【ダイナミックプライシング】販売価格をAI(人工知能)が決めている5業種

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【ダイナミックプライシング】販売価格をAIが決めている5業種

今回は、2010年代に入ってから世界的に注目されている「プライシング=価格設定」の新しい手法、「ダイナミックプライシング」をテーマにお送りします。

概念としては古くからある価格設定方法ですが、AIなどの技術革新により、業種の幅を超えて広がっています。

ダイナミックプライシングをスムーズに進めるための“ダイナミックプライシングツール”は今、特にECサイトを運営する際には欠かせないツールのひとつになりつつあります。

具体的にはどのような手法なのか、またそのツールはECサイトの運営にあたってどのような活躍を見せてくれるのか、まとめてみたいと思います。

ダイナミックプライシングとは?=動的な価格設定

「ダイナミックプライシング(Dynamic Pricing)」とは、直訳そのままの「動的な価格設定」を意味する価格設定方法の一つです。

通常は、1つの商品・サービスには固定された価格があります。もちろん、原材料や物価などの変動により、価格が変わることはありますが、基本的には固定されています。
200円のエナジードリンクは、明日も明後日も200円で販売されていることが一般的です。

ダイナミックプライシングは、商品やサービスの価格を固定せず、さまざまな条件に合わせて上下させる手法です。

価格を上下させる条件は様々ですが、一番は需要の高さです。需要が高いときには価格を上げ、そうでないときは価格を下げるというのがダイナミックプライシングの基本的な考え方です。

たとえば、通常100円で販売しているチョコレートがあったとします。このチョコレートをバレンタインの時期に120円にし、需要が下がる夏には80円にします。
料金が多少高くても商品やサービスが売れるときにはしっかり利益を上げ、需要が下がるタイミングであっても価格を下げることで消費者を確保することができます。
この取り組みを行うにあたっては、リアルタイムな社会状況やトレンド、前年までのデータなどを管理・分析し、その時々の需要に合った適正価格をはじき出すAIを搭載したツールが使用されるのが一般的です。

現在、そんなダイナミックプライシングは以下のような分野で実験的に、あるいはすでに実践的に、導入されています。

航空/ホテル

ANAやJALといった航空会社、また観光地のホテルや旅館がダイナミックプライシングを導入しています。
航空チケットや宿泊施設の需要が高まる旅行シーズンにチケット価格を引き上げて、より多くの収益が得られるようにしています。一方、閑散期には価格を損失にならない程度に引き下げています。

スポーツの試合

スポーツの試合は、出場チームや選手の知名度、注目度の高さ、またその日の天候などさまざまな条件で観客数が変化します。これらのデータを分析するシステムを活用し、試合のチケット料金を決定するダイナミックプライシングの取り組みはアメリカ、日本などで行われています。
たとえば日本では、2017年から楽天ゴールデンイーグルスがダイナミックプライシングを取り入れた「チケット料金の変動制」をスタートさせています。

エンターテインメント(テーマパーク)

ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)が他のテーマパークに先駆けて、ダイナミックプライシングを導入することを発表し、話題になりました。USJのようなテーマパークでは、週末や大型連休に大量の人が押し寄せ、平日は閑散としています。そのため、ダイナミックプライシングの技術を活用し、人が多い時にはチケット価格を上げ、少ないときには価格を下げることで、入客数の均一化と売り上げの最大化を狙います。
休日と平日の動員数の落差は、USJだけでなく様々なテーマパーク共通の課題ですから、今後利用が広がるかもしれません。

タクシー

ライドシェア(相乗り)の登場により苦しくなっているタクシー業界ですが、ダイナミックプライシングを導入し対抗する動きが出ています。タクシーも曜日や時間、場所によって利用者の増減が激しい業界です。
しかし、タクシーの需要変化を正確に予測することは難しいため、導入にはタクシー業界に特化したAIツールの開発が必要でしょう。また、運賃は認可制のため柔軟に変更することが難しく、法的なハードルも残っています。
タクシー業界でのダイナミックプライシング活用はまだまだテスト段階ですが、今後が期待できます。

ECサイト

ダイナミックプライシングの導入は、ECサイトでも進んでいます。たとえば、世界最大手のAmazonでは、商品の在庫やその日の購買状況に合わせて1日に250万回以上の“価格調整”を行っているというデータがあります。綿密な価格調整の結果、売上は前年と比べて約27%伸びた、とされています。
日々、商品やサービスの需要の高さを細かくチェックすることで、より高い利益を得るチャンスを逃さない、そんな取り組みが行われているわけです。

“ダイナミックプライシングツール”の活用

これまでの販売実績、その時々のトレンドなどを分析して需要と供給のバランスを分析することはダイナミックプライシングを成功させるために欠かせませんが、今そのための“ダイナミックプライシングツール”が登場しています。

たとえば、日光企画がリリースするECサイト用の「through(スルー)」をはじめ、ホテルや旅館のダイナミックプライシングに特化したメトロエンジン株式会社の「メトロエンジン」などが挙げられます。

【日光企画】「through」
https://throough.com/

【メトロエンジン株式会社】「メトロエンジン」
https://metroengines.jp/

いずれも、商品やサービスを取り巻く状況を分析し、需要と供給のバランスを正確に把握するためのツールです。
たとえばECサイトの場合は商品の在庫数をリアルタイムで把握し、「在庫数が少なくなったら価格を引き上げる」「トレンドが変化する際には旧シーズンの商品の値下げをする」といったことを行い、その時々に最適な価格を提案してくれます。
今、ダイナミックプライシングを導入しようとお考えの方は、要チェックといえるでしょう。

AIによる価格設定「ダイナミックプライシング」まとめ

今回は、急速に注目を集める「ダイナミックプライシング」について、簡単に紹介しました。

ダイナミックプライシングの考え方自体は古くからありました。もともと人と人とが直接取引を行っていた時代では、提供する側と購入する側が話し合い、お互いにとって最適な取引を実現していました。
しかし、企業が価格や在庫を一元管理する現在では、価格=固定という考え方が定着しました。

ダイナミックプライシングの広がりにより、「高いお金を払ってでも欲しい」「安かったら買いたい」という購入者と、「繁忙期は忙しすぎて機会損失が出る」「安くてもお客が来ないよりはいい」という販売者の双方が持つ複雑なニーズが、最適化されるでしょう。

ダイナミックプライシングが広まった要因にはAIの進歩があります。リアルタイムで需要と供給を判断し、最適な価格を提示するには、大量のデータ解析が必要になります。
AIもまだまだ発展途上ですから、ダイナミックプライシングも数年後にはさらに普及し、より便利に、より適切な価格を提示してくれるでしょう。

ダイナミックプライシングは需要と供給に動きがある業界なら、どんな業界でも導入できます。今のビジネスにどのように活用できるか、一度検討してみてはいかがでしょうか。