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日々新しいビジネスモデルが登場しており、場合によっては既存企業のシェアを大きく奪う場合もあります。
その一つに、シェアリングエコノミーがあります。シェアリングエコノミーとは、「共有型経済」、つまりモノを個人が独占的に所有するのではなく、それを必要とする人たちが共有するという経済のあり方のことです。
民泊という新しい市場を切り開いたAirbnb、雇用形態に改革をもたらしたクラウドワークス、カーシェアで有名になりUber Eats(ウーバーイーツ)という新しいサービスも開始したUberなど、急速に拡大したサービスはいくつもあります。
これらはすべてシェアリングエコノミーという新しいビジネスモデルによるものです。
しかし、新しいビジネスモデルは他にもあります。
そこで今回は、既存業界を大きく変えた「サブスクリプションモデル」というビジネスモデルを紹介します。
サブスクリプションモデルとは
「サブスクリプション」モデルという言葉をご存知でしょうか。
聞き慣れない言葉で少し難しく感じるかもしれませんが、「定額制」や「月額制」サービスと言えば、理解しやすいと思います。
もう少し具体的に言うと、契約期間の定めがある有料会員制サービスなどで、契約期間に対して対価を支払い、商品やサービスを“買う”のではなく、期間を通じて“体験する”というビジネスモデルです。
例えば、弊社のデザイナーはAdobe クリエイティブクラウドというサービスを利用しています。Adobeソフトは単体で数十万円で売られており、様々なソフトを使い分けるデザイナー全員に用意すると大きなコストがかかります。
しかし、Adobe クリエイティブクラウドは、月額数千円~数万円ですべてのAdobeソフトを全員が使えます。
これも代表的なサブスクリプションモデルの一つで、購入すると高額なものが、リーズナブルな月額価格で“体験する”ことができます。
いま、業種・業界やサービス形態をまたいで、このサブスクリプションモデルが広がっています。
サブスクリプションモデルの事例
上記は、Finance&Roboticが作成したサブスクリプションモデルの業界マップです。BtoBのサービスはあまりなじみがないかもしれませんが、BtoC向けにはAppleMUSICやAmazon、スターバックスなど、様々な業種の有名企業がのっています。
では、実際にどのようなサブスクリプションモデルがあるのか、ジャンル毎に見ていきましょう。
◇音楽ダウンロードサービス
音楽業界はいち早くサブスクリプションモデルが広がった業種です。「Apple Music」「Spotify」「Google Play Music」など様々な音楽ダウンロードサービスがサブスクリプションモデルを導入しています。
月額ごとの利用料金を支払うことで、オフライン再生・時間・曲数の制限なくストレスなく視聴が可能です。
注目すべきは、従来の音楽制作会社やCDショップではなく、AmazonやAppleなど、音楽以外の企業がシェアを広げていることです。CDは1枚1000円程度で売られていますが、これらのサービスは無料で利用できるものも多く、既存事業のシェアを大きく奪っています。
ストリーミング配信で音楽業界を一変させたAppleですが、数年前に1曲いくらという販売型のビジネスモデルから、月額いくらというサブスクリプションモデルに切り替えました。
◇動画配信サービス
動画配信サービスもサブスクリプションモデルを導入しており、有名なサービスには「Amazon Prime Video」「Netflix」「Hulu」「DAZN」等があります。映画・ドラマ・スポーツ・アニメなどのコンテンツを月額料金で視聴が可能です。
映像業界も、非常に早くサブスクリプションモデルが広がりました。既存のビジネスモデルでは、最新の映画を見るためには映画館に行って1500円を支払う必要があります。もちろん、そこには独自の価値があり、今でも利用者が多くいますが、月額1000円未満で最新の映画が何本でも、何度でも、自宅で見られるメリットは大きなインパクトがあります。
◇自動車レンタルサービス
サブスクリプションモデルは自動車業界にも進出しています。「タイムズカープラス」「SmartDrive Cars」「Anyca」等が有名で、毎月定額制で自動車をレンタルすることができます。
