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CRMとは顧客(関係)管理システムのことを意味し、文字通り顧客情報の管理や顧客との関係構築を強化するために使われるツールです。MA(マーケティングオートメーション)と似ている部分もありますが、MAよりも歴史が古く、導入している日本企業も多数あります。一方で、CRMの定義は広くツールの種類も多いため、自社で導入すべきか、導入した場合どのように活用できるのかわからないと感じている方もいらっしゃるかもしれません。
業界別CRM事例紹介
・メーカー編
・建築・不動産編
・卸売・小売業界編
・情報通信編
そこで本記事では、CRMを導入した企業について、導入背景や導入する前の課題、CRMを使うことでどのように業務が改善されたのかなど、企業の事例を業種別にご紹介します。1回目は、製造業についてとりあげます。
CRM導入事例【メーカー編】
三菱ふそうトラック・バス株式会社(Kintone)
三菱ふそうトラック・バス株式会社は、世界首位の自動車メーカーであるダイムラーグループの一つとして、トラックやバスの製造および販売を行っている企業です。
同社は、日本全国におよそ200もの営業拠点をもち、営業部門は、新車販売と車検などのサービス販売を行う2つのグループに分かれています。それぞれの営業担当者は、トラックやバスに関してお客様の声を直接伺うため、全国にある各拠点を日々訪問しています。顧客ニーズを商品に反映するためにも、お客様の意見を聞くことを重視していましたが、1人の営業が1日にコンタクトをとる顧客は数十件以上と多く、実際に訪問できる時間が限られている点が課題でした。
業務を効率化することで、顧客との時間をもっと増やせるのではないか。そう考えた同社は、それまで各拠点でばらばらだった営業管理のシステムを統一化することを決めました。
当時、別会社が統合した経緯もあり、各販売拠点では、それぞれ異なる方法で活動報告や商談管理を行っていました。また、行動管理も営業担当者が各々の方法で行っており、全体の営業活動の進捗把握が難しい状態でした。
拠点ごと、個人ごとに異なる管理方法を統一するには、使いやすく開発のしやすいCRMが必要と考えた同社は、「Kintone」を導入することにしました。使いやすいものであれば現場での利用も積極的に進み、営業管理の効率化や顧客データの分析などが実現できると考えたためです。
導入においては、カスタマイズのしやすさから、作成段階のプロトタイプを各拠点で試してもらい、現場の意見を聞きながら改修をするという方法で進めていきました。その結果、入力の手間が少なく、直感的に使いやすい画面設計で、トラック販売にあったシステムを構築することができました。
全拠点で統一のシステムを導入することで、行動管理や商談管理などの管理業務が効率化できただけでなく、顧客訪問においても、エリアごとに新規開拓や既存顧客の訪問を並行するなど、効率的に拠点を回ることができるようになりました。
また、既存顧客だけでなく見込み客へのアプローチもCRMにより改善しました。それまでは、基幹システムに登録されている情報は既存顧客の本社情報が中心であり、実際に営業で訪問する所在地と異なることもありましたが、CRMの導入により契約前の顧客データも管理が可能となり、見込み客の訪問活動も効率的になりました。営業活動を効率化することでお客様との時間を増やし、データをもとに顧客ニーズの分析を行うという、アナログとデジタルの両面から顧客関係の向上を実現することができました。
鳴海製陶株式会社(Synergy!)
