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新型コロナウイルスの影響もあってか、動画マーケティングに取り組む企業が増えています。実際、動画マーケティングに取り組むのに最適な時期はありません。
新型コロナウイルスの影響で、人々の多くが「おうち時間」を愉しむため、動画コンテンツに触れています。YouTubeは3月末に、急激な利用者・利用時間増加に対応するため、標準画質の低下措置をとりました。
動画サブスクリプションサービスのNetflixは、2020年最初の四半期で有料会員が1500万人も増加しました。
ご存知の通り、芸能人はじめ多くの著名人も積極的にYouTubeやライブ配信など、動画活用に乗り出しています。
例えばナイキジャパンは新型コロナウイルスの影響を受け、YouTubeアカウントから毎週ライブ配信を実施しています。フィットネスやジムなどは自粛が求められていますが、「自宅でできる」をコンセプトに、ライブ配信という双方向性のあるコンテンツを提供しています。
サンリオエンターテイメントもサンリオピューロランドの臨時休業中を受け、ファン向けのメッセージ動画を公開しました。1.5万回以上もリツイートされ、大きな話題を生んだのでもしかしたら見たことがあるかもしれません。
他にも多数の企業や著名人が動画活用に乗り出しています。この記事を読まれている方は、おそらくこれから動画マーケティングを自社に取り入れようとされているか、取り入れたばかりでこれから成果を伸ばしていこうと考えている方だと思います。
そこで今回、動画マーケティングの基礎である「HHH戦略」について、一緒に学んでいきたいと思います。
Googleが提唱する「HHH戦略」
「HHH戦略」とは、2014年頃からGoogleが提唱している、主にYouTubeを使った動画マーケティングに活かせる戦略です。動画の役割を「Hero」「Hub」「Help」に分けて考え、それぞれに沿った内容の動画を、適切な分量とタイミングで投稿していく戦略です。
一見すると、あまり汎用性のある戦略に見えないかもしれませんが、立ち止まって柔軟に考えると、YouTubeだけでなく他の動画マーケティングはもちろん、多くの業界・業種で活用できる基本戦略です。
SNSによる動画マーケティングや、広告施策などではまた違った戦略がありますが、もちろんそれらにも活用することができます。
特に、YouTubeアカウントを開設し、ファンとの継続的な接触チャネルを構築し、ブランディングから新規顧客獲得、既存顧客のファン化を狙っていく場合は知っておいてください。
それでは、「HHH戦略」の「Hero」「Hub」「Help」をそれぞれ見ていきましょう。
Hero-多くの人を惹きつける動画
まず、「Hero」について。Heroコンテンツとは、その名の通り多くの人を惹きつけるヒーロー的動画を指します。目的は自社の存在をまだ知らないユーザーに認知してもらうことです。
皆さんが目にする動画コンテンツの多くはHero動画だと思います。前述のサンリオピューロランドも、普段見ることのないシーンを前面に押し出すことで、SNS等で拡散され非常に多くのユーザーに認知されました。私自身、サンリオピューロランドは名前を知っている程度の存在だったのですが、自分の記憶に残り、興味を持つきっかけになりました。
また、テレビCMなども、Hero動画といっていいでしょう。
こちらは2013年頃に放映されていたエビアンのCM動画です。「エビアンを飲んで若々しく生きよう」というブランドメッセージを伝えるためのものですが、赤ちゃんのかわいらしさやノリのいい音楽で話題になりました。これを機にエビアンというブランドを特別に感じた人も多いでしょう。
この動画を覚えている方も多いと思います。10年以上前でありながら、いまだに覚えている人がいることが、この動画の素晴らしさを物語っていますね。
iPhone3GはAppleがスマートフォン業界に革命を起こした製品です。当然、まだ誰もiPhoneの存在を知りません。そんな時こそ、Hero動画が必要です。この動画で、「一体何なんだ!?」という印象を抱いた人は多いと思います。このHero動画によって、iPhoneは他のスマートフォンとは違うという認識を浸透させることに成功しました。
