Web接客という言葉を耳にしたことあるでしょうか。
ここ数年、デジタルマーケティングの分野で注目が高まっている用語です。その言葉からなんとなく意味は想像できるという方もいれば、Webでどうやって接客をするのだろうと疑問に思う方もいるかもしれません。
本記事では、最近特に注目が高まっている「Web接客」について、その意味や求められている背景、実現方法などについてご説明したいと思います。

Web接客とは? Web上で「おもてなし」

「Web接客」とは、文字通りWeb上で接客をすることです。言い換えると、Webに来訪した見込み客に対し、お店の店員や企業の担当者と実際にやりとりをしているような、一人一人にあった対応をしようという考え方や手法を意味します。

例えば、お店を例にして考えてみましょう。実際の店舗では、店員が来訪客に対して「何をお探しですか」と声をかけたり、お客様から「ほかのサイズはありますか?」などと質問を受けたりなど、来訪客とやりとりをすることができます。今まではそのような対応はネットショップでは難しいことでしたが、それをネット上で実現するということが「Web接客」です。

ネットで買い物をしている際に、ポップアップ画面上にクーポンが表示されたり、「セール終了まで残り3時間」といったようなメッセージが表示されたりという経験はないでしょうか?
そのような訪問者にとってお得になる情報を表示し、購入意欲を促すようなものもWeb接客の一つといえます。

そもそも「接客」とは?

Web接客とは何か?
ここまでの説明では、今までのバナー広告とどう違うのだろうかと思う方もいるかもしれません。
では、そもそも「接客」とは何を意味するのでしょうか。

デジタル大辞林によると「接客」とは「客をもてなすこと」とあります。「もてなす」ということは、来店したお客様が目的を達成する、または達成できなくてもなんらかの満足感を得て帰っていくことだといえます。もちろん、Web接客が目指す接客も同じです。Webサイトの訪問者をもてなし、目的を達成してもらう、満足してもらうことが目的です。

※「接客の定義」デジタル大辞林

よって、今までのように一律にセール情報のバナーを出すのではなく、Aという状況のお客様に対してはバナー1を表示し、Bという状況のお客様に対してはバナー2を表示するといったように、見込み客の状況に応じて対応を変えることが重要です。実店舗でも、来店した人全員に同じように声をかけることは接客とは言えませんよね。一人ひとりのニーズ、状況に応じて柔軟に対応することが接客の基本です。これはWebマーケティングでいう「One to One」と呼ばれる考え方です。
柔軟に対応することで、バナーが表示されたときも「広告が煩わしい」ではなく「ほしかった情報が得られた」として満足してもらえます。これがWeb接客の目指す姿です。

Web接客の考え方は「おもてなし」

Web接客というと、ネットショップなどBtoCだけの利用という印象が強いかもしれませんが、最近では特にBtoBでも導入する企業は増えています。Webに来訪した見込み客に対し、ガイドブックやセミナーの案内など、ナレッジを得られる情報を提供したり、見積もりを簡単に申し込めるように促したりといった例です。
見込み客の状況にあったものを提供することができれば、サイト来訪者の満足度は今までよりも高くなるでしょう。どこまで対面のやりとりに近づけるかは施策の内容やツールにも異なりますが、ツールの機能だけでなく、接客する側がどれだけ顧客の情報を得られているか、どれだけ顧客ごとのニーズを把握できているかが影響します。

なお、Web接客と似ている言葉として「オンライン接客」というものがあります。
オンライン接客はネット上で行うすべての接客(アプリやSNS、メールも含む)であるのに対し、Web接客はオンライン接客の一つで、Webの来訪者に対して行うものという考え方もあるようですが、厳密に決められた定義はなく、同義で使われていることも多いようです。

以前はオンライン接客として紹介されていたものでも、現在はWeb接客という言葉が使われていることもあるので、「Web接客」という用語自体が主流になっていることは間違いないでしょう。検索結果で表示されるヒット数を比べても、「オンライン接客」は1,300万件であるのに対し、Web接客は6,000万と多く、Web接客の方が圧倒的にサイト上で使われている言葉であることがわかります。

