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動画が伸びている、そんなことは改めて言うまでもありません。SNSを開いても、Webサイトを見ていても、ニュースアプリを開いても、いたるところで動画を目にします。
企業が動画を制作する機会も増えており、Adobe Premiereなどのプロ向けソフトだけでなく、Filmora(フィモーラ)やRICHKA(リチカ)、FlexClipなど、専門家でなくてもある程度の動画を作るサービスも充実してきています。
個人的な印象としては、動画を制作する環境は整ってきたように思います。ほぼ無料から数百万円まで、予算感や目的によって適切に利用できるサービスがたくさんあります。
しかし今、課題になっているのが「動画のプロモーション活用」です。
例えば、動画広告市場は大きく伸びており、2010年は約2600億円、2023年には5000億円を突破するといわれています。
しかし、あくまでもこれは「動画クリエイティブを用いたWeb広告」についてのデータです。YouTube広告やSNS広告などですね。しかし当然、動画の活用方法はWeb広告だけではありません。
様々な活用方法があるにもかかわらず、300万円かけてしっかりと作った動画をコーポレートサイトに載せているだけ、せいぜい数百人くらいにしか見られていない、という企業は意外なほど多いのです。
そこで今回、企業の動画活用について、いくつかの方法や考え方を紹介したいと思います。
動画活用のキーワードは「5G」?
5G、つまり第5世代移動体通信システムについて、最近耳にする機会が多いと思います。Grabでも「【5G革命到来】経営層の7割が認識していないテクノロジーのインパクト」という記事の中で、5Gの仕組みや特徴、社会の変化について紹介しました。
日本は少し遅めのスタートですが、KDDI、ソフトバンク、ドコモなどの大手キャリアが2020年春から夏にかけて順次5Gに対応することを発表しています。
動画活用を考えたとき、5Gというキーワードは避けて通れません。5Gによって、人々が通信速度や通信制限を気にせず動画コンテンツを消費するようになれば、より動画活用のチャンスは広がります。
とはいえ、それはまだ少し先になるでしょうし、動画活用についてだけ考える場合、あまり意識する必要はありません。
動画コンテンツは4Gでもストレスなく見れるからです。5Gの影響が大きいのは、無数の機器をインターネットで管理した際のインパクトが大きい工場(ファクトリーオートメーション)、農業(アグリテック)、移動手段(モビリティ)といった分野が中心です。
後はVRやライブ配信といった、動画よりもさらに新しいメディアは大きく伸びるでしょう。しかしVRやライブ配信を企業が活用するのはまだまだ先になりそうです。あと数年は現在YouTubeやSNSでよく見かける録画編集された2次元の動画が中心となるでしょう。
動画活用のキーワードが5Gであると考えがちですが、冷静に考えるとそうでもありません。これから動画活用を考えるにあたって、5Gをはじめとする次世代の技術に意識を向けすぎるのはおすすめしません。動画はすでにある技術で十分すぎるほど活用機会があります。
企業が動画を作成する目的
まず、企業はどんな目的で動画を作成するのでしょうか。活用方法が決まっていないとしても、企業がお金を投資するということは何らかの目的があるはずです。
まずは企業が動画を作成する代表的な目的を紹介します。それによってかけるべき予算や活用方法が変わってくるので、自社の動画がどの目的で作られたものか考えてみてください。
採用
ここ数年、企業の人手不足は深刻です。求められるスキルがどんどん新しくなるため新しい人材の必要性がどんどん高まっているのですが、少子化の影響で新卒採用の母数が減っているうえ、働き方改革によって以前のように無茶な働き方も通用しなくなりました。
業種・業界、企業規模によって様々ですが、企業の採用単価が100万円を超えることも少なくないようです。1年に10人採用したいなら1000万円もの予算がかかってしまいます。しかも、大手求人媒体にお任せ状態になってしまっており、ミスマッチ採用も大きな課題です。
そんな中、注目を集めているのが採用動画です。求人媒体では、給与や待遇面、メッセージなどを伝えられますが、それだけで企業の魅力、仕事のイメージがつかめるわけではありません。しかし動画であれば、魅力やイメージを十分に伝えることができます。
【株式会社アーバンリサーチ】
こちらはファッションブランド、アパレルショップ大手の株式会社アーバンリサーチの新卒採用動画です。シンプルなメッセージが流れるだけですが、どんな先輩がいて、どういう思いで働いているのかが伝わってきます。
【株式会社ベルク】
こちらは関東を中心に展開するスーパーマーケットの採用動画です。スーパーマーケットの採用で差別化することは難しそうですが、面接の帰りに立ち寄ったスーパーという、ターゲット層の現状にマッチしたストーリーを作ることで、最後の「私の笑顔が活かせる会社」というメッセージが非常に魅力的に映ります。
同じことを他のスーパーがいうこともできます。しかし、こうして動画にすることで、ベルクというスーパーは就職希望者の中で特別な立ち位置になります。