振り返ると、iPhoneの広告は今と昔でずいぶん違うことに気づくと思います。最近の新型iPhoneの動画は、「一体何なんだ!?」よりも利用シーンなど具体的な内容が増えています。
これは、iPhone自体の認知が拡大したため、Hero動画ではなく、HelpやHubとなるコンテンツが求められているからです。
このiPhone11の動画は、あまりHero的ではありませんよね。具体的にどう使えるのか、どんな機能があるのか等を伝えています。
一方、iPadProの新しい動画はHeroコンテンツ的です。具体性はありませんが、凄そうな印象を受けると思います。
Hub-ユーザーをコンバージョンさせる動画
人は「こんなの知らなかった」「よくわからないけど凄そう」と思った動画をシェアしたり、もっと他の他の動画も見てみたいと感じます。その時に重要な動画が、Hub動画です。
Hero動画は、商品を売るための動画ではありません。iPhone3Gの動画を見ても、「何これ!?凄そう!」とはなっても、「よし買おう」とはならないですよね。Hero動画で認知を経て、その次の段階が必要です。
これまで、Hubとなるコンテンツは動画ではなくWebサイトだったと思います。テレビCMのようなHero動画を見て、興味をもって検索してもらってWebサイトでコンバージョンしてもらう、という流れですね。
HHH戦略では、動画でコンバージョン、つまり具体的な行動にまでつなげます。
例えば、先ほど紹介したiPhone11の動画はHub動画と言えます。すでにiPhoneのことを認識していて、優れたもの、素晴らしいものということは理解している人に対し、「具体的にこんな風に優れています」「こんな風に使えます」と伝えています。
Heroで漠然と凄そうなイメージを伝え、Hub動画で具体的なニーズに応えることで、購入などの行動に繋げています。
こちらはOnePlusというスマートフォンの動画なのですが、まず上記2本の動画を見てみてください。どちらがHero動画で、どちらがHub動画か、分かりやすいですね。1本目の動画はアニメーションメインでとにかく「かっこいい」「最先端」という印象です。しかし、何ができるのか、何が優れているのか、ピンと来ませんよね。ただ何となく「凄そう」という印象です。
一方2本目の動画にもかっこよさはありますが、非常に具体的です。1本目の動画は「SCREEN」というタイトルに黒い画面が映っているだけでしたが、2本目の動画は男性がニュースを読んでいます。1本目は「凄そう」以外の感想が出てきませんが、2本目は「これならニュースを読むのに便利そうだ」など具体的なメリットを感じます。
カメラのシーンでも、1本目はカメラの構造が分解されてやっぱり「凄そう」というイメージですが、2本目の動画では3倍ズームなど具体的にどう使えるのかがイメージできます。
このように、Hero動画とHub動画は全く役割が違います。
ちなみにOnePlusにはこんな動画もあります。
こちらは、Hub動画とこれから紹介するHelp動画の中間にあたるコンテンツです。細かな説明もかっこいい演出もありませんが、OnePlusのパッケージに何が入っているのかを紹介しています。
これだと大きさや付属品などがイメージしやすく、購入の決断に繋がりそうですね。
Help-動画マーケティングの基礎
動画マーケティングでは、Hero動画で認知を獲得し、Hub動画で行動に結びつけます。しかし、それだけではマーケティング施策として不十分ですし、何よりシェアされたり話題になるHero動画はそんなに頻繁に作れません。
そこで重要になるのがHelp動画で、YouTubeやSNSを使った動画マーケティングの軸になるタイプの動画です。
Help動画は、その名の通り、顧客視点で立ち役立つ動画を指します。動画のクオリティはHero動画ほど高くなくて問題ありませんが、できる限り継続的に配信することが重要です。
こちらはキャノンのカメラ交換レンズのプロモーション動画です。カメラマンがなぜこのレンズを選んだのか、どうやって活用しているのかがイメージできるHelp動画になっています。
