マーケティング戦略の基礎を作るフレームワーク

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マーケティング戦略の基礎を作るフレームワーク

マーケティング戦略は「目的を達成するためにどのようにマーケティングを行うか」を考えることです。より具体的には「誰に対し、何を、いつまでに、どれくらいの売上を上げるために、予算やスキル、時間、既存顧客との関係性や製品イメージといったマーケティングリソースをどう活用するか」を考えることです。
なんだか難しそうですね。実際難しくて、簡単にできることではありません。

そこで活用できるのが「フレームワーク」です。
フレームワークは、ある物事に対し制限を設けることで発想を豊かにしてくれます。

制限を設ける事で発想を豊かにするというのは違和感があるかもしれませんね。でも、人間の脳は制限がある方が活発に働いてくれます。
「家の中で白いものを思い浮かべてください」と「冷蔵庫の中で白いものを思い浮かべてください」と聞いた時、どちらも同じくらいの数を思い浮かべることができた、という実験結果があるそうです。絶対数は家の中のほうが必ず多い(冷蔵庫は家の中にあるので)にもかかわらず、不思議ですよね。
この実験が教えてくれることは、私たちは「自由に考えて」「広く考えて」と言われると、十分に考えられないということです。

フレームワークはこの実験でいう「家」や「冷蔵庫」のようなものです。「冷蔵庫」という制限を設けることで、「家」について考えているときには見えなかったものが見えてきます。
いきなり「マーケティング戦略を考えて」と言われても困りますが、「お客さんがお店に来た時に買いたくなるような店内ポップや什器の内容を考えて」と言われたらいろいろなアイデアが出てくると思います。
マーケティング戦略の中には店内ポップや什器のことも含まれていますが、なかなかそこまで考えられないですよね。
フレームワークは制限を課すことで、私たちの思考を深くしてくれます。

それでは、マーケティング戦略に役立つフレームワークを見ていきましょう。今回は「顧客行動・消費行動」に関するものを紹介します。

フレームワークの弱点

フレームワークを紹介する前に、弱点を抑えておきましょう。フレームワークは必ずしも常に最適というわけではありません。

広域な視点が抜け落ちる

広域な視点が抜け落ちる

フレームワークは制限を課すことで発想を豊かにします。それは非常に重要ですが、当然制限の中でしか考えられません。「冷蔵庫の中にある白い物」を考えた時、家の中にある紙や空気清浄機といった白い物は浮かびませんよね。
フレームワークは制限の中で深く広く、抜け漏れなく考えることには適していますが、フレームワークの外を考えるのには向いていません。

「木を見て森を見ず」という言葉があります。山に入って木を見れば細かな質感やそこにいる生き物に気付くことができますが、森の地図を書くことはできません。
今回紹介するフレームワークは、あくまでもマーケティング戦略の一部、「顧客行動・消費行動」に焦点を当てたもので、その中でも特定の行動傾向や一般心理に限って考えるものです。木を見てそこに住むセミについて考えるか、カブトムシについて考えるかといった具合です。森の地図を書いてもカブトムシに関する知見は得られませんし、カブトムシに注目して森の地図を書くこともできません。
フレームワークで考えるのと同時に、少し広い視点においてどういった意味を持つのかも考える必要がありまえす。

行動の傾向までしかつかめない

行動の傾向までしかつかめない

顧客行動・購買行動のフレームワークは、あくまでもそれらを一般化し、指針とするためにあります。これからいろいろなフレームワークを紹介しますが、それらは顧客行動の全てを表すわけではありません。あくまで「そういう人が多いと考えられる」という程度のものです。
そこでぜひやってほしいことが、フレームワークで大まかな顧客行動をつかんだ後、ペルソナやカスタマージャーニーなど、自社における顧客像に落とし込むことです。

「N1分析」という手法がありますが、これはたった一人の顧客を深堀して、それを一般化していくものです。木の例でいうと、木に住むカブトムシの一般的な傾向を考えるのがフレームワーク、それを理想的な一匹のカブトムシの行動に落とし込むのがペルソナとカスタマージャーニーです。一方、N1分析は、特定の一匹のカブトムシの行動から一般的な傾向を推測します。

