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ソフトウェアの種類がデスクトップアプリからスマホアプリ、ブラウザアプリ、クラウドなどに広がりました。
また、AIやビッグデータ、ブロックチェーンやVR/ARなどの新技術の登場。「永久β版」ともいわれる「ソフトウェアは常にアップデートされ続ける」という新常識とユーザーニーズにこたえ続けるサブスクリプション型のビジネスモデル。さらに少子高齢化や教育体制によるエンジニア不足。
こうした時代変化によって、ソフトウェアの開発保守を社内で完結させることが難しくなってきました。
そんな中、注目されているのが「オフショア開発」です。
オフショア開発では、システム開発を海外の企業や現地法人に委託します。システム開発費用を抑えることができるなどのメリットから、近年人気が高まっている開発方法です。
情報処理推進機構(IPA)によると、日本企業の45.6%がすでにオフショアを導入しているといわれています。
しかし、システムという管理が難しいものを海外に委託するとなると様々な懸念もあります。
オフショア開発の大きな懸念は「言語・文化の違い」と「技術力・信頼性」だと思います。
そこで今回は、日本企業が活用している主要なオフショア先を国別に紹介します。
国によって技術力や文化、費用は様々です。これからオフショア開発を検討されるなら、ぜひ参考にしてください。
ベトナム-人気急上昇のバランス型
ベトナムというとまだまだ発展途上のイメージが強いですが、首都ハノイや産業発展のための国家プロジェクトが動いているホーチミンに関しては日本と変わらないレベルのインフラがあります。ハノイランドマークタワーは72階建て350mの超高層ビルで、グローバル企業やテック企業のオフィスがたくさん入っています。
地方に関してはともかく、都心部は先進国といってもいいでしょう。
ベトナムの基本データ
国名 | ベトナム社会主義共和国 |
GDP | 2239億ドル |
言語 | ベトナム語 |
法定賃金 | 442万ドン/月 |
インターネット普及率 | 64% |
検索エンジンシェア | google 95.5% CocCoc 2.4% |
※情報元
GDP: Google・世界銀行
法定賃金:日本貿易振興機構
インターネット普及率:ピュー研究所
検索エンジンシェア:Members
インターネット普及率は65%程ですが、ある程度の都心部であればほとんど普及しているといっていいでしょう。検索エンジンシェアは日本と変わらず、Googleがダントツ1位となっています。
ベトナムオフショアの特徴
ベトナムオフショアには次のようなメリットがあります。
- 人件費が安い
- 時差が少ない(2時間程度)
- 政策としてIT人材の確保が進んでいる
- 英語・日本語スキルが高い
- 親日国である
ベトナムのエンジニアの平均人月単価は30~35万円程度といわれています。オフショア先として人気が急上昇しているためここ数年は大きく上昇しています。それでも日本人の人月単価の2分の1程度なので、まだまだコストメリットがあります。
また、コストについては地域差が大きく、急成長中のホーチミンよりも首都ハノイや最近オフィスが増えているダナン等のほうが安い傾向にあります。
しかし最近はコストメリットよりも技術力に魅力を感じて依頼する企業が増えています。ベトナム政府は「2020年までにICT産業を180億ドルに拡大させ、IT技術者を100万人に増やす」という明確な目標を持っています。そのため、有名大学が中心となってエンジニア育成に力を入れています。
また、時差が少ない、親日国である、日本語スキルが高いといったメリットも重要です。オフショア開発に慣れている企業ならともかく、初めてオフショア開発に取り組む場合はコミュニケーションや文化の違いによる心理的不安がネックになります。
中国-最先端テクノロジーを活用
世界最大の人口、世界第2位のGDPを誇る中国は、AIやビッグデータといった分野に強みを持っています。
アリババ、テンセント、バイドゥ、レノボなど誰でも名前を聞いたことがある巨大テック企業、「第2のテスラモーターズ」とも呼ばれるバイトンなど無数のスタートアップ企業、技術力という点では日本を大きく上回っていると思います。