アパレルショップのスタッフもスーパーの店員も、仕事内容や待遇だけでみたらわずかな違いしかありません。そうなると就職希望者は時給や有休などの良し悪しで選ぶことになります。
しかし、採用動画を作ることで、会社の魅力やイメージが具体的になり、就職希望者から選ばれる企業になることができます。
ブランディング
動画活用と聞いた時、真っ先に思いつくのがブランディングだと思います。動画は記憶に残りやすく、商品名や企業名、メッセージを効果的に伝えることができます。採用動画もブランディングの一種と考えられますが、よりブランディングに特化した動画を活用しているのがBtoB企業です。
BtoB企業は顧客単価が高く、検討期間も長い傾向にあります。一般社員から課長へ、課長から部長へまわる稟議などいろいろな手続きが必要になります。さらに、売り上げ規模や顧客数と知名度が比例しません。BtoC企業であれば、売り上げが大きいということは顧客の間で認知されていることとほとんどイコールです。しかし、BtoC企業に素材やツールを提供しているBtoB企業の認知は、売り上げが増えても広がりません。
しかし、BtoB企業は意外なほど認知されてることが重要になります。
【東洋紡株式会社】
こちらは東洋紡の投資家向けのブランディング動画です。東洋紡の製品は私たちが身につけるあらゆるものに使われています。しかし、そのことを私たちはあまり知りません。東洋紡という名前を知っているのは、こうしたブランディング動画の影響が大きいでしょう。上場企業の場合、クライアントは法人でも投資家は個人です。個人への認知度を上げることで資金があつまり、法人への売り上げを伸ばすことができます。
【株式会社カオナビ】
こちらは人材管理システムの「カオナビ」のテレビCMです。人材管理システムは無数にありますが、カオナビはこの非常に優れたブランディング動画で他サービスとの差別化に成功しています。
BIツールの多くはどれも複雑で、パッと説明されただけではイメージが浮かびません。イメージできないということは、一般社員が上司に説明できないということです。その結果、とりあえず安いから、無料版があるからといった理由で選ばれてしまいます。しかし、カオナビのように知名度があれば、細かな説明の必要がありません。どうせ使ってみないとわからないのだから知っているものから選ぼうとなります。つまり、ブランディングによって価格競争から抜け出すことができます。
商品・サービス紹介/マニュアル
商品・サービスの紹介で動画を使う機会も増えています。BtoB企業であれば、以前は数十ページもの資料を打ち合わせの度に持参していました。しかし、最近はタブレットを持って行って動画で説明することが一般的になってきています。BtoCでも使い方ページを作りこむのではなく、動画で簡単に説明する方が好まれます。
【日立グローバルライフソリューションズ株式会社】
こちらは日立の家電サポート動画です。家電の説明書というと、小さな文字で注意事項や仕様が書かれていて、とても読みやすいものではありません。そこで日立は製品の細かな使い方を多くの動画で紹介しています。
冷蔵庫のカテゴリだけで見ても、製氷機の洗い方や節電モードの使い方、操作パネルの使い方、さらにはトラブル解決まで、40個近い動画が用意されています。PDFの取扱説明書しか用意していない企業と比べて、分かりやすさは圧倒的です。
このように、取扱説明書など堅苦しい形式が一般的だった部分を動画というわかりやすい形で伝える機会も増えてきています。
広告・プロモーション
続いては広告・プロモーションを目的とした動画です。冒頭で紹介したように、動画を用いたプロモーションは急速に広がっています。プロモーション動画はテレビCMで古くから活用されていますが、YouTube広告等のWeb広告にも広がり、中小企業でも活用事例が増えています。
最近、YouTube広告ではバンパー広告と呼ばれる6秒動画をはじめ、短くスピーディーに展開するものや、漫画クリエイティブを使ったものなど、テレビCMとは性質が違う動画が増えています。
【大幸薬品株式会社】
除菌グッズのクレベリンは数パターンの動画をテレビCMに活用しています。親しみやすいメロディをうまく活用することで、新しい製品でありながらすでに一定のシェアを獲得しています。動画はYouTubeでも人気となり、100百万回以上再生されているものもあります。
会社案内
会社案内パンフレットを持っている企業は少なくありませんが、最近では会社案内に動画を使う例も増えています。企業の理念や社風、事業内容を取引先をはじめとするステークホルダーに伝えることは非常に重要です。コモディティ化が進む現代では、どういった企業と付き合うかを考える際、理念や社風が大きく影響します。
またパンフレットなどの旧メディアと比較すると、動画は情報量が多いうえ、営業がタブレットを持参したり、コーポレートサイトに載せたりといろいろな活用ができる点も魅力です。
【株式会社クラレ】
こちらは樹脂やフィルムなど原材料の製造をされている株式会社クラレの会社案内動画です。「酢酸ビニル系の樹脂を製造しています」といわれてもどんな企業かイメージできないと思います。しかし、こうして動画の中でクラレの製品が世の中でどのように活用されているか、どういった事業をしているのかがイメージしやすくなります。