フレームワークも効果的ですが、特定の顧客の行動が綿密にわかる、インタビューなどで深堀できる状況にあるならN1分析のほうが適切かもしれません。もちろん、N1分析にはその顧客の行動に全体の傾向が大きく左右される(特殊な顧客に対して行うと実際の行動とズレる)リスクもあります。

結局、フレームワークにせよ何にせよ、一つの手法、考え方だけで全てうまくいくということはあり得ません。いろいろな視点から考え、木と森の全体像をつかみましょう。

顧客行動・購買行動フレームワーク

それでは本題の顧客行動・購買行動フレームワークを紹介します。自社の顧客はどういったフレームワークに近いだろうか、と考えながら読み進めてください。近いものが見つかったら、そのフレームワークを使い、顧客行動をつかんでいきましょう。

AIDA

もっとも古い顧客行動フレームワークが「AIDA」です。アメリカの広告研究科セント・ルイス氏が20世紀初めごろに提唱し、その後何十年も最も一般的な顧客行動として使われてきました。

■Attension(注意):消費者が注目して認知する
■Interest(興味):消費者が興味・関心を持つ
■Desire(欲求):消費者が商品を欲しくなる
■Action(購買行動):商品を購入する

顧客は何らかのきっかけ(多くの場合は広告)でその製品を認知し、それが自分にとって有益であれば興味、関心を抱きます。それがお金を払ってでも欲しいと思ったら(欲求を持つ)、購入します。
非常にシンプルですが、おおよそすべての消費行動はAIDAのステップを踏んでいると考えていいでしょう。お店に行き偶然見つけた商品も、パッケージなどに注意を惹かれ(Attension)、自分に必要かもと思い(Interest)、お金を払う価値があるかを考え(Desire)、購入しています(Action)。
BtoBの対面セールスでも同じ流れを踏みます。商品のことを知り、営業から説明を受ける中で興味を持ち、自社にとって必要だと確信し、購入を決断します。

他のすべての顧客行動フレームワークは、AIDAの要素を含んでいます。最初の認知が広告ではなく口コミだったり、その途中に検索やSNSで評判を調べたりといったステップを挟んだりしますが、かならずAIDAを通ります。
1世紀以上使われていることからも、単なる流行やツール、社会状況による顧客行動ではなく、人間の根源的な特性や欲求に基づいた普遍的なフレームワークと言えます。

自社製品はどのようにAIDAを通っているか、考えてみてください。商品が一度でも売れたら、AIDAを通った顧客がいることになります。

AIDMA

AIDMA

画像:UX TIMES

AIDMAもかなり歴史が古く、1920年代のアメリカでサミュエル・ローランド・ホールが紹介しました。マスマーケティングの顧客行動をより忠実に表しているため、日本でも定番のフレームワークとして使われています。

■Attension(注意):消費者が注目して認知する
■Interest(興味):消費者が興味・関心を持つ
■Desire(欲求):消費者が商品を欲しくなる
■Memory(記憶):商品のことを覚えておく
■Action(購買行動):商品を購入する

テレビCMや雑誌広告、看板広告といったマスマーケティングにおいて、顧客がその場で行動することはほぼありません。
電車の車内広告で考えてみましょう。通勤途中、電車に乗っていてふと前を向いたらキシリトールガムの広告があることに気付きます(Attension)。息スッキリや口臭予防、虫歯予防といったキーワードに関心を持ちます(Interest)。そういえば今日は打ち合わせがあるけど口臭大丈夫かな、そう言えば普段食べているガムが切れていたな、などと考え欲しくなります(Desire)。といってもその場で買うことはできないので、後で駅の売店で買おうと覚えておきます(Memory)。そして、電車を降りて駅の売店に立ち寄り、キシリトールガムを購入します(Action)。
自身の購買行動を振り返ってみても、思い当たる物が多いのではないでしょうか。「記憶しよう」と意識することはあまりありませんが、ちょっとほしいなと思って、「あ、これあの時見たやつだ」と思いだして購入した、という経験はあると思います。

ちなみにMemoryは必ずしもDesireの後で発生するとは限りません。広告を見たときはそこまで欲しいと思わなかったのに、後で売店に立ち寄ったときにふと「そういえば…」と思いだしてほしくなることもあります。