自動車を購入することは、数百万円の購入費がかかるだけでなく、駐車場代、税金や保険、車検など非常に手間とお金がかかります。
必要な時にだけ借りるサブスクリプションモデルを導入したサービスにはこうした心配がありません。
駐車場代が負担になり、ほとんどの場所に電車で行くことができる都会では、特に注目を集めており、利用者が増えています。
◇飲食サービス
「野郎ラーメン」「ALPHA BETA COFFEE CLUB」「スターバックス」「ザ・ステーキ六本木」 など、まだ一部ですが飲食業界でもサブスクリプションモデルは導入されつつあります。
毎月定額で1日1杯飲食ができるなど、熱狂的ファンにとっては嬉しいサービスです。もちろん、月額費は普通に毎回購入するのに比べて何割も安くなっています。
アメリカの経済紙フォーブスは、スターバックスが導入したサブスクリプションモデルについて、次のメリットがあったといっています。
- 利用者の意見の収集
- 利用者データの分析
- 競合のコーヒー通販会社への対抗
- 収益の安定化
- 計画や予測の正確化
- 現金収入への貢献
- 購買者へのクロスセリングの機会の獲得
後で詳しく紹介しますが、サブスクリプションモデルには様々なメリットがあります。
サブスクリプションモデルが広がる理由
近年、サブスクリプションモデルのサービスニーズが高まる理由としては、大きく2つがあげられます。
1つ目は、モノを“所有”することから“利用”する、“体験”することへの消費者価値観の変化で、これには経済成長が影響しています。
貧しかった戦後の高度成長期において、テレビやクーラー、自動車といったモノを所有することそのものがステータスでした。しかし、現在においては一般家庭へ普及が進み、モノを所有すること自体に価値を感じる消費者が減りました。
ほとんどの人にとって、現代はモノが溢れ所有欲も満たされています。そのため、新たなヒット商品が生まれにくくなってきているのも現実です。
しかし、こういった所有欲が満たされても、車でドライブしたい、通勤中に音楽を聴きたいといった日常的な欲望が無くなることはなく、利用方法、つまりモノが持つ価値の“体験”が重要視されるようになりました。
“所有”から“体験” へという価値観の変化が、サブスクリプションモデルが急速に広がる要因です。
2つ目は、スマートフォンの普及やネットワーク環境の充実化です。
インターネットの進歩により、消費者はニュースやエンタメ問わず自身が欲しい情報を、記事や動画といった自身の好みに合った方法で、欲しいタイミングで好きなだけ得られるようになりました。
変化はこれだけにとどまらず、企業はより詳細な消費者ニーズにコミットしたサービスをリアルタイムに提供できるようになり、消費者はサービスを利用し続ける限り恒常的により良いサービスを利用できるようになりました。
テノクノロジーが「サブスクリプションモデル」のニーズに拍車をかけたと言えるでしょう。
サブスクリプションモデルのメリット・デメリット
なぜ多くの企業が「サブスクリプション」モデルを導入するのでしょうか。そしてなぜ既存企業は従来のビジネスモデルから抜け出せず、新規参入にシェアを奪われてしまったのでしょうか。
ここからは、消費者と企業それぞれの立場からメリット・デメリットを覗いてみましょう。
- 消費者メリット
- 利用している限り常に定額で最新のサービスを利用できる…購入型のサービスと異なり、利用者は常に最新バージョンを利用することができます
- 商品自体ではなく、期間に応じた利用権の購入となるため安価な価格設定が多い
- 不要になればすぐに解約でき無駄な費用が発生しない
- 定額制であるため、利用すればするほど得をする
- 企業メリット
- 継続的で安定した売り上げを見込める
- 月額や年額といった料金体系が明確であり、新規獲得のハードルが低い
- 常に変化する消費者ニーズを把握できる
- 利用した分だけ得をするので、一顧客当たりの利用を促進しやすい
- 企業デメリット
- 早期に解約されればコストを回収できない可能性がある
- 長期利用を促すため、常に新しい企画やコンテンツの導入が必要
- 追加機能の開発コストが高く、機能変更による解約リスクがある
- 消費者デメリット
- 期間に対する契約のため、使わなくても料金が発生する
- 長期的に利用し続ければ購入したほうが安い場合もある