Web接客が求められる背景

それではなぜ、Web接客が求められるようになったのでしょうか。この背景にはいくつか要因が考えられます。

ニーズの多様化

Web接客では、「接客」という言葉が示すように、単にWebの来訪者に対して一律の対応をするのではなく、個人ごとにパーソナライズ化された対応をするという点が重要です。
本サイトでも何度か触れている「One to One マーケティング」の施策の一つでもあり、このOne to Oneマーケティングが注目されている背景が消費者ニーズの多様化です。

個人の生活スタイルや価値観は、以前のように大多数の人にとって共通したものではなく、多種多様に分かれています。それにより、顧客が価値を感じる商材や購入経路、購買意欲が高まるタイミングなどもあらゆるパターンが存在します。このような消費行動の多様化により、顧客一人一人にあった対応が求められていることがWeb接客が注目される理由の一つといえます。

情報過多の時代

情報過多の時代
現在は、情報過多の時代といわれるように、あらゆるところに情報があふれています。特にネット上では誰もが気軽に情報を発信することができるようになり、情報の信ぴょう性や質の違いはあれども、知りたいことがあればネットから情報を手に入れるのは容易です。

一方で、情報があふれているばかりに、自分に必要でない情報と判断された場合には、来訪客はWebサイトからすぐに立ち去ってしまいます。そのため、Webサイトに留まってもらうには、企業や店舗側は、来訪者に対して価値のある情報を提供していることを瞬時に判断してもらう必要があります。
本来は、ニーズの多様化により、あらゆる顧客にあわせて多種多様な情報をサイトに盛り込みたいと考えてしまいます。しかし、情報が多すぎることになれたユーザーの多くは、情報を無視するプロフェッショナルです。多様なニーズに応えられるよう多様な情報を提供するのは逆効果です。
その結果、一人一人の顧客にあわせて必要な情報を提供することが重要視され、MAやインバウンドマーケティングが生まれた背景と共に、Web接客へのニーズが高まってきたと考えられます。

技術の発達

パーソナライズ化の対応にあわせて、それを実現する技術が発達してきた点も大きな背景と考えられます。
一つは、MAの機能に代表されるように、見込み客の属性や行動情報の取得が可能になり、その情報をもとに施策を変えることができるようになった点です。ポップアップ画面やチャットという手段は以前からありましたが、顧客情報をもとにしてよりパーソナライズが可能になった点で、「接客」としての実用度が高まったと考えられます。

技術の発達

もう一つは、AI技術の発達です。バナーの出し分けやチャットボットと呼ばれるツールは、手動であらかじめシナリオを設定しておくという方法が一般的でしたが、近年ではAIを使って自動で処理を行うことも可能になりました。それにより、ツール使うために必要な作業負荷が減少され、パーソナライズが実現しやすくなったことも要因と考えられます。

広告投資の減少とネット広告費の増大

テレビや雑誌などの広告投資が減少し、ネットの広告が増大しているという傾向が数年前から始まっています。調査結果によると、2018年の広告投資は対前年比で102.2%とわずかに増加していますが、新聞、雑誌、ラジオ、テレビの「マスコミ四媒体広告費」は、前年比96.7%に減少しています。一方、インターネット広告費は116.5%と増加していることからも、従来のマス広告からネット広告に流れが変わっていることが読み取れます。

※「広告投資の内訳・推移」MarkeZineニュース

Webサイトだけでなく、動画やSNS、スマートフォンのアプリなど、広告を掲載するオンライン媒体も年々増えており、なかでも動画広告が特に増加傾向にあるようです。

一方で、インターネット広告費を抑えたいと考えている企業も少なくありません。インターネット広告費は媒体や商材によってもさまざまですが、最低でも月に数十万円は必要な場合が多く、日本の大部分を占める中小企業にとっては大きな投資です。

インバウンドマーケティングやMAを始める企業においても、広告費を抑えたいというのが導入の背景としてよく耳にする理由の一つです。インターネット広告をやっていても、なかなかコンバージョンにいたらなかったり、1件のコンバージョンが商材価格を大きく上回ってしまったりと、費用対効果が感じられないという課題を感じている企業にとって、広告よりも自社サイトを通して得た見込み客の方が、費用も抑えられるうえ、顧客の商材への確度も高いという期待があるためです。