アメリカのITプラットフォーマーを指す「GAFA(Google、Amazon、Facebook、Apple)」と比較して、中国のITプラットフォーマーを「BATH(バイドゥ、アリババ、テンセント、ファーフェイ)」という言葉が登場するほど、高い技術力が期待できます。
中国へのオフショア開発は、コストメリットよりも、日本では実現できない世界で通用する最先端の技術力を期待して委託することが増えています。
中国の基本データ
国名 | 中華人民共和国 |
GDP | 12兆24億ドル |
言語 | 中国語 |
法定賃金 | 2,420元/月 |
インターネット普及率 | 61.2% |
検索エンジンシェア | 百度 71.4% Shenma 15.4% |
※情報元
GDP: Google・世界銀行
法定賃金:日本貿易振興機構
インターネット普及率:日本貿易振興機構
検索エンジンシェア:Members
世界経済の中心にいる中国ですが、インターネット普及率はベトナムよりも低くなっています。これは一部の都心部の急速発展に農村部の多くがついていけていないからです。
また、検索エンジンシェアはかなり特殊です。ネット規制の影響もあり、外国のサービスが普及・利用しづらい傾向にあります。
中国オフショアの特徴
中国は人件費が高騰しているため、コストメリットはほとんど期待できません。しかし、エンジニアの数が圧倒的に多いこと、また国を挙げてIT教育に取り組んでおり非常に高い技術力が期待できます。特にAIやビッグデータといった最新技術に強いエンジニアが多く、日本では実現できないサービスも実現できます。
また、オフショア先として人気の国はほとんどが英語でコミュニケーションが取れますが、中国では英語が通じません。中国をオフショア先として利用するときは、高い技術力が期待できますが、コミュニケーションが課題になる可能性があります。
インド-オフショア先としての豊富な実績
アメリカのオフショア先として早くから注目を集めたインドは、急速にITが発達しています。IT企業の有名経営者にはインド出身者が多く、Googleのサンダー・ピチャイ氏、Microsoftのサヤト・ナデラ氏、illustratorやPhotoshopといったクリエイティブソフトウェアを提供するAdobeのシャンタヌ・ナラヤン氏などはインドからアメリカに移りIT企業を大きく成長させた代表的な経営者です。
技術力が非常に高く、エンジニアの地位も高いことからコストメリットは少ないですが、技術力が高いため費用対効果が良いオフショア先として有名です。
また数学に強く、多言語を扱う教育体制があることから、高品質なオフショア先として多くの有名企業が活用しています。
インドの基本データ
国名 | インド |
GDP | 2兆597億ドル |
言語 | ヒンディー語、他多数 |
法定賃金 | 211米ドル/月 |
インターネット普及率 | 40.9% |
検索エンジンシェア | google 81% yahoo 9% Ask 2% |
※情報元
GDP: Google・世界銀行
法定賃金:日本貿易振興機構
インターネット普及率:All ABOUT SEMICONDUCTORS INDUSTRY
検索エンジンシェア:オフショア開発.com
インドの公用語はヒンディー語ですが、国民の40%程度しか話せません。そのため、実際には英語が共通言語として使用されています。また、アメリカと時差がちょうど12時間なので、アメリカのIT企業が24時間体制のサポートや開発を行うために利用されてきました。
インドオフショアの特徴
ベトナムなどと比べると人件費が高く、コストメリットは低いでしょう。しかし、共通言語として英語が普及していることや、アメリカのIT企業のオフショア先として使われてきた経験から、トラブルが少なく、高い品質が期待できます。
一番の魅力はオフショア開発の経験が豊富なエンジニアが多いことです。
また、インドのシステム開発で国内向けは2割程度で残りはすべて海外向けとなっています。インドのIT業界全体がオフショア開発に特化しているといっていいでしょう。
フィリピン-若い力に期待が集まる
経済成長に注目が集まる東南アジアの中でも、フィリピンの経済成長率は年6%を超えています。IT分野の活躍も注目されており、フィリピンのGDPの約5割を占めています。
フィリピンは1億人を超える人口を有しており、平均年齢が24歳と非常に若くなっています。若い働き手が多いことも、オフショア先として注目される理由の一つです。
フィリピンの基本データ