- 商品自体ではなく期間に応じた利用権の購入となるため、解約すると何も残らない
サブスクリプションモデルの導入方法と懸念点
このように、様々なメリット・デメリットがありますが、うまく活用すれば自社の市場において既存ビジネスモデルに確変を起こし、圧倒的な収益性を長期的に見こむことができます。
ただし、既存企業の多くがサブスクリプションモデルに切り替えられないように、企業体質やサービスの性質によって、適していない場合もあります。
サブスクリプションモデルを導入する際に考えるべきことを見ていきましょう。
継続的な価値提供を実現できるかどうか
本来売り切りの商品を、月額固定の分割払いに落とし込むだけではサブスクリプションモデルと言えません。
ニーズやメリット・デメリットでもご紹介したように、顧客獲得のハードルが下がった分、解約リスクも高いビジネスモデルと言えます。そのため、消費者へ可変的で継続的な価値の提供をいかに行っていくのかが重要となります。
従来のプロダクト販売モデルのように、売って終わりではない分、継続的な投資コストはかかるものの、ニーズの変化にリアルタイムにマッチしたサービス提供ができることはおおきな魅力です。
また、顧客ロイヤリティの向上も図りやすいビジネスモデルとなっています。
例えば、Netflixの場合、最初は定額制で映画見放題のサービスとして始まりましたが、現在ではNetflixオリジナル作品が注目を集めています。
ただ安く映画を見るのであれば、Netflix以外の動画配信サービスを利用することもできますが、このオリジナル作品によって、継続的な価値提供を実現しています。
豊富な料金プラン提供できるか
サブスクリプションモデルの魅力を最大限活用するには、複数のプラン、利用体系を用意することが欠かせません。
サブスクリプションモデルの魅力は、新規獲得のハードルが低いことです。実際、多くのサブスクリプションモデルが機能を制限したり、期間を縛ったりすることで無料トライアル版を提供しています。
また、ユーザーのニーズの強さによって、柔軟な利用を促せることも大きな魅力です。
例えば、AmazonのPrime Musicの場合、プライム会員であれば無料で100万曲以上を聴くことができます。しかし、Music Unlimitedという上位版も用意されており、こちらは月額780円で4000万曲以上が聴き放題になっています。
さらに、複数デバイスで使うことができるファミリープランは月額1480円、Amazonエコーの利用者は月額380円など、様々なユーザーにとってメリットのあるプランが用意されています。
このように、参入障壁を下げたプラン、ユーザーのニーズに合わせたプランを用意することは、顧客ロイヤリティを高めるための重要な要素です。
また、こうしたプランを用意することで、顧客と常に繋がり、顧客の利用状況に応じた「プラン変更」を提案できます。アップセル(追加購入・上位版購入などの訴求)が行いやすく、新規獲得以外で収益性の改善を測ることができます。
まとめ
今回は、様々な業界で改革を起こしている「サブスクリプションモデル」というビジネスモデルを紹介しました。
最近注目を集めているとはいっても、サブスクリプションモデルは新しいビジネスモデルというわけではありません。
例えば、賃貸契約の場合、家を購入し所有するのではなく月額制で借りるため、サブスクリプションモデルといえます。また、NHKも月額払いで利用できるという点ではサブスクリプションモデルです。
改革を起こしているサービスはいったい何が違うのでしょうか。
それは、圧倒的価格優位性と、柔軟性です。
賃貸契約でいうならば、月額払いとはいえ、2年間など更新期間の縛りがあります。また、出張で一週間家を空けていたからといって、その分安くなることもありません。もし、更新期間もなく、家にいた期間に対してだけ家賃がかかるようなサービスが登場すれば、新しいビジネスモデルとして不動産業界を大きく変えるかもしれません(そのサービス形態に需要があるかはわかりませんが…)。
今回紹介したように、サブスクリプションモデルは向き不向き、メリット・デメリットはあれ、どんな業界でも導入できるビジネスモデルです。
自社のビジネスの一部でもサブスクリプションモデルにして、より多くの顧客を獲得できないか、収益性を改善できないか、考えてみるのも面白いかもしれません。