マスマーケティングの大半はMemoryというステップをどこかで挟むので、「バンパイア効果」の懸念があります。バンパイア効果とは、キシリトールガムの広告に有名人を起用したとき、キシリトールガムではなくその有名人のプロモーションにつながってしまう、別のキシリトールガムのプロモーションにつながってしまう、という現象です。
キシリトールガムの広告を見て「あ、あの俳優さんが出てるドラマもうすぐ始まるんだ、帰ったらチェックしておこう」と考えたり、売店に行ってから「どのキシリトールガムだったっけな?これでいいか」と広告で見た以外の商品を買ったりした経験があると思います。
人の記憶はあいまいなので、AIDMAで考えるときはどうやって自社商品のプロモーションにつながるように記憶してもらうかが重要になります。

AISAS

AISAS

画像:B2B Hacker

AISASは日本の広告企業、電通が提唱し2005年に商標登録もしているフレームワークです。AIDMAは1920年代なので、ずいぶん時間が空きましたね。1920年代から2000年頃の間に生まれ、今も使われているフレームワークはほとんどありません。約1世紀、AIDAとAIDMAで十分だったのです。
その状況を変えたのがインターネットです。言うまでもなく、インターネットは顧客行動、消費行動を大きく変えました。また、人によって異なる行動をとるようになりました。そのため、AISAS以降は様々なフレームワークが次々生まれては消えていきます。しかし、それらは役に立たなかったのではなく、消費者の行動が急速に変化、多様化したためです。

■Attension(注意):消費者が注目して認知する
■Interest(興味):消費者が興味・関心を持つ
■Search(検索):検索して情報を調べる
■Action(購買行動):商品を購入する
■Share(共有):購入したものや体験を共有する

このフレームワークはマーケティングの歴史上、非常に衝撃的な発見でした。AIDAやAISASは企業が情報を発信し、顧客が受け止める、一方通行で一度切りの流れでした。
しかし、AISASでは顧客がShareすることで新しいAttentionやSearchを生みます。マーケティングの歴史上はじめて、「顧客が情報を発信する」側になったのです。

私が最近購入したものの例で考えてみましょう。最近、カイロプラクティックのエッセンスを取り入れた椅子を購入しました。家電を見に行った時、たまたま座ったのですが他のどんな椅子より体にフィットして気持ちが良いことに衝撃を受け、その場で購入しました。この行動はAIDAで説明できますね。
なんかよさそうな椅子があるな(Attension)と思い、什器の説明を見ると姿勢が正されて長時間座ってもしんどくないことを知って興味を持ちました(Interest)。いざ座ってみると衝撃的なまでに体にフィットして、すぐに欲しくなり(Desire)、購入してしまいました(Action)。
AIDAのように昔からあるフレームワークを「古いから役に立たない」と考える人も少なくありませんが、そんなことはありません。今でも顧客行動の本質はAIDAにあります。

問題はその後です。私はそれを購入し家に届いた後、SNSでShareしました。その投稿を見た友人も欲しくなり、いろいろ調べているようです。
AIDAやAIDMAは顧客が情報を発信することを考慮していませんが、私(顧客)が発信した情報が次の購買行動を生んでいます。AISAS以降のフレームワークはこの現象を説明できるため、衝撃的な発見なのです。

AISCEAS

AISCEAS

画像:B2B Hacker

AISASが提唱されてすぐ、それを補完するフレームワークとしてアンヴィコミュニケーションズがAISCEASを提唱しました。なんだか長くなって覚えにくいですが、あまり覚える必要はありません。AISASを少し細かく分けただけです。

■Attension(注意):消費者が注目して認知する
■Interest(興味):消費者が興味・関心を持つ
■Search(検索):検索して情報を調べる
■Comparison(比較):様々な商品を比較する
■Examination(検討):本当に購入すべきか考える
■Action(購買行動):商品を購入する
■Share(共有):購入したものや体験を共有する

これは特に機能価値が高い商品・サービスで使われるフレームワークです。例えば普通の食品はおなかを満たす、栄養を補給するといった基本的な機能価値しか持ちませんが、健康食品の場合、健康を保つ、より良くなるといった機能価値が追加されます。キャベツを複数ブランドで真剣に検討することはあまりありませんが、サプリメントは少し考えますよね。
機能価値が高い商品の場合、「比較」と「検討」段階が重要性を増すのです。