自社サイトのコンテンツをきっかけにWebサイトに来訪してくれた見込み客を逃さないためにも、「Web接客」によりサイトの回遊やコンバージョンを促したいと考えるのは自然なことでしょう。

Web接客を利用する目的とメリット

Web接客が求められる背景にも関連しますが、Web接客は具体的にはどのような目的で利用されているのでしょうか。

コンバージョン率の改善

まず一つには、コンバージョン率の改善です。前述の通り、Web接客では自社のWebサイトに来訪した見込み客に、何らかの行動を起こしてもらうことが目的です。
コンバージョンの定義は企業により異なり、商材の購入だけとは限りません。資料をダウンロードする、セミナーに申し込むなど、見込み客になんらかの行動を促すことで、新規見込み客の獲得や既存客との関係性の維持につながります。
また、コンバージョンにいたらない場合でも、離脱率を減らしサイトを回遊してもらうだけでも意味があります。Web接客は、サイト来訪者の満足度をあげるという点が大きな目的であり、それは企業と顧客双方にとってメリットのあることになります。

コスト削減

Web接客が利用されるもう一つの目的は、売り手側のメリットであるコスト削減です。インターネット広告費の削減だけでなく、カスタマーサポートなどの人件費削減においてもメリットがあります。

過去の問い合わせや行動情報をもとに対応できれば、問い合わせがあった顧客に同じような質問を何度もする必要がなく、それだけ解決も早くなります。
また、チャットボットによる自動処理と組み合わせて使うことで、人の稼働そのものを減らすことができます。特に、営業時間外など人が稼働できない時間にシステムによる自動対応をすることで、単なる企業側のメリットだけではなく、深夜勤務がなくなるという働き手にとってのメリットや、いつでも問い合わせができるという顧客側のメリットにもつながります。

顧客情報の取得

顧客情報をもとに一人一人にあった対応をすることがWeb接客ですが、同時にWeb接客を通して顧客情報を得られることもメリットの一つです。
サイトの来訪者に対し、Web接客でのやりとりを情報として取得することで、その見込み客が何を求めてサイトに訪問したかなどを把握することができます。さらに、Web接客のやりとりで得た情報をMAやCRMに反映させることで、MAによるパーソナライズの精度もあがり相乗効果が期待できます。

Web接客を実現する方法

Web接客のかたち
Web接客を実現するために、現在ではいろいろなツールが登場しています。

Web接客ツール

「Web接客ツール」は、その名の通りWeb接客を行うためのツールです。明確に定義は決まっていませんが、ポップアップ型とチャット型のツールが主にWeb接客ツールとして扱われています。

「ポップアップ」とは、閲覧しているページを覆うように画面の最前面に表示されるウィンドウやバナーのことです。ポップアップ型のWeb接客ツールは、その名の通りWebサイト上にポップアップ画面でメッセージを表示するツールです。
表示できる内容は多岐にわたり、テキストメッセージだけでなく、画像バナーや申し込みフォームなども表示が可能です。

最近ではポップアップ画面で表示されるチャットツールもありますので、厳密には「ポップアップ型」というよりは、訪問者との双方向のやりとりが発生しないツールと考えた方がわかりやすいかもしれません。

おすすめ商品やセール情報などがバナーで表示するといった例は、BtoCに特に多い使い方です。一方、BtoBでは無料のホワイトペーパーや資料の案内を表示するといった使い方があります。

Grabでもユーザーの行動に応じてポップアップを表示することがあります。ポップアップにより、記事を読んでいるユーザーへさらに詳細なコンテンツを紹介することができます。

チャット型とはテキストメッセージのやりとりを通して来訪客に対応するツールです。チャットにはボットと呼ばれるプログラムによる自動処理のタイプと、実際にオペレーターが対応する有人タイプもの、その両方を混在させたものがあります。
ボットによる自動処理の場合は、前述のようにAIによる自動処理のほか、あらかじめ想定する質問や答えのシナリオを設定しておき、来訪者の選択肢によって対応を変えていきます。混在型は、チャットボットでの対応が難しい場合にオペレーターにつなぐという方法です。

