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マーケティングオートメーション(MA)が日本でも年々普及しているなか、自社でも導入を検討している会社も増えているでしょう。ツールを選定するにあたり、製品ごとの機能比較だけでなく、実際に導入している企業がどのようにツールを活用しているのかを知ることは、自社での利用イメージを描くのに役立ちます。
そこで本記事では、MAを導入した企業の背景や導入前の課題、MAによりどのように業務が改善されたのかなど、各社の事例を業種別に紹介します。1回目は、製造業における事例ついてとりあげます。
業界別MA事例紹介~メーカー編~
スズキオート・サウスアフリカ(HubSpot)
スズキオート・サウスアフリカ(以下スズキオート)は、スズキ株式会社により2008年に南アフリカに設立されたスズキの四輪車の輸入・販売を行う代理店です。
同社は2016年、南アフリカ経済の停滞による通貨の下落を背景に、マーケティング予算の大幅な削減を余儀なくされました。少ない予算で成果を高めることを求められていたマーケティングチームは、当時取引のあった企業の勧めもあり、インバウンドマーケティングの手法に着手。それに伴い、インバウンドマーケティングに強いHubSpotを導入することにしました。
スズキオートにとって、当時の大きな課題は現地でのブランド認知度の低さでした。コンパクトカーや低燃費車などの車種を探している見込客にとって、スズキは最初に頭に浮べるブランドではなかったのです。
そこで同社は、潜在顧客が興味を持つ情報を配信することで、結果的にスズキオートの会社や事業内容を知ってもらうことを目的にコンテンツ施策を開始しました。コンテンツ作成においてはまず、対象を9つのペルソナに分け、それぞれに購買シナリオを設定。シナリオに応じたテーマをもとに、「オートマチック車の燃料の節約方法」や「小型車に大荷物を積み込む方法」といった読者に役立つコンテンツを作成し、ブログ記事や動画、インフォグラフィックなど複数のフォーマットで展開しました。コンテンツ作成においては、必ずCTA※を設置することで顧客情報を獲得し、SNSで拡散することも心掛けました。
※CTA(コール トゥ アクション)…Webサイトの訪問者に具体的な行動に誘導すること。
また、HubSpotのマーケティングアナリティクスダッシュボードで施策の結果を可視化し、改善点を把握することで、それまでの手探り状態から抜け出しPDCAを回していくことができるようになりました。
このような取り組みの結果、Webの月間トラフィックが2,000人から25,000人へと12.5倍に増加し、滞在時間やメールバウンス率も改善するなど目に見える成果が表れてきました。売上高は前年比で21%増加し、市場シェアも1.53%から2.17%に拡大しました。インバウンド施策とマーケティングオートメーションの活用により、ブランド認知の向上から売上の増加にまでにつながった成功例といえるでしょう。
株式会社日立ハイテクノロジーズ(Pardot)
株式会社日立ハイテクノロジーズは、日立グループの中核企業の1つとして、科学・医用システム、電子デバイスシステム、産業システム、先端産業部材といった4つの事業分野を取り扱っています。特に科学・医用システムの製品は世界市場のシェアも大きく、高い製品力を誇っています。
同社が抱えている課題は、科学・医用システムにおいて、お客様の更新時期に合わせたタイムリーなアプローチの実現とグローバル化の加速でした。お客様の情報収集は更新時期に合わせて短期間で行われる一方で、製品の更新までの期間が長く、タイミングを掴むためにはお客様との関係維持が重要です。そのため、会員制サイトを作り、コンテンツの配信等も行っていましたが、会員にとって使いやすさに課題がありました。
そこで同社は、会員サイトをSalesforceのCommunity Cloudに移管することを決め、それに伴い同じプラットフォーム上で使えるPardotをあわせて導入しました。
Pardotの利用によりまず改善されたのが、メール配信業務の効率化と質の向上です。導入前はメール配信リストをExcelにより管理していたため、配信停止のチェックや配信先選定などに数時間かかっていましたが、Pardotにより数クリックで完了できるようになりました。効率化された分、コンテンツ作成に時間をかけることができ、メールの種類を増やしながらA/Bテストを続けた結果、メールの開封率が10%から14~15%にまで向上しました。