例えば仕事で導入するBIツールやMAツールを考えてみましょう。「最近DXが話題で、MAを導入したほうが良いらしい」という情報をどこからか得てきて、商品、市場に対する認知と関心を持ちます。検索して調べてみると、世の中にはいろいろなMAツールがあるらしいと分かります。この時「とりあえず一番初めに見つけたこれにしよう」と判断するでしょうか?より深く検索して、機能や口コミ、サポート体制などを吟味したうえで判断すると思います。

では、AISCEASに対してはどんなマーケティング戦略が考えられるでしょうか。
まず、検索されたときに自社の製品の情報が見つかるよう、自社サイトのコンテンツを充実させておく必要があります。できればその中でレビュー等を表示できるといいでしょう。アフィリエイトプログラムなどを利用して、ブロガーさんに紹介記事を書いてもらえるようにするのもいいかもしれません。
比較、検討するときに自社が選ばれるだけの十分なコンテンツを用意することがAISCEASにおけるマーケティング戦略の基本です。
AISCEASがよく話題になっていた時代は個人ブロガーやアフィリエイト、比較サイトなどが次々登場していた時代です。もちろん、これらは現在も十分活用できます。

VISAS・SIPS

SIPS

画像:webma

VISASは2010年にBusinessアナリストの大元隆志氏が提唱し、SIPSは2011年に伝通コミュニケーションが提唱しました。どちらもSNS時代のマーケティングと呼ばれていますが、微妙に切り口が違います。

■Viral(口コミ):消費者の口コミによって、別の消費者が認知する
■Influence(影響):口コミの投稿者に影響される
■Sympathy(共感):口コミの内容に共感する
■Action(購買行動):商品を購入する
■Share(共有):購入したものや体験を共有する

非常に面白いですね。AIDAやAIDMAは企業がメッセージを発信し、認知させることから始まりましたが、VISASではもう企業のメッセージはどこにも出てきません。
最近自分が経験した例にシャンプーがあります。友人が使っているシャンプーをInstagramで投稿しているのを見かけ、ハッシュタグから他にもいろいろな人が使っていることを知りました。その後、近所のスーパーで見かけたので購入しています。企業のメッセージを受けたタイミングはほとんどありません。強いて言うなら商品パッケージがありますが、その程度です。
Influence(影響)というステップがありますが、これは俗にいうインフルエンサーのように、その人個人が持っている影響力はあまり関係ありません。口コミの投稿者とそれを見る人の関係性が重要です。見知らぬ人の口コミよりは友達の口コミのほうが影響されやすいでしょう。

■Sympathize(共感):SNSなどを通じて商品に共感する
■Identify(確認):共感した商品の正しさを確認する
■Participate(参加):「いいね」や購入といった方法で参加する
■Share & Spread(共有・拡散):購入したものや体験を共有する

SIPSはよりSNS時代の行動を反映しているといえます。これまで、一貫して目標とする行動はAction(購買行動)でした。しかし、SIPSではParticipate(参加)となっています。これは、あるコミュニティに加わることや賛同を示すことが、購買と同じくらい重要になったことを表しています。
SNSの投稿に「いいね」を押すことは、自分がその投稿の内容に共感したことを周囲にアピールすることと同じです。SIPSで考えると、「必ずしも購入してもらう必要はない」という自由な発想を手に入れることができます。SNSではいいねやリツイートでプレゼントするキャンペーンが多く開催されていますが、それらはSIPSに基づいているといえるでしょう。
また、Search(検索)ではなくIdentify(確認)となっていることも重要な点です。その商品のことを知るのに、必ずしも検索する必要はありません。ブランド名のハッシュタグ投稿だけで価値を確認する手段になり得ます。友人が投稿している商品の内容を他の友人も言っていたら、たとえ数人でもその情報が確かであると確信できるでしょう。

VISASとSIPSはどちらもSNS時代において、消費者を主軸に置いたフレームワークです。

ULSSAS

ULSSASはSNSマーケティング企業のホットリンクが提唱した、SNS時代における包括的なフレームワークです。VISASやSIPSも利用機会が多いですが、実際にマーケティング戦略を作るときはULSSASを使うことが多い印象です。AISCEASと同じく、利用価値が高い商品の場合は特に重要になります。