カメラのレンズ選びは非常に重要ですが、安い買い物でもなければ、簡単に選べるものでもありません。ユーザーの課題にフィットした動画です。
この動画の魅力は、すでにキャノンのレンズを持っている人や、他メーカーのカメラを使っている人の役にもたつことです。そのため、瞬間的なリーチ数はHero動画に劣りますが、多くのユーザーが継続的に見てくれるので結果として大きな販促効果を持ちます。
一方こちらも同じキャノンのカメラですが、Hub動画となっています。テクニカルな話が多いですが、レンズの性能やメリットがよく分かりますね。
そしてこちらがキャノンのHero動画です。「なんか凄そう」が伝わってくると思います。Hero動画を見て興味を持ち、Hub動画で詳しく知る。それをさらに具体的な利用シーンまでイメージできるHelp動画で購入のきっかけを作るだけでなく、購入後の体験までサポートする。非常にうまく動画マーケティングを活用しています。
一方こちらはロフト公式YouTubeチャンネルで公開されているケチャップライス弁当の作り方。この動画はロフトのファンでなくとも役立つ、まさにHelp動画です。ロフトの製品を持っていなくても役に立つコンテンツであることがみそですね。当然、この動画でロフトの製品は売れません。しかし、役立つコンテンツを提供することで、ファンとの関係性を築くことに成功しています。
こちらは家具メーカーIKEAの動画ですが、HelpとHubの中間的な役割を果たしています。製品のHow toなので、購入者や購入を検討している人には当然刺さりますが、整理術としてそれ以外の人にも価値があります。
Help動画について注目してほしいのは、それぞれのブランドや製品のファンでなくとも、自然に見る機会があるということです。Hero動画も広告やSNSシェアなどでファン以外に届きますが、キャンペーン的にプッシュして届けることが基本になります。
一方、Help動画はユーザーの課題に寄り添っているため、検索結果などから自然に視聴します。役に立つ動画を投稿するだけでなく、ユーザーの検索キーワードを想定してSEO対策のようなことにも取り組む必要があります。
まとめると、
Heroは感動や面白さ、かっこよさなどで多くの人の興味を喚起し、広く認知獲得を目的とした動画。
Hubは企業と視聴者を繋ぐ存在で、Hero動画で認知したユーザーへより具体的な情報を届ける動画。
Helpはユーザーの課題や悩みを解決する動画で、継続的にファンやそれ以外の人との関係性を構築する動画。
となります。
「HHH戦略」の活用方法
さて、「HHH戦略」それぞれの役割が分かったところで、どうやって自社に活用すればいいか考えてみましょう。
今回は、「GrabがYouTubeアカウントを開設したらどんな動画マーケティングを行うか」を考えてみたいと思います。Grabもまだ動画マーケティングには取り組めていないので、一緒に考えていきましょう。
Help-How toを紹介
まず、動画マーケティングの軸となるHelp動画から考えていきたいと思います。Grabのようにノウハウや知識を提供している場合、ここは非常に簡単ですね。いわゆるHow toを継続的に提供していくことになりますが、GrabはメインコンテンツがHow toなのでネタにはこまりません。記事の内容を動画にするだけで、Webマーケティングに課題を持っている多くの方の役に立てると思います。
Help動画は継続的な施策になるため、継続的に続けることができるか、ユーザーの課題にフィットしているかが重要です。
IKEAの場合は、家具によって生活をよくする様々な方法を提供していますし、ロフトはロフトの製品を使った便利な生活の知恵を、キャノンの場合はカメラの使い方、活用方法を提供しています。
このように、ほとんどの製品で関連するHow toは存在するはずです。その課題を解決するための動画テーマを考えていきましょう。
例えば、クリエイティブツールを提供するAdobeは「CC道場」というシリーズの中で、様々なクリエイティブのテクニックや裏側などを紹介しています。Adobeを使う可能性があるクリエイターの課題を解決する取り組みで、300回以上も継続されています。
クリエイターとの関係性はかなり深くなっているでしょう。
