方改革

それでは、テレワーク導入に期待される効果を、企業側、従業員側のそれぞれで見ていきましょう。
総務省はテレワークの導入目的鵜(効果)として、「働き方改革」「コストダウン」「生産性の向上」「人材の確保・育成」「事業継続」の5つを上げています。
こうした効果はモバイルワークやサテライトオフィス勤務にもありますが、やはり一番効果が大きいのは在宅勤務の導入です。

働き方改革

働き方改革とは、働く人が個々の事情に応じた多様で柔軟な働き方を自分で選択できるようにする改革を指し、働き方改革関連法案として施工されています。働き方改革は「一億総活躍社会を実現するための改革」といわれ、首相官邸は次のように説明しています。

働き方改革は、一億総活躍社会実現に向けた最大のチャレンジ。多様な働き方を可能とするとともに、中間層の厚みを増しつつ、格差の固定化を回避し、成長と分配の好循環を実現するため、働く人の立場・視点で取り組んでいきます。
引用:首相官邸

働き方改革が解決する課題は「長時間労働」「非正規と正社員の格差」「労働人口不足」の3つありますが、テレワークの導入により特に「長時間労働」と「労働人口不足」の改善に効果的とされています。
テレワークの導入により、通勤・移動時間が無くなり、生産性が向上することで長時間労働を緩和することができます。また、詳細は後述しますが、育児や介護、障害など様々な事情により働けなかった人に働く機会を与えることができます。

コストダウン

テレワークはコストダウンの観点からも注目されています。テレワーク導入時には環境整備などの初期投資が必要になりますが、通勤や出張の費用を抑えたり、備品購入費やオフィス賃料を削減したりすることができるため、長期的にはコストダウンが見込めます。
また、テレワーク導入時には様々な業務プロセスが見直されます。これまで印刷して印鑑承認が必要だったものがインターネット上で完結するようするなど業務フローの改革、従業員の作業分担や役割、評価体制の明確化されることにより、不要なコストの削減、生産性の向上に繋がります。

生産性の向上

コミュニケーションツールなどのクラウド活用により、生産性が上がることも期待できます。
例えば、これまで訪問営業が基本だったものがWeb会議や電話、チャットに切り替わることで、より顧客とのコミュニケーション機会が増え、営業効率や顧客満足度の向上につながります。
また、情報共有ツールを活用することで、業務の見える化が進み、各種業務や意思決定の速度が上がることも期待されています。

テレワーク導入の懸念として「職場とのコミュニケーション不足」が挙げられますが、業務の見える化が進み、対面ではない分チャットなどで積極的にコミュニケーションがとられ、職場の連携強化にもつながります。事実、テレワーク導入企業の多くは、テレワーク導入により従業員間のコミュニケーションが活発になり、従業員同士の信頼感が高まるという効果を実感しています。

テレワークのメリット(従業員)

画像:厚生労働省 従業員が感じるテレワークの効果 テレワーク導入により、業務に集中できる、生産性・創造性の向上など、生産性に関するメリットを多く感じている

人材の確保・育成

テレワーク導入、特に在宅勤務やサテライトオフィス勤務の導入によって、人材の確保・育成への効果が期待されます。

離職抑制では「育児期間中の従業員」「介護中の従業員」「配偶者とともに転居する従業員」「労働意欲のある高齢者」「通勤が困難な従業員」に対して、テレワークによる雇用継続効果が期待されています。
働く意欲はあるものの、やむを得ない事情で出社・通勤できなくなることは、ライフイベントの中で十分起こり得ます。そうした場合にテレワークという選択肢があれば、雇用を継続することができます。

また、テレワークを導入することで、従業員はより自分に適切な環境で働くことができます。さらに、上司、部下、同僚の目が届かないところで仕事をするため、従業員の自立性、自己管理能力の向上、つまり管理人材の育成にもつながります。

採用や離職率の低下という観点で見ると、テレワーク導入による企業ブランド、イメージの向上や仕事全体の満足度向上の効果も無視できません。
テレワークの導入は、企業が従業員を大切にし、ワークライフバランスの向上を重視しているというメッセージに繋がります。ワークライフバランスの向上による、従業員の仕事に対する満足感やモチベーションの向上も期待できます。
企業ブランドや従業員モチベーションの向上は、採用効率化、離職率低下だけでなく、長期的な業績向上にもつながります。

テレワーク実施によって得られた/得られつつある成果(事業運営面)

画像:厚生労働省 企業が感じるテレワークの効果 テレワーク導入の効果として最も挙げられたのが「人材の確保・育成」

事業継続性の確保

新型コロナウイルスの感染拡大により、現在テレワークに対して最も求められている効果が事業継続性の確保です。
新型コロナウイルスに限らず、災害や感染症の流行などにより、従業員が出社できなくなる可能性は常にあります。テレワークという選択肢がない場合、従業員が出社できなくなると同時に企業活動が停止してしまいます。
こうした事態に備えるには、普段の業務から在宅勤務のようなテレワーク形態を導入し、緊急時にスムーズに事業を再開、継続することが求められます。同時多発テロの際、アメリカでは在宅勤務を導入していた企業のほうが素早く事業を再開できたという例も報告されており、それ以降、テレワークはリスクマネジメントの一つと認識されるようになりました。

日本でも東日本大震災の震災時と計画停電時の業務遂行状況が調査され、テレワークの社内ルールが震災前からあった企業と、そうでない企業では業務への影響が大きく違ったことが報告されています。

震災直後及び計画停電中の業務遂行状況-min

画像:テレワーク相談センター 震災前からテレワークに関する社内ルールがあった企業は61.5%が通常通り業務を行うことができ、ほとんど仕事ができなかったという例は7.7%だった

次回予告:テレワーク導入によくある懸念

今回はテレワーク導入に向けたステップ第1回として、テレワークの全体像を紹介しました。
私自身、改めて記事にする中で、テレワークの効果を再認識しました。特に、生産性の向上や事業継続性の確保については、実際に効果を実感している例が数多くあります。

今、新型コロナウイルスの感染が拡大する中、事業継続に課題を感じている企業は少なくありません。テレワークは、導入しようと思ってすぐに導入できるものではなく、ルール整備など様々な準備が必要になります。
実際に導入するかはともかく、テレワーク導入の準備をすることは決して無駄になりません。

次回はテレワーク導入によくある懸念を紹介します。
テレワーク導入には「セキュリティ対策をどうすればいいのか」「従業員の仕事内容をどこまで管理する必要があるのか「チャットやWebミーティングだけでコミュニケーションは十分なのか」など、様々な懸念があります。そうした疑問を一つ一つ考えていきたいと思います。

第1回:テレワークの概要とメリット
第2回:テレワーク導入によくある懸念
第3回:セキュリティとルール策定
第4回:テレワーク導入に必要なツール
第5回:テレワーク導入事例