■UGC(ユーザー投稿コンテンツ):消費者自身の投稿で認知する
■Like(いいね):投稿に対し「いいね」をつける
■Search1(SNS検索):ハッシュタグなどSNS内で検索する
■Search2(Google/Yahoo!検索):より詳しい情報を検索エンジンで調べる
■Action(購買):商品を購入する
■Spread(拡散):購入した商品を投稿・拡散する

マーケティングの関係をざっくり表すと「企業→個人」という時代から「企業⇔個人」になり、SNSによって「個人⇔個人」と変化していきました。ULSSASを提唱したホットリンクは、この関係をユーザー同士の「n対n」の関係と呼んでいます。

ULSSASも実際の例で考えてみましょう。ぜひ自分の例で考えてみてください。ULSSASに沿った行動をしている例がおそらく見つかると見ます。できれば、自社商品の場合でも想像してみてください。

私は先日、趣味の音楽機材を購入しました。この購買行動を見てみましょう。まず、友人が新しい機材をTwitterで投稿しました(ガジェットや楽器は「my new gear」と言って投稿するのが当たり前になっています。機能価値や体験価値が高い商品の場合、同じ傾向があると思います)。それを見て、正直あまり興味はありませんが「いいね」をつけておきました。「いいね」はボタン1つ押すだけの軽い行動ですが、デジタルネイティブ世代では重要なコミュニケーション手段でもあります。
続いて、Twitterでその機材名を調べてみました。別に買おうと思ったわけではなく、友人がなぜ買ったのか、どういうものを買ったのか知りたいというニュアンスの行動です。すると結構いろいろな人がその機材を使っていることに気付きます。中には動画でその機材の使い方を紹介してくれている投稿もあります。そういうものを見ているうちにだんだんほしくなってきました。
とはいえ、安い買い物ではないのでちゃんと調べようと思い、Googleで検索しました。この時、公式サイトだけでなくAmazonのレビューやレビュー記事などいろいろなコンテンツを見ました。YouTubeの紹介動画も見ました。
これは良いなと思い、数日考えてからネットで購入。そして私も「my new gear」としてその機材をTwitterに投稿しました。

さて、これは私の例ですが、日常的にSNSを使っている方にとっては特別珍しい行動でもないでしょう。
私はSIPSなどよりULSSASのほうが具体的にイメージしやすいのでよく活用しています。好みや価値観による部分もあるので、自分の場合はどうか、自社商品の場合はどうかを考えてみてください。

DECAX

DECAX

画像:medifund

DECAXは電通デジタルが2015年に提唱したコンテンツマーケティングにおけるフレームワークです。D2Cやサブスクリプションなど最近話題のビジネスモデルでも活用されています。

■Discover(発見):消費者が有益なコンテンツを発見する
■Engage(関係):消費者がコンテンツを発信する企業と関係を深める
■Check(確認):消費者が発信元企業の商品(サービス)を確認する
■Action(行動):消費者が商品(サービス)を購入する
■Experience(体験共有):消費者が体験を共有する

DECAEじゃないかと思うかもしれませんが、発音しやすさや覚えやすさから「Experience」のXになっています。
実際の顧客行動のイメージとしては、ULLSASと近いかもしれません。検索やSNS、ニュースサイトなど、様々な方法で有益なコンテンツとであり、関係を深めていきます。ULLSASよりDECAXのほうが「コンテンツ」に比重を置いているため、メディア戦略やコミュニケーション戦略を重視する場合はよく利用されます。

CasperというD2C企業の例で考えると分かりやすいかもしれません。Casperはアメリカのマットレスメーカーで、量販店などに卸さず直接顧客に販売する形式をとっています。実店舗も展開していますが、主な購入はオンラインで行われています。
10万円近いマットレスをオンラインで売るのは難しそうですよね。Casperも創業当時は失敗するという見方が多かったようです。
しかし、Casperはマットレスベンチャーとして大注目を集め、創業5年で140万人以上の顧客に利用されています。