Hub-サービスへの適切な誘導を
Hub動画にはどんなものが考えられるでしょうか。Grabは広告代理店アイビスが運営するメディアで、弊社の存在を認知してもらい、弊社サービスを利用してもらうことを目標としています。
そうであれば、Hub動画はサービスの紹介動画が考えられます。例えば、弊社が提供するマーケティングプラットフォーム導入支援サービスの「アイビスマーケティング」では、ランディングページを用意していますが内容が複雑で簡単には理解できません。それを動画にして、アイビスマーケティングでは何をサポートするのか、マーケティングプラットフォームとは何なのかを見てもらうことで、よりサービス内容を理解してもらえるかもしれません。
他にも、弊社で開催しているセミナー/ウェビナーの動画の一部を公開するのもいいかもしれません。セミナー/ウェビナーは知識を提供しながら、弊社サービスの内容も入っているので、HelpとHub両方の役割を果たせます。
多くの場合、Hub動画は製品・サービスの紹介動画と考えていいでしょう。
HubSpotも様々なHub動画を公開しています。こちらはHubSpotが主催する「インバウンド19」の動画ですが、セミナー等と同じく、HelpとHub両方の役割を果たすことができます。
他にも、HubSpotの活用方法など顧客向けのHelp動画、マーケティングテクニックなど見込み顧客向けのHelp動画を用意しています。
Help動画を中心としながら毎月「製品スポットライト」というシリーズ動画を中心に、Hub動画を投稿しています。
Hero-動画広告に使えるクリエイティブ
一番難しいのはHero動画ですね。これはなかなか案がでてきません。Grabという存在を認知させ、さらにシェアされ広がるような動画です。
ブランディング動画と考えれば分かりやすいでしょうか。Grabの魅力は、ライターではなく実際の広告運用担当者やWebディレクター、広告プランナー、デザイナーなど、実務を行っている人間が記事を書いていることです。他メディアと比較すると、更新頻度や単純な読みやすさは劣るかもしれませんが、“役に立つメディア”という点では決して劣っていないと思います。
そうしたメッセージを伝えるブランディング動画がHero的な役割を果たしてくれるでしょう。
バズらせる、SNSでシェアしてもらうと考えると難しいですが、動画広告で使うようなインパクト重視のクリエイティブなら何パターンか想像できそうです。結構予算が必要になりそうなので、簡単には作れませんが、HelpとHubを中心に動画マーケティングに取り組んで、成果が出始めたらぜひ実施してみたいですね。b→dashのようなユニークで話題性のあるHero動画ができれば最高ですね。ちなみに芸能人を起用したユニークなテレビCMで話題のb→dashですが、きちんとHub動画も用意して行動に繋げています。
「HHH戦略」を理解してコンテンツを使い分けよう
今回は、動画マーケティングの基礎である「HHH戦略」を紹介しました。GoogleがYouTubeのために作りだした法則ですが、様々な動画マーケティングに活用できる基本戦略です。
一昔前と比べると、動画制作のコストは大きく下がりました。Help動画やHub動画であれば、専門家に頼まなくてもクラウド型の安価なツールで十分作れそうです。
動画マーケティングが注目されていることは言うまでもありませんが、とりあえず多額の制作費と広告費を投資してHero動画だけ作り、具体的な成果につながらなかった、という例も少なくありません。Hero動画は人々の記憶に残る力はありますが、行動させたり関係性を築いたりする力はありません。大切なことは、Hero動画で認知を獲得し、Help動画を軸に関係性を築き、Hub動画で行動させるという一連の流れ、役割を理解することです。
YouTubeに限らず、動画マーケティングの方法は無数にあります。SNSも最近は写真やテキストよりも動画がメインになってきていますし、動画専門のSNSも登場しています。
Hero動画の制作とプロモーションには、少なくとも数百万円のコストがかかるでしょう。それらを成果に繋げるためにも、「HHH戦略」を理解して、Help動画とHub動画の取り組みも行いましょう。