国名 | フィリピン共和国 |
GDP | 3136億ドル |
言語 | フィリピン語 |
法定賃金 | 500ペソ/日 |
インターネット普及率 | 71% |
検索エンジンシェア | google 89% yahoo 10% bing 1% |
※情報元
GDP: Google・世界銀行
法定賃金:日本貿易振興機構
インターネット普及率:Digima
検索エンジンシェア:オフショア開発.com
フィリピンの公用語はフィリピン語ですが、そのほかに80もの言語が使われています。そのため、共通語として英語が用いられることが多く、学校の授業も国語以外はすべて英語です。なので英語によるコミュニケーション不安はないでしょう。
フィリピンオフショアの特徴
フィリピンはまだまだオフショア開発の歴史が浅く、大型のシステム開発案件よりも、HTMLコーディングやスマホアプリの開発などがメインです。実際にオフショア開発を行っている企業には、開発テストを中心に利用していることも多いです。
しかし、大学進学率が高く若い人材が多いという特徴から、大型案件のオフショア先としても利用機会が増えています。
単純な技術力では日本のエンジニアと大きな差はなく、人件費も2分の1程度です。人件費については今後上昇すると考えられますが、まだまだコストメリットが大きなオフショア先です。
ミャンマー-次のオフショアブームのメインストリーム
ミャンマーがオフショア先として注目され始めたのは比較的最近で、ベトナムやインドと比べるとまだまだオフショア経験が少ないという課題があります。しかし、小~中規模案件を中心に確実に実績を積んでおり、まだ人件費も安いことからオフィスを構える企業が増えています。
ミャンマーは2003年にアメリカから全面的な輸入禁止という厳しい経済制裁を課せられ、インフラ整備などが長く遅れていました。しかし、2016年に経済制裁が解除されてからは急速に発展しています。
最初のオフショアブームはインドで始まり、アメリカのIT企業が中心でした。次に日本企業も多く参入したベトナムでのオフショア開発がブームとなりました。
しかし、インドもベトナムもコストメリットが小さくなってきたことを考えると、次のブームはミャンマーになるかもしれません。
ミャンマーの基本データ
国名 | ミャンマー連邦共和国 |
GDP | 693億ドル |
言語 | ビルマ語 |
法定賃金 | 4800チャット/日 |
インターネット普及率 | 30.68% |
検索エンジンシェア | Google 88.95% Baidu 4.54% |
※情報元
GDP: Google・世界銀行
法定賃金:労働政策研究・研修機構
インターネット普及率:世界経済のネタ帳
検索エンジンシェア:Members
ミャンマーオフショアの特徴
ミャンマーは経済制裁の影響もあり、新興国の中でも経済発展が遅れました。インターネットインフラなど、不安な点もありますが、人件費はインドや中国の半分程度であり、コストメリットを求める場合は非常にいい選択肢です。
親日国で時差も少なく、小規模のスポット開発などの委託先として期待できます。ただし、まだまだ停電が多いなど設備面の不安があり、開発経験も少ないことから大規模で長期的な開発を委託するのは難しいかもしれません。
タイ-新興国の中でも高い技術力
タイは仏教徒が多く、国民性が日本と似ているため仕事がしやすいという意見があります。観光地などでは英語や日本語も通じますが、ほとんどは公用語のタイ語が利用されています。
2002年に国がコールセンター事業をバックアップし、日本企業も多くが進出しました。その後、事務作業や製造等様々な業種においてアウトソーシング先として利用されてきました。ソフトウェアのオフショア開発は経験が少ないものの、外国企業の委託先になる経験が豊富なため契約やコミュニケーションでのトラブルは少ないと考えられます。
また、訪日タイ人、タイに住む日本人が多く、そうした人たちにコミュニケーションをスムーズにするブリッジSEとして活躍してもらうことも考えられます。
タイの基本データ
国名 | タイ王国 |
GDP | 4552億ドル |
言語 | タイ語 |
法定賃金 | 308バーツ/日 |
インターネット普及率 | 52.9% |
検索エンジンシェア | google 99% Yahoo! 1.0% |
※情報元
GDP: Google・世界銀行
法定賃金:日本貿易振興機構