その秘訣の一部をDECAXで説明することができます。
まず、Casperは「Casper Labo」「Casper Blog」と呼ばれるメディアサイトを持っています。メーカーのメディアですからマットレスの性能についての内容かと思いきや、「睡眠の質を高める方法」「新年の目標を達成する方法」「夜の涼しさを保つヒント」など、睡眠を中心とした健康やストレスフリーといったライフスタイルに関する記事が大量にあります。
そのため、睡眠や健康、ストレスに何らかの懸念を持っているユーザーが検索して解決方法を調べたとき、自然にCasperのコンテンツを発見します。このコンテンツはマットレスの購入時にだけ役立つものではなく、ライフスタイルの充実に役立つものなので、継続的に見に来て関係を深めていきます。
つまり、Casperのようにコンテンツを重視し、見込み顧客のライフスタイルを支援する企業は、購入前から顧客に成功体験を提供していることになります。Casperブログの記事を読み、睡眠の質や生活が改善した人が、もっと良くするためにマットレスを検討した際、Casper以外の選択肢はほとんどないでしょう。
さらにCasperは高品質で安く提供できる理由や、長期の返品保証など、オンラインでの購買不安を払しょくするコンテンツも多く用意しています。こうしたコンテンツはDECAXのCheckにあたります。

CasperはDECAXの最初の2つ「Discover(発見)」と「Engage(関係)」を、「睡眠を中心にライフスタイルを向上させる」というコンテンツで行っています。「Check(確認)」と「Action(行動)」はあくまで購買行動を後押しする程度です。購買前からブランドの熱心なファンになった人たちは、少しの後押しで購買を決断してくれ、積極的にお願いしなくても「Experience(体験共有)」してくれます。共有された体験が新しい発見を生み、またDECAXのサイクルを回し始めます。

DECAXについても自社の例や自分の行動の例で考えてみてください。コンテンツはブログメディアとは限りません。SNSの投稿かもしれませんし、YouTube動画かもしれません。私自身、DECAXのフレームワークに沿った購買行動はかなり多いように感じています。

ZMOT・FMOT・SMOT

ZMOT・FMOT・SMOT

画像:Google

最後に、ZMOT・FMOT・SMOTの3つを紹介します。これまでのフレームワークと違い、フローではなく、店頭における顧客行動の考え方を表すものです。
ZMOTは2011年にGoogleが、FMOTとSMOTは2004年にP&Gが提唱しました。インターネットサービスの雄と消費者プロダクトの雄が膨大なデータから導き出したものなので、購買行動の中心が店頭である場合は必ず知って起きたいフレームワークです。

まず、ZMOTは「Zero Moment of Truth」の略です。「Moment of Truth」は直訳すると「真実の瞬間」という意味になります。ざっくり言うと「顧客は店頭に来てから買うものを決めるのではなく、来店前にインターネットで情報収集して買うものを決めてから店舗に訪れる」という理論です。

続いて、FMOTは「First Moment of Truth」の略で、「顧客は並べられた商品を見て3~7秒ほどで購入する商品を決める」という理論です。AIDMAで触れた「バンパイア効果」を思いだしてください。マスマーケティングで顧客の認知を獲得したとしても、店頭では別の商品を買ってしまうかもしれません。そのため、「First Moment of Truth」でのマーケティングが重要になります。

そして最後にSMOTですが、こちらは「Second Moment of Truth」の略で、「商品を購入した後に実際に使用して得られる体験」という意思決定の瞬間を表します。ちなみに、FMOTとSMOTを提唱したP&GはFMOT段階の顧客を「ショッパー」、SMOT段階の顧客を「ユーザー」と呼び、明確に区別しています。

まとめると、顧客は店舗を訪れるときにはすでに何を買うか決めていて、商品を見て数秒で購入を確定し、その利用体験で再評価する、というプロセスを表す理論です。
これまでのフレームワークと比べると抽象的ですね。その分、視野が広くなった、木ではなく森を見やすくなった、と考えてください。

まず、ZMOTについて考えてみましょう。顧客は店舗を訪れる前に目当ての商品を決めているわけですから、その段階でアプローチする必要があります。DECAXではコンテンツが、ULLSASでは口コミが最初のプロセスに置かれており、購入行動までに様々な行動を経ていました。他のフレームワークの多くも、最後のステップは「購入・参加→体験・共有」でしたが、購入までのプロセスは多様にあります。