よくある例としては、サポート系の利用です。商材に関してFAQを調べていた際に、チャットの画面が表示されたという経験のある人も多いのではないでしょうか。来訪者が早く問題を解決できるので、Web接客として最も喜ばれる使い方の一つでしょう。

筆者が体験した優れたチャット型のWeb接客に、「ヤマト運輸」の再配達依頼があります。以前はドライバーに電話で依頼したり、専用のフォームから申し込む必要がありました。現在ではLINEの公式アカウントでチャットするだけで再配達依頼ができます。

近年では、サポート系以外の利用やBtoB商材での利用も増えています。例えば、過去に閲覧したWebページの情報をもとに、関連するセミナーの案内を表示したり、「何をお探しですか」といった購買前に知りたい情報をチャットで提供したりといった例です。わざわざ問い合わせるほどではないけれども聞いてみたいことがある、という顧客のニーズに役立つ使い方です。

その他「LPO」「MA」「プッシュ通知」

Web接客ツールとして紹介されるケースは少ないものの、顧客情報をもとにWebページのカスタマイズを行うことができるツールはほかにもあります。

その一つにLPO(ランディングページ最適化)があります。「ランディングページ」とはサイトの訪問者が最初にアクセスするページです。入り口ページと同義で使われることもありますが、検索結果や広告のリンク先など、特定のコンバージョンを狙って設計されたページという意味合いの方が強いでしょう。「ランディングページ最適化」とは、目的を達成するためにランディングページを改善していくことを意味します。LPOにも訪問者の属性や行動に応じてパーソナライズできる機能を備えているものもあり、使い方によってはWeb接客としても機能すると考えられます。

また、MAツールにもWeb接客を実現する機能があります。HubSpotでは「スマートコンテンツ」と呼ばれる機能ですが、来訪者の状況によって、Webページの表示内容を動的に変えることができます。
ランディングページに限らず、Webサイトの特定ページの一部を変更するなども可能で、来訪者にあわせた情報を提供するという点ではWeb接客といえるでしょう。もともとMA自体が、One to Oneマーケティングを行う思想において作られたため、Webだけでなくあらゆる場面で接客としての使い方は可能です。

Web接客の方法

MAにはユーザーの行動履歴などに応じて表示するコンテンツを動的に変更する機能を持ったものもある

また、プッシュ通知もWeb接客に利用できる機能です。プッシュ通知とは、パソコンやスマートフォン上でメッセージが表示されるツールです。ブラウザを開く必要がなく、特にモバイルではあらゆる通知方法が選べるため、使っている人も多いのではと思います。
このプッシュ通知においても、顧客の状況にあわせて内容を変えることが可能なツールもあります。最近では位置情報に応じて、店舗に近づいたらプッシュ通知を送るような仕組みがよく利用されています。

Web接客はツールではなく、対面で行うような「もてなし」をWeb上でも実現するものです。そのため、LPOやMA、プッシュ通知はもちろん、導線改善やデザイン改善も「もてなし」のための取り組みであればWeb接客を行っているといえます。

本当の意味での「Web接客」とは

結局のところ、「Web接客」とは、ツールの種類や表示の仕方の違いで定義されるものではなく、お客様のことを考えて使うかどうかという点が重要だと考えます。

その意味では、Web広告も接客ツールになりえますし、接客ツールも単なる広告と変わらないことにもなりえるのではないでしょうか。
顧客の状況をもとに情報を発信する際に、「この見込み客はA商材を購入済みだからB商材のバナーを出そうと」と単純に考えるのか、「この見込み客にはB商材がきっと役に立つからお知らせしよう」と考えるのか、施策を行う際に、その根底にある考えによるといえるのかもしれません。もてなすことが「接客」であるならば、来訪者にとって喜ばれる情報を喜ばれるタイミングで提示することこそが「Web接客」実現における鍵になります。

ニーズの多様化と情報過多の時代、企業はますます物が売りづらくなっているといわれる状況のなか、一方通行の情報発信では、自社のサイトに訪問してもらうことすら難しくなっています。
顧客情報をもとに一人一人にあった対応をすることは、今後ますます重要になっていくでしょう。「Web接客」という言葉を単なるバズワードで終わらせず、「接客」の意味を考えたうえで、データやツールを活用していきたいものです。