インターネット普及率:世界経済のネタ帳
検索エンジンシェア:Members
検索エンジンシェアはほぼGoogleの寡占状態にあります。インターネット普及率も50%を超えており、比較的インフラは整っているといえるでしょう。
タイオフショアの特徴
タイは新興国でありながら、比較的ITインフラが整備されています。首都バンコクでは家庭レベルでパソコンやインターネットが普及しており、リテラシーが高待ってきています。
ただし、日本と同じく少子高齢化による労働人口の不足、若いIT人材の不足が課題になっています。すでに多くの企業がオフショア先として利用しているため、優秀な技術者を確保することは簡単ではないでしょう。
また、システム、ソフトウェアよりはコーディングやデザイン、イラスト制作などに強みを持っています。もともと美意識が高い文化があり、美術大学も多く、副業や趣味で絵を描くことが一般化しています。特にスマートフォンゲームの臨場感あるビジュアルには、タイの制作会社で作られたものが多くあります。
インドネシア-文化の違いを超えれば大きなコストメリット
インドネシアは2億6000万人もの人口を有する非常に大きな国です。さらに離職率も低い傾向にあることから安定した人材確保に向いたオフショア先です。長期的なプロジェクトやシステム保守を委託する場合に向いています。
今はまだコストメリットで選ばれることが多いインドネシアでのオフショア開発ですが、発展途上で人口が多く、インターネット普及率もそこそこ高いことから、今後数年飛躍的な発展も期待されています。
ただし、公用語としてインドネシア語が使われていますが、インドネシアは広大な島国からなるため、地域によって言語や文化に大きな差があります。また、アジア諸国では珍しくイスラム国家です。エンジニアの技術力には定評があるものの、こうした文化の違いは留意してく必要があります。
インドネシアの基本データ
国名 | インドネシア共和国 |
GDP | 1兆16億ドル |
言語 | インドネシア語 |
法定賃金 | 3,940,972ルピア/月 |
インターネット普及率 | 56% |
検索エンジンシェア | google 96.8% Yahoo! 1.7% |
※情報元
GDP: Google・世界銀行
法定賃金:労働政策研究・研修機構
インターネット普及率:訪日ラボ
検索エンジンシェア:Members
インドネシアはモバイル普及率が133%と非常に高く、YouTubeやFacebook、InstagramなどのSNSも普及しています。特に若年層の間でSNSが活発に利用されており、今後ITリテラシーの高い技術者が育っていくことが期待されています。
また、サーバーなどのインターネットインフラについては災害が多い、島国であるといった要因からクラウドの普及が進んでいます。今後のソフトウェア開発にクラウドは欠かせないので、その点でも期待されています。
インドネシアオフショアの特徴
インドネシアでは、2018年の9月に教育省がICT設備援助を全国10地域の学校で行うことを発表しました。首都ジャカルタでは82校を対象にタブレットやインターネット機器が提供されます。
このように、国を押してIT教育を進めていくことから今後の技術力が期待されています。現状ではコストメリットや人材確保が容易な点から、安定したリソース確保が求められるシステム保守で利用されることが多いですが、今後はより大規模で最先端の開発事例も増えてくるでしょう。
主要オフショア開発の委託先まとめ
今回は日本企業の取り組みが進んでいるオフショア開発について、国ごとの特徴やデータを紹介しました。
経済産業省のIT人材の最新動向と将来推計に関する調査によると、日本の労働人口は2019年をピークに減少し、2020年は37万人、2030年には79万人のIT人材が不足するといわれています。しかしソフトウェアは高度化し、必要性も高まっていますから、今後オフショア開発は多くの企業にとって必須の選択肢になってくるでしょう。
オフショア開発の委託先は途上国が中心ですが、途上国はものすごいスピードで発達しています。コストメリットだけに注目していると、オフショア開発を取り入れても人材確保に苦労するでしょうから、今後はより高度で安定した開発を求めるようになると考えられます。
自社のリソース不足に課題を感じている、今は感じていなくても5年、10年後はわからないという方はぜひオフショア開発を視野に入れてみてください。