そのため、ZMOTの重要性が高まっているのですが、FMOTの価値が下がったわけではありません。「こんな商品が欲しい」と事前に決めていても、店舗での接触でその決断が変わることは十分あります。また、FMOTとともに提唱されたSMOTに関しては、様々なフレームワークが「共有」というプロセスを含んでいるように、重要性を増してきています。

では、ZMOT、FMOT、SMOTのそれぞれでどんなマーケティング施策が考えられるでしょうか。それぞれをバラバラに見るとピンときませんが、3つ並べると「購入前→購入→購入後」というフレームワークになっています。

購入前については、DECAXで触れたコンテンツマーケティングやULLSASの口コミ戦略が効果的です。「買わせるための施策」ではなく、「買ってもらうきっかけを与える施策」と考えてみましょう。コンテンツマーケティングを「買わせるための施策」と考えると、どうしてもセールス色が強くなります。セールス色が強いと、一般にコンテンツとしての魅力は弱くなります。「買ってもらうきっかけを与える施策」と考え、実際の購入はFMOTに任せてしまえば、より価値のあるコンテンツ、関係構築に役立つコンテンツが企画できるでしょう。

購入について、店頭であれば商品パッケージや店内ポップ、商品名などが重要になります。ECで購入する場合も同じように考えましょう。顧客はコンテンツを通じてすでに自社商品を買おうと考えています。しかし、店舗に行けば似たような競合商品が大量に並んでいて、それぞれ非常に魅力的です。ECでも、ブランド名、製品名で検索しても他ブランドの関連商品が並んで表示されることがほとんどです。
そんな中、どうやって選ばれるかを考えてみましょう。

そして購入後です。SMOTの体験が素晴らしく友人と共有したいという気持ちになってもらえたら、次の購買プロセスに繋がります。どうやって共有してもらうかはいろいろな工夫ができそうですね。
商品パーケージや説明書等にしっかり顧客体験をサポートする内容を盛り込むこともできます。いい商品も適切に使わなければ価値がないので、「ご利用方法」を事務的に書くのではなく、より分かりやすくカスタマーサクセスに繋がるものにできないか考えてみてください。
また、パッケージに自社のSNSアカウントのQRコードを掲載するのもいいでしょう。

実店舗で販売する場合、あまり多くの顧客情報を手に入れることはできません。しかし、インターネットで販売している場合は名前やメールアドレス、Web上の行動履歴など膨大なデータを得ることができます。そうしたデータがあれば、このプロセス、とくにSMOTでの施策はより十字油脂ます。
実店舗で販売する場合のフレームワークと言われていますが、実際にはより多くの購買行動に当てはめられる柔軟なフレームワークです。

フレームワークは実務で使えるか?

今回はいろいろな顧客行動フレームワークを紹介しました。
おそらく、気になっていることは「どのフレームワークが一番いいのか」「本当に実務で活用できるのか」ではないでしょうか。
最後に、この2点に答えたいと思います。

まず、「どのフレームワークが一番いいのか」について、基本的に答えはありません。顧客行動は多様化しており、すべての場合で最適な1つのフレームワークを作ることは不可能だからです。しかし、もし一つしか使えないなら、AIDAをおすすめします。お伝えしたように、すべての購買行動はAIDAのプロセスを経ています。注意(Attention)を得るきっかけが広告ではなく口コミや記事だったり、興味(Interest)を惹く方法が検索だったり、欲求(Desire)に変わる理由がまた別のチャネルだったり、多様化していますがAIDAのプロセスが通用しなくなったわけではありません。他全てのフレームワークはAIDAの応用系と考えていいでしょう。

「本当に実務で活用できるのか」については、フレームワークを適切に活用できるかどうかにかかっていますが、できると答えたいと思います。フレームワークはあくまでも考えやすくするための枠であり、守るべきルールではありません。DECAXを中心に考え、カスタマージャーニーに落とし込み実際の施策を構築した際、少し違うプロセスになっていても問題ないのです。
あくまで考えやすくするための枠、と考えた場合、フレームワークは非常に強力で、マーケティング戦略の全体像や個々の施策を考えるときの基盤になってくれるでしょう。