社内研修・教育
ある程度の規模の企業であれば、新人研修用のプログラムがあると思います。最近は、こうした社内の研修や教育を動画で行うことも増えています。先輩が付き添って教えることも大切ですが、それでは手間も時間もかかりすぎてしまいます。しかし、一本動画を作ってしまえば、教育コストを大幅に下げることができます。
【PHP研究所】
PHP研究所は新人研修に関するプログラムを提供しており、自社サイト内でも基本的なビジネスマナーなどを学べる動画を用意しています。あまり注目されることがありませんが、教育・研修に動画を活用することは、仕事の品質向上にもつながるため、大きな事業成果が期待できます。
動画の活用方法
企業が動画を作成する目的をいくつか紹介しました。その目的が増えているかというと、全部です。あえて言うなら採用や社内研修が特に増えている印象がありますが、様々な企業が様々な目的で動画を作成しています。
さて、動画を作成したら、次に活用しなければいけません。社内研修や会社案内は主に社内のスタッフが中心に使うものですが、採用やブランディング、プロモーションはちゃんと届けるべき相手に届ける必要があります。
そこで、動画を活用する方法として、YouTube広告とデジタルサイネージの2つを紹介します。
YouTubeの動画広告
採用やプロモーション動画の活用を考えるとき、テレビCMを除けばYouTube広告が最も代表的な活用方法です。
YouTubeは世界最大の動画プラットフォームで、アーティストのミュージックビデオやライブ映像、YouTuberの紹介動画、面白動画、教育動画などあらゆる動画が投稿されています。InstagramやTwitter、TikTokも力を強めている動画プラットフォームですが、TikTokで話題になった動画がすぐにYouTubeにも投稿されるなど、YouTubeが動画視聴の中心になっていることは間違いありません。
実際、10代、20代では90%近くがYouTubeを利用しており、40代でも75%と非常に高くなっています。もちろん企業の動画活用でも、YouTubeが中心的な存在です。
広告・プロモーションではもちろん、最近増えているのが求人、新卒採用にYouTube広告を使う事例です。
【株式会社ダンボールワン】
こちらは石川県の段ボールなどの梱包資材メーカー「ダンボールワン」の求人動画で、YouTube広告で多くの応募を獲得しました。詳しくは「YouTube広告の成功事例3選」で紹介していますが、従業員29名の小規模企業でありながら、YouTube広告経由で28名の応募を獲得するという大きな成果を獲得しました。
YouTube広告はGoogle広告の一部なので、細かなターゲティング設定ができることはもちろん、ディスプレイ広告やリスティング広告のリマーケティングにも活用できます。
数年前まで、YouTubeの動画広告はブランディング向きと考えられていました。しかし、求人をはじめ様々な目的で動画広告が使われ、問い合わせ獲得や購入などより直截的な成果を得た事例も増えています。
デジタルサイネージ
駅構内や車両で見かけるデジタルサイネージは、今後数年間で利用機会が急増すると考えられる、動画の活用方法です。
数年前までポスターやステッカーがほとんどでしたが、ここ数年、大きな駅ではデジタルサイネージが当たり前になっています。駅からするとわざわざステッカーやポスターを張りなおす手間がないうえ、ポスターなどと違って一度に複数の広告主を抱えることができます。広告主にとっては動画という魅力的なクリエイティブで多くのターゲットにメッセージを届けられます。双方にメリットが大きいことから、デジタルサイネージはますます広がるでしょう。
もちろん、鉄道だけでなく、ビルの外観部分、パーキングエリア、道の駅など、デジタルサイネージはいろいろな場所で広がってきています。
さらに、デジタルサイネージは急速に進歩しており、タッチパネル式で視聴者と双方向のコミュニケーションが取れるものや、広告とは関係ありませんが駅構内のトイレの混雑状況がリアルタイムで反映するものなど、インターネットとつながって多機能化しています。
今はまだ純広告のように枠を買い取る形式が一般的ですが、個人のスマートフォンと連動してよりインタラクティブになったり、ターゲティングやフリークエンシーの考え方を導入して運用型広告のようになるかもしれません。
YouTube広告と同じく、デジタルサイネージもブランディングよりの施策と考えられていますが、位置情報ターゲティングに強みのあるDSP広告などと組み合わせ、費用対効果を求める動きも増えてきています、。
2020年は動画活用にチャレンジ!
今回は企業の動画活用をテーマに、動画を作る目的や活用方法を紹介しました。動画を作りたい、作った方がいいという意識があっても活用方法がイメージできないという企業は多くいます。
弊社でも最近、広告主の要望を受けて「デジタルサイネージ×Web広告」をテーマに、ブランディング広告をより成果に結びつける方法を提案しています。
冒頭で紹介したように、動画を活用したプロモーションはますます活発になるでしょう。