鳴海製陶株式会社は名古屋に本社を置く高級洋食器メーカーです。1946年の創業以来、ボーンチャイナを中心とした技術とデザインで、高品質な商品を提供してきました。
歴史の長い同社ですが、バブル期以降の市場縮小や顧客ニーズの多様化という困難な状況に直面していました。この状況を改善するために、従来のような卸や小売りを通した販売だけでなく、直接お客様に商品を提供したいと考え、ECサイトを立ち上げました。お客様とのコミュニケーション方法は手探りでしたが、ブログやオンライン広告などの施策を行うことで会員数も増えていきました。
会員増加に合わせて売り上げも順調に伸びていったように思われましたが、購買単価や購買頻度から売上分析をした結果、新規会員の獲得コストが非常に高くなっているということが新たな課題として見えてきました。
その課題を解決するために取り組んだのが、CRMの機能をもつ「Synergy!」の活用でした。同社は、すでに会員管理とメール配信のためSynergy!を導入しており、会員情報から購買履歴までデータ連携がされていたものの、あまり活用が進んでいませんでした。そこで改めてベンダー支援のもと、会員獲得コストを下げるべく改善施策に取り組むことにしました。それまで蓄積されていた顧客情報を分析し、利益率の高い既存顧客をターゲットとして注力するという戦略を立案。ステップメールの施策を刷新し、内容や配信のタイミングなどターゲット層にあわせて最適化をしながら、何度かPDCAを繰り返しました。その結果、クリック率、コンバージョン率が約10倍となり、リピート購買率が約20%向上しました。
ツールを入れても思うように活用が進まないという企業もあるかと思いますが、CRMにより顧客データを蓄積する仕組みを作っておくことで、後からでも対策を講じることができます。鳴海製陶株式会社の例からは、CRMの活用方法だけでなく、顧客データを蓄積する重要性がわかります。
日世株式会社(eセールスマネージャー)
日世株式会社は、ソフトクリームのミックスやコーン、その他関連商材を扱うソフトクリームの総合メーカーです。1947年設立と歴史が長く、ソフトクリームを抱える男の子のキャラクターは、一度は見たことがある人も多いのではないでしょうか。
同社は事業目標として、市場シェアをさらに高めていくこと考えていましたが、その実現のために課題となっていたのが俗人的な営業活動でした。顧客管理は営業担当者が各自で行っており、情報共有や進捗の把握が難しい状態でした。ソフトクリームという商品の性質上、顧客の業態はホテルやレストランから娯楽施設や露店まで多義にわたります。そのように多様で変化の速い顧客ニーズを汲み取るには、顧客データの共有や分析が不可欠と考えた同社は、営業活動のプロセスを標準化し、顧客情報を一元管理するためにCRMを導入することにしました。
導入においては、すべてをCRMに切り替えるのではなく、営業管理のみCRMを使い、商品管理や設備管理は既存のシステムのままCRMに連携して使うという運用にしました。営業担当者が各自で管理していた顧客情報をCRMに登録し、データが共有できるようになったことで、活動予定や商談管理もCRM上で簡単に行えるようになりました。
その結果、営業活動が効率的になっただけでなく、進捗状況や顧客情報が可視化され、上司が顧客データを分析したり、アドバイスを行ったりということが可能となりました。
今後はさらに、情報の精度をあげていくことで、顧客ニーズの変化をすばやく察知し、業態ごとの提案や顧客の声を反映した商品づくりを目指しています。
株式会社タカゾノ(Oracle Siebel TACT)
株式会社タカゾノは、東京と大阪に本社を置く医療総合メーカーです。
1963年に薬科機器から事業を開始し、その後業務を拡大。現在は、医療機器や医療システムの企画・開発・製造から販売までを行っています。
同社は2007年、業務拡大のため新たに営業部門、フィールドエンジニア、コールセンターと3つの部門を設立し、それに伴い業務システムを各部門で構築、運用を始めました。しかし、部門ごとに異なるシステムを使用していたため、部門をまたいでの情報共有が難しく、お客様の対応に遅延が生じるリスクや、営業所によってサービスに差が生じるなどが課題となっていました。
このような課題を解消し、サービスの品質と顧客満足度を向上させるには、システムの統一化が必要と考えた同社は、CRMを導入することにしました。CRMの活用にはデータの量と質が不可欠であることから、選定においては、積極的に利用が進むツールであることを重視しました。営業、フィールドエンジニア、コールセンターという異なる3部門のシステムを統一化し、どの部門にとっても使いやすいツールという観点から検討を重ねた結果、「Oracle Siebel TACT」が選ばれました。
導入においては、各部門で5つの基幹システムを並行運用していたことから、一括で切り替えるのではなく、業務管理系などの一部のシステムから本番運用を開始しました。従来の入力方法と異なるシステムのため、現場で戸惑いもありましたが、集合研修を行うなどで運用を促進しました。訪問記録、問い合わせ内容を含め、顧客に関する必要なデータはすべて登録することをルールとして徹底しました。
その結果、蓄積された顧客情報の活用が進み、機器のリプレースのタイミングに合わせた顧客への提案や、導入時期と見込顧客を掛け合わせた営業対象の選定など、顧客情報をもとにした戦略的なアプローチが売り上げにつながっていきました。
今後はさらに顧客の要望を集めて、サポートや提案など顧客満足度の向上につなげていきたいと考えています。
CRM導入事例【メーカー編】まとめ
今回はCRMの導入事例について、BtoB営業が中心のメーカーに焦点を当てて紹介しました。ご紹介した企業のように、製造業においては、長い間良い製品を作り続けていながらも、顧客ニーズをより商品に反映させたい、顧客満足度をあげたいといった考えのもと、CRMが活用されているようです。
CRMやMAなどのITツールは、歴史や伝統といった企業イメージとは相反するように思えますが、業種や企業規模に関わらず広く利用されています。顧客との関係強化やニーズの把握に課題を感じている方は、ツールの利用も改善手段の一つとして検討してみてはいかがでしょうか。