もう一つの大きな成果は、新規顧客開拓の効率化です。Pardotにより数段階のステップメールを配信し、最後まで到達した見込客に対し電話でアポを取得、営業へ引き渡すというような一連のシナリオに沿ったフローを実施しました。その結果、確度の高い見込客を選定し、営業へ供給するという流れができるようになりました。MAとSFAを組み合わせることで、マーケティングから営業までの業務改善につながったのです。
三光製作株式会社(Kairos3)
三光製作株式会社は静岡県にある「めっき」を中心とした表面処理メーカーです。同社では、見込客からの問い合わせを増やすため、オンライン・オフラインのどちらの施策にも力を入れています。オンラインでは、役に立つようなWebコンテンツや定期メールの配信、オフラインではイベントの企画や出展を行っています。
同社では、リーマンショック後に取引先が減少したことを機に、下請けではなく自立した企業を目指そうと、営業戦略を変える必要性を感じていました。新たな強みとなる独自の製品を開発し、浜松以外にも営業範囲を拡大したいと考えていた時期、Kairos3のことを知ります。Kairos3を使い顧客のWebでの行動履歴がわかれば、提案の準備も効率化できると考え導入を決意しました。
もともと使っていた名刺管理ツールがKairos3と連携できることから、展示会後に会場で獲得した名刺をMAに取り込み、お礼メールや定期メルマガを送るという施策を行いました。また、メールの配信後にWebの行動履歴を見て顧客のニーズを把握し、フォローの方法や提案方法を決めるようになりました。
このような取り組みの結果、顧客とのコミュニケーションを深めるだけでなく、しばらくアプローチしていなかった企業から連絡が来るなど、メールをきっかけに商談の機会も増えるようになりました。マーケティングオートメーションを導入することで、営業人数を増やすことなく、営業範囲を広げる足掛かりとなっています。
カシオ(HubSpot)
カシオUK&Irelandは、消費者向けの製品や企業向けのビジネス機器を扱っている企業です。
同社のマーケティングチームは、すでにインバウンドマーケティングを取り入れていましたが、より効率的に行う方法を探していました。MAもすでに導入していたものの、小規模なマーケティングチームには使い勝手が悪く、もっと最適なツールを利用すれば成果があがるのではないかと考えていました。CRMもカスタムのものを使用していましたが、営業担当者のニーズの変化に対応できないなど課題を抱えていました。MA、CRM共に、使い勝手が良く、すぐに成果を出せるシステムを必要としていたのです。
マーケティング担当者が自社にあうシステムを探した結果、インバウンド機能に強く、使いやすいなどの理由で部門内の意見が一致したことから、HubSpotを入れることが決まりました。既存のMAとCRMを移管するため、マーケティング、CRM、セールスのソフトウェアが統合されている「HubSpot Growth Stack」が選ばれました。
マーケティング部門はまず、カスタマージャーニーの作成に着手しました。FAQやガイド、チュートリアルといったコンテンツを提供するランディングページを作成し、新規に見込客の獲得につながるよう、フォームやCTAを設定しました。獲得した見込客は自動的にワークフローに誘導し、興味に応じたメールを配信するシナリオを実施。この育成プロセスを自動化することにより大幅に作業効率が向上しました。
また、以前は有望な見込客を営業に引き渡す経緯で、タイミングを逃してしまうことがありましたが、HubSpotのCRMにより、引き渡した後も見込客の情報が正確に把握できるようになりました。
このような施策により、Webサイトのトラフィックが12%アップし、見込客が496%増えただけでなく、売り上げが26%、収益が9%増加するという成果につながりました。
まとめ
従来のように良い製品を作っていれば売れるという時代ではなくなったといわれる現在、いかに早くニーズのある見込客を見つけ出し、製品の良さを伝えるかということが重要になっています。そのために、MAのようなデジタルツールは今後も重要な役割を担っていくでしょう。今回は製造業の事例を紹介しましたが、業種が近い企業や同様の課題をお持ちの場合、MAが解決の手段となるかもしれません。自社の導入を検討している方は、是非参考にしていただければと思います。
メーカー以外の業種については、下記の記事でMAの導入事例を紹介しています。こちらもぜひ、ご覧ください。